魔法(書きかけ)
これは、私と[#dn=2#]が出会って少し経ってからの頃の話。
仕事仲間というには気を許していて、友達と呼ぶにはまだ遠慮があって、お互いになんて呼び合えば良いのか、まだわからずにいた時のこと。
※
心臓の高鳴りが聞こえそうなくらい静かな昼下がりだった。
隣に座る彼女の横顔をじっと見つめる。
丁寧に整えられた眉毛。瞼にきれいに施されたグラデーション、くるんとカールした睫毛。頬紅と口紅は上品な色ながらも、彼女を快活そうに見せていた。
「どうかしましたか?」
長い間、横顔を盗み見ていたことに気づかれてしまったらしい。彼女はデスクワークの手を休め、こちらに体を向けて話しかけてきた。(彼女の真摯な性格がよく出ている)
「あなたは顔立ちも整っているけれど、あなたのお化粧もとても素敵ね」
そう思ったのは、今日で初めてではない。
「あら、ありがとうございます。狩魔検事に褒められると、何でも嬉しいですね」
そう言って彼女は眩しいくらいの笑顔を見せた。
こちらの方こそ、彼女に喜んでもらえるならどんな言葉でもかけてあげたいと思うくらいなのに。
これから私がするお願いは、彼女も喜んでくれるといいのだけれど。
「実は、前から考えていたのだけれど、私もお化粧をしてみたいの。よかったら教えてくれない?」
「ええ!?狩魔検事のお化粧デビューのお手伝い、私でいいんですか?」
「お願いできない?」
「私で良ければ、喜んで」
意を決して告白した私のお願いは、満面の笑顔の彼女によってあっさりと承諾された。
「それで、狩魔検事は次の日曜日とか空いていますか?」
「ええ、今のところ予定はないけど」
「じゃあ、デパートに行きましょう。コスメカウンターで色を見てもらうの、楽しいですよ」
「デパートのコスメカウンターですって!?」
私は思わず声を上げてしまった。以前、興味本位でデパートの化粧品売り場に行ったことを思い出したのだ。売り場にたちこめる香りや、堂々とした美容部員の立ち居振る舞いが、いやがおうにもまだ自分は子供なのだと気付かされているようで、居心地の悪い思いをした。
「私には少し早すぎるわ」彼女といると、自分でも驚くくらい本音が出てしまう。
「そうですか? じゃあ私の家の近くのショッピングモールの雑貨屋さんにしましょうか? 私はよくそこで買ったりしていますよ」
「そこでお願い」
さくさくと話は進み、雑貨店で化粧品を選び、彼女の自宅で私に化粧を施してくれることになった。
(前の日は楽しみすぎてよく眠れなかったのは、ここだけの話!)
そして待ちに待った日曜日。
車で迎えにきた彼女は、仕事の時とは打って変わって、デニムにコットンのシャツというラフな姿で現れた。
一方で、私の格好はおかしいところはないだろうか、と自分の服装を見下ろす。
彼女の車でショッピングモールへ向かう。
「お化粧をして、どんな風になりたい、とかイメージみたいなものってありますか?」
「そうね、『タフで、クールでセクシー』かしら」
「狩魔検事らしいですね」
「その、『狩魔検事』って呼び方、ちょっと他人行儀じゃない?あと、敬語は使わないで」
「すみません、日本で刑事をやっていた父がよく言っていたんです。『検事さんは法廷で正義のために戦っているんだ。尊敬すべきだよ』って」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、戦っているのは私たち一緒じゃない」
そう言って運転席の彼女を見遣ると、一瞬、きょとん、とした後、はにかむように笑みを見せた。
「……私も、そう言ってもらえると嬉しいです」
「じゃあ、こうしない?今日みたいな、プライベートの日は敬語ナシで」
「承知しました。……じゃなくて、わかった、冥」
「そう、それでいいの。[#dn=2#]」
そんなことを話しているうちに、近くのショッピングモールへ着いた。
駐車場を見渡すと、朝早いせいかだいぶ空いているのがわかる。
[#dn=2#]が華麗なハンドル捌きで入り口近くのエリアに車を停めた。
仕事仲間というには気を許していて、友達と呼ぶにはまだ遠慮があって、お互いになんて呼び合えば良いのか、まだわからずにいた時のこと。
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心臓の高鳴りが聞こえそうなくらい静かな昼下がりだった。
隣に座る彼女の横顔をじっと見つめる。
丁寧に整えられた眉毛。瞼にきれいに施されたグラデーション、くるんとカールした睫毛。頬紅と口紅は上品な色ながらも、彼女を快活そうに見せていた。
「どうかしましたか?」
長い間、横顔を盗み見ていたことに気づかれてしまったらしい。彼女はデスクワークの手を休め、こちらに体を向けて話しかけてきた。(彼女の真摯な性格がよく出ている)
「あなたは顔立ちも整っているけれど、あなたのお化粧もとても素敵ね」
そう思ったのは、今日で初めてではない。
「あら、ありがとうございます。狩魔検事に褒められると、何でも嬉しいですね」
そう言って彼女は眩しいくらいの笑顔を見せた。
こちらの方こそ、彼女に喜んでもらえるならどんな言葉でもかけてあげたいと思うくらいなのに。
これから私がするお願いは、彼女も喜んでくれるといいのだけれど。
「実は、前から考えていたのだけれど、私もお化粧をしてみたいの。よかったら教えてくれない?」
「ええ!?狩魔検事のお化粧デビューのお手伝い、私でいいんですか?」
「お願いできない?」
「私で良ければ、喜んで」
意を決して告白した私のお願いは、満面の笑顔の彼女によってあっさりと承諾された。
「それで、狩魔検事は次の日曜日とか空いていますか?」
「ええ、今のところ予定はないけど」
「じゃあ、デパートに行きましょう。コスメカウンターで色を見てもらうの、楽しいですよ」
「デパートのコスメカウンターですって!?」
私は思わず声を上げてしまった。以前、興味本位でデパートの化粧品売り場に行ったことを思い出したのだ。売り場にたちこめる香りや、堂々とした美容部員の立ち居振る舞いが、いやがおうにもまだ自分は子供なのだと気付かされているようで、居心地の悪い思いをした。
「私には少し早すぎるわ」彼女といると、自分でも驚くくらい本音が出てしまう。
「そうですか? じゃあ私の家の近くのショッピングモールの雑貨屋さんにしましょうか? 私はよくそこで買ったりしていますよ」
「そこでお願い」
さくさくと話は進み、雑貨店で化粧品を選び、彼女の自宅で私に化粧を施してくれることになった。
(前の日は楽しみすぎてよく眠れなかったのは、ここだけの話!)
そして待ちに待った日曜日。
車で迎えにきた彼女は、仕事の時とは打って変わって、デニムにコットンのシャツというラフな姿で現れた。
一方で、私の格好はおかしいところはないだろうか、と自分の服装を見下ろす。
彼女の車でショッピングモールへ向かう。
「お化粧をして、どんな風になりたい、とかイメージみたいなものってありますか?」
「そうね、『タフで、クールでセクシー』かしら」
「狩魔検事らしいですね」
「その、『狩魔検事』って呼び方、ちょっと他人行儀じゃない?あと、敬語は使わないで」
「すみません、日本で刑事をやっていた父がよく言っていたんです。『検事さんは法廷で正義のために戦っているんだ。尊敬すべきだよ』って」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、戦っているのは私たち一緒じゃない」
そう言って運転席の彼女を見遣ると、一瞬、きょとん、とした後、はにかむように笑みを見せた。
「……私も、そう言ってもらえると嬉しいです」
「じゃあ、こうしない?今日みたいな、プライベートの日は敬語ナシで」
「承知しました。……じゃなくて、わかった、冥」
「そう、それでいいの。[#dn=2#]」
そんなことを話しているうちに、近くのショッピングモールへ着いた。
駐車場を見渡すと、朝早いせいかだいぶ空いているのがわかる。
[#dn=2#]が華麗なハンドル捌きで入り口近くのエリアに車を停めた。
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