The fathers and daughters
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警察署の玄関を出ると、ミョウジは外気のあまりの寒さに身震いをした。
(もうすっかり冬だなあ……)
12月の身を切るような寒さに肩を竦めながら、そのまま駐車場近くの喫煙所に向かう。
まだ幼い娘のためにも家では禁煙を心がけているが、何かと苦労の多いこの仕事をしていると、仕事中はついついタバコに手が伸びてしまう。
灰皿の近くの壁に寄りかかり、ポケットからタバコとライターを取り出そうとしてーー
「ミョウジ! こんな所で何油を売っているのだ?早く捜査に戻らんか」
「げげっ、狩魔検事!」
叱責を飛ばして来たのは今関わっている事件の担当検事である狩魔豪である。
ミョウジは慌てて今まさに咥えようとしていたタバコを箱に戻そうとするが、焦りのあまりなかなかうまくいかない。
「キサマ……それはタバコか?」
大股でこちらまで近寄って来た狩魔に鋭く睨まれ、ミョウジは観念して渋々頷いた。
「ええ……なかなか禁煙成功しなくて……気が滅入った時につい吸っちゃうんですよねー…」
ははは、と肩を落として力なく笑ってみせるが、狩魔の視線は益々冷ややかになるばかりだ。
「娘がいるのではなかったか?子供がいるなら健康に気を遣わんか」
狩魔から出て来た言葉は意外にも仕事の息抜きに対する非難ではなく、ミョウジの子供を気にかけるもので、少々面食らってしまう。
「そ、そうですよね……一応、家には置かないで娘の前では吸わないようにしてます」
そこでミョウジはああ、と気がつく。
「狩魔検事も、今年娘さんが産まれたんでしたよね。お名前なんてつけたんですか?」
「……知りたいか?」
拒絶されるのを覚悟の上でそう何気なく話を振ってみたが、勿体ぶりながらもやはり意外な言葉を返される。ミョウジは神妙な面持ちで首を縦に振った。
「ええ、是非」
「冥だ。『冥冥之志』の、冥」
「ああ、荀子でしたっけ。『人知れず努力すること』……すごく狩魔検事らしいですね」
以前読んだ本の記憶を手繰り寄せながらそう答えると、狩魔は当然と言わんばかりに胸を張った。
「狩魔家の娘として相応しい名前をつけた。カンペキな結果を出すには、努力さえ人知れず行わねばな」
子供の名付けすらこの狩魔という人間らしさが出ていると感じ、ミョウジは内心苦笑した。
正直なところ、この男の事がとりわけ嫌いという訳ではなかった。かと言って相性が良いという風でもないが、誰に対しても平等に厳しく、犯罪者を裁くことにプライドをかけていること、それから独自の美学を追求しているところ。
そして何より家族を大切にしているのが伺えるのが、早くに妻を亡くし父娘二人で暮らしているミョウジにとって眩しく思えていた。
「……長話をし過ぎたな。とにかく、さっさと捜査に戻るのだな」
「はい、承知しました」
ミョウジが軽く頷くや否や、そう言い捨てて狩魔は踵を返し検事局の方へ向かって行った。
(さて、どうしたものかね)
ああ言われた以上、今日はもう吸う気にならず、今度は落ち着いてタバコを箱に戻す。
一つ大きく伸びをして、先程の狩魔とのやりとりを反芻する。
彼は現在まで不敗の検事として名を馳せていたが、同時に証拠品の捏造などの不正疑惑も持ち上がっている。一部の刑事の間では狩魔の厳しさへの反発と一点の汚れのない経歴から不正を暴こうとする者もいるが、ミョウジとしては決定的な証拠があるわけではないので、あまり賛同できる動きではなかった。
それよりも検事が不正をする隙のない、刑事として完璧な捜査をする。それがミョウジの「正義」だ。
それでももし、もし万が一、狩魔が本当に不正を行っているのであれば、どうか本人の口から直接真相を聞きたいと願っている。
それが叶うまでにどれだけの時間がかかるかわからないけれど。
ーーー長生き、しなきゃだなあ……
娘の為にも、真実の為にも。
ミョウジは箱をくしゃりと握り潰すと、それをゴミ箱へ放り捨てた。
(もうすっかり冬だなあ……)
12月の身を切るような寒さに肩を竦めながら、そのまま駐車場近くの喫煙所に向かう。
まだ幼い娘のためにも家では禁煙を心がけているが、何かと苦労の多いこの仕事をしていると、仕事中はついついタバコに手が伸びてしまう。
灰皿の近くの壁に寄りかかり、ポケットからタバコとライターを取り出そうとしてーー
「ミョウジ! こんな所で何油を売っているのだ?早く捜査に戻らんか」
「げげっ、狩魔検事!」
叱責を飛ばして来たのは今関わっている事件の担当検事である狩魔豪である。
ミョウジは慌てて今まさに咥えようとしていたタバコを箱に戻そうとするが、焦りのあまりなかなかうまくいかない。
「キサマ……それはタバコか?」
大股でこちらまで近寄って来た狩魔に鋭く睨まれ、ミョウジは観念して渋々頷いた。
「ええ……なかなか禁煙成功しなくて……気が滅入った時につい吸っちゃうんですよねー…」
ははは、と肩を落として力なく笑ってみせるが、狩魔の視線は益々冷ややかになるばかりだ。
「娘がいるのではなかったか?子供がいるなら健康に気を遣わんか」
狩魔から出て来た言葉は意外にも仕事の息抜きに対する非難ではなく、ミョウジの子供を気にかけるもので、少々面食らってしまう。
「そ、そうですよね……一応、家には置かないで娘の前では吸わないようにしてます」
そこでミョウジはああ、と気がつく。
「狩魔検事も、今年娘さんが産まれたんでしたよね。お名前なんてつけたんですか?」
「……知りたいか?」
拒絶されるのを覚悟の上でそう何気なく話を振ってみたが、勿体ぶりながらもやはり意外な言葉を返される。ミョウジは神妙な面持ちで首を縦に振った。
「ええ、是非」
「冥だ。『冥冥之志』の、冥」
「ああ、荀子でしたっけ。『人知れず努力すること』……すごく狩魔検事らしいですね」
以前読んだ本の記憶を手繰り寄せながらそう答えると、狩魔は当然と言わんばかりに胸を張った。
「狩魔家の娘として相応しい名前をつけた。カンペキな結果を出すには、努力さえ人知れず行わねばな」
子供の名付けすらこの狩魔という人間らしさが出ていると感じ、ミョウジは内心苦笑した。
正直なところ、この男の事がとりわけ嫌いという訳ではなかった。かと言って相性が良いという風でもないが、誰に対しても平等に厳しく、犯罪者を裁くことにプライドをかけていること、それから独自の美学を追求しているところ。
そして何より家族を大切にしているのが伺えるのが、早くに妻を亡くし父娘二人で暮らしているミョウジにとって眩しく思えていた。
「……長話をし過ぎたな。とにかく、さっさと捜査に戻るのだな」
「はい、承知しました」
ミョウジが軽く頷くや否や、そう言い捨てて狩魔は踵を返し検事局の方へ向かって行った。
(さて、どうしたものかね)
ああ言われた以上、今日はもう吸う気にならず、今度は落ち着いてタバコを箱に戻す。
一つ大きく伸びをして、先程の狩魔とのやりとりを反芻する。
彼は現在まで不敗の検事として名を馳せていたが、同時に証拠品の捏造などの不正疑惑も持ち上がっている。一部の刑事の間では狩魔の厳しさへの反発と一点の汚れのない経歴から不正を暴こうとする者もいるが、ミョウジとしては決定的な証拠があるわけではないので、あまり賛同できる動きではなかった。
それよりも検事が不正をする隙のない、刑事として完璧な捜査をする。それがミョウジの「正義」だ。
それでももし、もし万が一、狩魔が本当に不正を行っているのであれば、どうか本人の口から直接真相を聞きたいと願っている。
それが叶うまでにどれだけの時間がかかるかわからないけれど。
ーーー長生き、しなきゃだなあ……
娘の為にも、真実の為にも。
ミョウジは箱をくしゃりと握り潰すと、それをゴミ箱へ放り捨てた。
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