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この作品は、原作キャラクター×原作にいないキャラクター(夢主)の夢本です。
設定ありの「固定夢主」主人公です。
(「特別法廷」程度の激しいキャラ崩壊が起こります。)
恋愛要素は御剣怜侍×夢主のみです。
公式とは一切関係がありません。
上記をご了承いただける方のみ、自己責任にて閲覧をお願いします。
これは、御剣怜侍と、私、鉾崎ナマエのまわりがなにもかも、そう、何もかもがきれいに片付いた後のお話。
※
怜侍くんが疲れている......。
一週間のうちで一番疲れが出てくる水曜日の夜、私は携帯のメールチェックをしながら、彼の様子を慎重に伺った。
リビングのソファで新聞を読んでいるようだが、向きが上下逆だし、白目を剥いてうつらうつらと船を漕いでいる。声をかけなくて大丈夫だろうか。
怜侍くんから目を離さないようにしながら携帯を操作していると、ふと、ある遊園地の広告メールが目に飛び込んできた。
「これだ......!」
思わず声を出してしまったけれど、よく見ると私も楽しい、彼も喜んでくれそうな内容だ。
「ねえ、怜侍くん、ちょっと起きて」
「ム……寝てしまっていた」
「あのさ、今週の土曜日に遊園地行かない?」
「まさかバンドーランドではないだろうな?」
彼が心底うんざりした口調をするので思わず吹き出してしまう。
「ふふ、あそこはあそこで思い出深い場所だろうけど、違うよー。海沿いの、ほら、新しくできたところ。どうかな?」
「良いな。私も少し気分が塞いでいた所だ。私が運転しよう」
「良いの?ありがとう。じゃあ、帰りは私が運転しようかな」
気分が嬉しくなると同時に、やはり怜侍くんは気分が晴れないでいたのだと少し不安になる。私のこの計画、少しでも喜んでくれると良いのだけれど。
//当日までの間、何を着ていこうか、何に乗ろうかなんて、怜侍くんと話した。//
そして当日。
怜侍くんは、アラン模様が可愛いローゲージのニットにセンタープレスのついたベージュのパンツ、ローファーに赤いダッフルコートという出で立ちだった。
噂で聞いたのだが、昔関係者の間では誰も見たことがないことから、一時期怜侍くんの私服姿を想像するのが流行ったらしい。彼の私服姿を見たことのある人間は冥と私くらいのものなんだそうだ。
「似合ってるよ」
と本心から褒めると、はにかみながら、
「きみこそ」
と言ってくれた。
毎度毎度のデートの朝のやり取りなのに照れてしまう。
「じゃあ、行こっか」
怜侍くんを促して彼の車に乗り込む。ドライブ途中のお菓子や飲み物はバッチリだ。
「今日晴れて良かったね」
「ああ、絶好のレジャー日和だな」
そんな話をしながら海沿い方面の国道を1時間ほど走ると、急に視野が開けた場所に出た。元々この辺りは埋め立てられてできたのだろう、基本的に大きな建物が広い道路沿いに並んでいた。
しばらく遊園地の方へ向かうと、観覧車やジェットコースターの隣に、商業施設と思しき建物が見えて来た。
あらかじめ場所を調べておいた駐車場に止めようとすると、ある『違和感』に気がついた。
「ナマエ、すまないが駐車券を取ってもらえるだろうか?」
「そうだった。いいよー、はい」
彼の車は生憎左ハンドルなのである。
※
遊園地の入り口に着くと、商業施設とどちらの客なのかわからないが、早朝だというのに大勢の客でひしめいていた。
「とりあえずチケットを買おう」
「そうだね。
ーー大人二人お願いします!」
一人一枚、各自チケットを買う。
意外に思われるかもしれないけれど、私と怜侍くんの生活は、家事の負担も家計費も二人で折半だ。嬉しいことに当初は彼が甲斐性を発揮し、全部出すと言ってくれたのだが、一応私も働いている身である。結局、楽しいことは二倍に、辛いことは半分こにすることにしたのだ。病める時も健やかなる時も、にはまだ少し早いのだけれど。
閑話休題。
「さて、何から乗ろうか」
「肩慣らしにシューティングゲームでもどうかな」
「そうしよう」
こう見えて私は刑事である。射撃の腕前はそこそこだ。まずは怜侍くんに良いところを見せたい。
地図を見ながら場所を探していると、怜侍くんが近くのスポットを見つけてくれた。
「まっすぐ行って右手にあるらしい。早速行ってみるか」
「お、ありがとう」
無事待機列を探し出し、最後尾に並ぶと入場まで約10分ほどとの案内が表示されていた。
なんとなく手持ち無沙汰になり、怜侍くんに雑談を振ってみる。
「糸鋸刑事がさ、『また給与査定下がったっス。もうソーメンも食べられないっス』って嘆いていたんだけど、本当なの? 刑事の誼として、あんまり厳しくしないであげて欲しいな」
「確かに先月の査定は厳しかったが、それも彼が機密情報を漏らしたり、証拠品を紛失したりするからなのだが......」
「それはちょっと迂闊だなあ」
「だからキミが気にするまでもない」
まあ確かにそれはそうかもしれないけれど、普段糸鋸刑事にはとてもお世話になっている身としては、やはり気になってしまう。
「まあでも、怜侍くんにこれだけ厳しくされてもついて来てくれる辺り、糸鋸刑事の愛は本物だよね」
「愛......なのだろうか......」
「愛だと思うなあ」
そんなやりとりをしているうちに、シューティングゲームの順番が来た。
いよいよ怜侍くんにいいところを見せる時が来たようだ。私は内心ほくそ笑んだ。
スタッフの人に案内されて、乗り物の座席に座り、備え付けられたモデルガンを手に取る。アサルトライフルのM16。これはいい銃だ。
荒い運転の車を模した、ぐねぐねと動く乗り物に乗って、壁に投影されたCGの動画のゾンビをこれで撃っていくと言う寸法らしい。因みに並走する味方を打ったら減点だそうだ。
簡単な注意と説明の後、スタートの合図が鳴った。
そしてぐわんぐわんと揺れ始める乗り物。うっかり銃を落としそうになる。
闇夜に霜が降るごとく……と行きたい所だが、これは思ったよりも難しい。私は気を引き締めて、引き金に力を込めた。
※
結局、二位と圧倒的な点差をつけて、私は一位に入賞した。一方で怜侍くんは四位だ。惜しい。
「ふっふっふ。同僚のみんなに『スナイパー鉾崎』と呼ばれた私に死角はなかった」
「きみにそんな渾名が付いていたのか……見事だった」
怜侍くんがパチパチと拍手をしてくれる。どんなもんだい、と私は胸を張った。
アトラクションの出口に車に乗った参加者の写真が貼モニターに映されている。自由に撮影ができるフォトスポットらしい。怜侍くんも私も楽しそうにしている。それを記念に一枚、携帯のカメラに収めると、次のアトラクションを探すべく広い場所に出た。
「次どこ行こっか」
「あのホラーハウスはどうだろうか」
「いいね」
私と怜侍くんが次に向かったのは、サウンドドラマ形式のホラーハウスだ。
参加者の私たちは、山でのハイキング中に猛吹雪に襲われ、やむなく見つけた山小屋に入ったが、果たして……という設定らしい。
ハイキングに同行したツアーガイドを装ったスタッフに案内され、ブースの中に入って、ヘッドフォンをかける。
ごおお、と嵐のような轟音が聞こえ始めた。
しゃがれた老婆の声が私の耳元で囁く。
『クックックック......ようこそ、我が屋敷へ。外は猛吹雪ですから、一晩こちらでお休みになってはいかがでしょうか......』
続いて
『昨日、午後9時ごろ市内の路地で男女6人が殺害されるという事件が発生しました。犯人とみられる男は今も逃走中で、チェーンソーのようなものを持ったままと考えられます。警視庁も700人体制で犯人を追っています』
ガガッとノイズが走り、ラジオが消えた。
おおお......これはなかなか怖いな......。
ただ、犯人が人間で一安心だ。
実のところ、私は未知のオカルト的なものはちょっと怖かったりする。なるほどくんと怜侍くんから、倉院の里の事件を聞いたときは平静を装っていたが、内心震え上がっていた。
ちなみに言い添えておくと、真宵ちゃんも春美ちゃんも怖いわけじゃない。寧ろ大好きだ。
ガタガタと引き戸が開く音がした。
「おやまあ、旦那様、おかえりなさいませ。今日は御馳走......じゃなかった、お客様がこんなに......イッヒッヒッヒ」
「おお、そうかそうか、こんなに人間が......」
耳元で『旦那様』がじゅるりと唾液を啜る音とともに、どこからから生暖かい空気が流れてきた。
前言撤回、これはかなり怖くなってきたぞ!
その時、突然サイレンの音が聞こえた。警察が拡声器で犯人を呼んでいるようだ。犯人はチェーンソーを唸らせている。銃声。
ドン、と大きな音がしたと思った一瞬、部屋の電気が点くと仮面を被った血塗れの男の死体がテーブルの上に転がっていた。これが犯人だろうか。
暗転、再度明かりが点くと、何もなかったように死体はきれいさっぱり消え失せていた。
※
「あー……怖かった……」
「なかなかリアルだったな」
「最後には警察が来てくれてよかった.......」
「やはり一番怖いのは人間だということだな」
「でも、できることなら生きたまま逮捕したかったな」
「そうだな、極刑は免れないが、真実を明らかにするべきだった」
そんなことを話しながら、ホラーハウスを後にする。
「もうお昼だね。ご飯にする?」
「そうだな、どこか食事ができる所へ行こう」
地図を見ると、ちょうどこの上の階にレストランのコーナーがあるようだ。
移動する。
私はサンドイッチ。怜侍くんはハンバーグ定食を頼んでいた。
ジェットコースター
「さ……三半規管がやられた」
「お水買ってくるね」
「ごめんね、私の作戦ミスだった。ご飯食べた直後にこういうのは良くなかったね」
「いや、私の方こそすまない。きみが折角楽しんでいたのに」
「次はあんまり体に負担がかからない所に行こうか」
占い
「い......異議ありーーーーー!」
怜侍くんと自分の相性を占う。どんな結果が出ても私たちの絆は揺らがない......そう信じていたはずだが、あまりにも低いスコアと辛口なコメントが出てしまいつい動揺してしまった。
「フッ、随分な言われようだな」
一方で怜侍くんは占いの結果を一笑に付し、余裕綽綽である。ああ、彼のこういうところ好きだなあ、と呆然とした頭で思った。
「ナマエ、落ち込んでいても仕方がない。気を取り直して別のところへ行こう」
「う......うん」
ショックのあまりぼんやりとしたまま、怜侍くんに手を引かれてゲームセンターに連れて行かれる。
そういえば怜侍くんとゲームセンター行ったことないな。
クレーンゲームのコーナーに着くと、いかにも触りごごちの良さそうな、もふもふとした様子のぬいぐるみが無造作に積まれている。
「ナマエ、欲しいものはあるか?」
「あっちの、可愛いペンギンのやつ」
そうか、と怜侍くんは言い、私の指差したクレーンゲームにコインを入れた。
「そこで見ていたまえ」
そう宣言すると、見事なレバー捌きであっという間にぬいぐるみを取ってみせたのだった。
「えっ、凄い! 早くて全然見えなかった」
「ナマエ」
「えっ、えっ? もしかして私のために取ってくれたの?」
名前を呼ばれて、取ったぬいぐるみを手渡される。怜侍くんに首の辺りをわし摑みにされていたせいか、若干くったりとしているが、私の腕の中で徐々に形を取り戻していった。
落ち込んでいる私のためにわざわざ行動を起こしてくれるなんて、なんて優しい人なのだろうと思う。
「ありがとう......」
「元気が出たのならいい」
ぷいっとむこうを向いてしまって、様子はわからなかったけれど、耳が赤くなっているのを見るに限り、照れているのではないだろうか。なんて不器用で優しい人。
怜侍くんのお陰で、すっかり調子を戻した私は元気を出して一歩踏み出し、ゲームコーナーを後にした。
「おっと、そろそろヒーローショーの時間だね」
「うム、会場に向かうとするか」
会場に向かうと、老若男女揃いぶみ、という感じで定員500人の座席がほとんど埋まっていた。どうやらこのイベント目当てで来ている人が多いようだ。
今期の特撮ヒーロー、ニンジャカンジャはかつてのニンジャナンジャの続編で、文字通りスパイと忍者のハイブリッドの様な立ち位置である……というのが、日曜の朝テレビに釘付けになる怜侍くんの横で見ていた私の情報である。
「開演までしばらくあるね。……それにしても、怜侍くんがクレーンゲーム得意ってびっくり。もしかして好きだったの?」
「学生時代に、勉強のストレスが溜まるとよくやっていたのだよ……先生には秘密でな。ある時、ゲームで取ったぬいぐるみをメイにあげたら、ゲームセンターに通っているのが先生にバレて、大目玉を喰らってしまったのだ……久しぶりにやってみたが、意外と体が覚えているものだな」
先生、というのは怜侍くんの育ての親にしてお師匠、冥の実の父親である狩魔豪のことだ。
怜侍くんの口から彼の話を聞く度に、複雑な気持ちが胸を去来した。どんな気持ちで怜侍くんを教育したのだろう。どんな気持ちで冥に接したのだろう。
刑事の仕事をしていると、人間は全てが善か悪かとは分けることができないと実感する。つまり、結果的には彼は悪事を働き、沢山の人たちを傷つけた。それらは決して許されることではなかったけれど、生きている間、せめて家族といる間だけは善性が現れていたのだと信じたい。
そういえば私が子供の頃、父が狩魔検事について何か言っていたような気がする。
うっすらと記憶が蘇りかけたところで、怜侍くんの声に意識が引き戻された。
「ナマエ、もうそろそろ始まるようだ」
「う、うん」
舞台の袖から女性が登場した。
「こんにちは!皆、今日はニンジャカンジャのショーに来てくれてありがとう!」
「それではみんな、ニンジャカンジャを呼ぼう!せーの!」
周りでニンジャカンジャー!と大合唱だ。
一方、
今回の敵はコピーマンという、
新たにトノサマンの偽物が登場
やられそうになるところで本物のトノサマンが登場
例の音楽と共に本物のトノサマンが登場した。客席から歓声が上がる。
怜侍くんを見遣ると、衝撃のあまり白目を剥いたまま固まっていた。
トノサマンとニンジャカンジャが力を合わせて撃退する。そして閉幕。
「今日来てくれたお友達は、これから握手会に参加できます!是非参加してね!」司会のお姉さんのアナウンスだ。
仕事の場でトノサマンと接触する機会は割と多かったそうだけど、プライベートではこれが初めてだ。誰に憚ることもなく、思いっきり思いの丈を伝えて欲しい。
「怜侍くん、行ってきたら?」
そう水を向けると、硬直が取れたようでこちらを見返してきた。
「いいのか?」
「もちろん」
「で、では行ってくる」
緊張のあまりか、若干挙動不審になりながらも、握手会の列に並ぶ。
長蛇の列になっていたが、彼を待つのは全く苦ではなかった。
遂に怜侍くんの番だ。彼はトノサマンの手を握ると、口を開いた。
「御剣と申します。お会いできて光栄です。ご活躍をいつも拝見しています。今日の舞台も--------」
「はい、お兄さんお時間ですー」
後ろに控えていたスタッフさんに剥がされてしまう。
そんな一見面白そうな光景さえ、私には愛おしく思えた。彼が好きなものに触れられて、心から嬉しい。
私のいる客席に戻ってきた彼は心なしか頬が上気し、いつもより健康そうに見える。そして一言、
「会えた」
「見てたよ。良かったね」
「ああ」
そうして、満足そうに笑ったのだった。
※
日も西に傾き、空は青と橙の綺麗なグラデーションを描いていた。遠くに見えるビル影にも、ちらほらと明かりがつくのが見える。
時計を見ると、もう6時を回っていた。
「もうこんな時間なんだね。次で最後にする?」
「そうだな......最後なのだから、観覧車に乗るとするか」
「賛成!上の方だと、遠くの夜景まで見えそうだよね」
そう話しながら、観覧車の列に並ぶ。ここはこの遊園地のメインスポットの一つのようで、看板の案内によると流石に1時間ほど待つようだった。
「そういえば、後輩の一柳が是非君に会いたいと言っていたのだが、家に連れてきても良いだろうか」
「ああ、あの一柳くんか。話には聞いていたけど私も会ってみたいなあ。事件の後はどうしているのかな?」
「水鏡裁判官に、法律のことを一から扱かれているが、全く弱音も吐かず取り組んでいる。あれから随分と成長したようだ」
「おお、それは良かった」
しばらく、怜侍くんの同僚や後輩、上司の話を聞いた。こうして話していて思うのだけれど、家でも愚痴ひとつ吐かず、仕事でいかに周りの人に支えられているかばかり話す彼が好きだとしみじみ思う。
昔は弱音を吐いてくれないのを、信頼されていないからだと思っていたけれど、逆だったのだ。
「次の方、どうぞ!」
いよいよ私たちの番が来て、先に怜侍くんが乗り込んで手を差し伸べてくれる。
「ありがとう」
バタン、とスタッフさんがロックをかけると、いよいよゴンドラは上の方に昇り始めた。
「ナマエ、今日は誘ってくれて、改めて礼を言う。良い思い出になった」
「......それは良かった。私も楽しめたし」
「その、それだけではなく、いつも私を信じ、傍にいてくれていることにも感謝している。ありがとう」
「何、改まって。当たり前のことじゃない」
一呼吸、間があった。
「そちらへ行ってもいいだろうか」
「うん、いいよ」
とんとんと、私の隣のスペースを叩くと、怜侍くんはゆっくりとそこに腰掛ける。
外を見ると、もうだいぶ上の方まで来ていたようで、遠くの西の方に夕焼けを反射してキラキラと輝く海が見えた。
「きみにまた会えて良かった」
彼がポツリと呟いた。まるで今まで迷子だった子供が、家に帰ってこられて安心したみたいに。
//私もだよ、なんて言ってしまうのは簡単だったけれど、私はそうしなかった。その代わりに、今まで心に秘めていた不安を口にする。//
「怜侍くん、
そうして今度こそ、私が彼に答えるのだった。
「私もだよ。怜侍くんにまた会えて、傍に居られて本当に良かったと思っているんだよ」
「楽しかったなー。二人で来たはずが、皆と一緒にいた気分だったよ」
「それは良かった。また共に来よう」
『また来よう』。そんな一言だったけれども、私にはかけがえのない台詞だった。
私の人生には、果たされなかった約束が幾つもある。友達、同僚、家族。私の人生には『別れ』が多すぎた。それは本当にどうしようもないことなのだけれど、約束が破られる度に傷ついた。
怜侍くんは本当に、今度こそ約束を守ってくれるのか確かめたかった。
「本当? 本当にまた一緒に来てくれるの?」
そう聞くと、右手を握られた感覚がした。見ると、手を繋がれている。所謂、恋人つなぎというやつだ。
「ああ。約束だ」
不意に泣きたくなってしまったけれど、泣いたらメイクが落ちてみっともなくなるので我慢した。その代わり、手を優しく握り返す。
「ありがとう。また来ようね」
※
帰りは私の運転の番だ。
「安全運転で行くね」
「ああ、頼む」
「それにしても今日は本当に楽しかったな。ありがとう」
「礼を言うのはこちらの方だ」
「って、これ何回目のやりとりだ、って感じだよね」
「しかしこちらとしては、礼は何度言われても嬉しいものだが」
「そう? なら良かった。お土産も貰っちゃったしね」
「そう……だな……」
途中から怜侍くんの反応が薄くなってきたので、ちらりと助手席を盗み見ると寝息を立てて、すやすやと眠っていた。
私の運転で安心してもらえて嬉しい一方で、やはり疲れている中連れてきてくれたのだと申し訳なくなる。
「怜侍くん、着いたよ。起きて」
本当なら担いで家まで連れて行きたいところだけど、さすがの私もそんな力はなく、仕方なく怜侍くんの肩を叩いた。
「ム、すまない。寝てしまった」
「いいんだよ。さ、中に入ろう」
まずはお風呂に入って疲れをとって、昨日の作り置きのご飯で夕食にして、今日の思い出なんかを話しながら眠りにつこう。
幸い、明日も休みである。
おやすみ、また明日。
怜侍くんと一緒なら、明日もきっと良い日だから。
<完>
この作品は、原作キャラクター×原作にいないキャラクター(夢主)の夢本です。
設定ありの「固定夢主」主人公です。
(「特別法廷」程度の激しいキャラ崩壊が起こります。)
恋愛要素は御剣怜侍×夢主のみです。
公式とは一切関係がありません。
上記をご了承いただける方のみ、自己責任にて閲覧をお願いします。
これは、御剣怜侍と、私、鉾崎ナマエのまわりがなにもかも、そう、何もかもがきれいに片付いた後のお話。
※
怜侍くんが疲れている......。
一週間のうちで一番疲れが出てくる水曜日の夜、私は携帯のメールチェックをしながら、彼の様子を慎重に伺った。
リビングのソファで新聞を読んでいるようだが、向きが上下逆だし、白目を剥いてうつらうつらと船を漕いでいる。声をかけなくて大丈夫だろうか。
怜侍くんから目を離さないようにしながら携帯を操作していると、ふと、ある遊園地の広告メールが目に飛び込んできた。
「これだ......!」
思わず声を出してしまったけれど、よく見ると私も楽しい、彼も喜んでくれそうな内容だ。
「ねえ、怜侍くん、ちょっと起きて」
「ム……寝てしまっていた」
「あのさ、今週の土曜日に遊園地行かない?」
「まさかバンドーランドではないだろうな?」
彼が心底うんざりした口調をするので思わず吹き出してしまう。
「ふふ、あそこはあそこで思い出深い場所だろうけど、違うよー。海沿いの、ほら、新しくできたところ。どうかな?」
「良いな。私も少し気分が塞いでいた所だ。私が運転しよう」
「良いの?ありがとう。じゃあ、帰りは私が運転しようかな」
気分が嬉しくなると同時に、やはり怜侍くんは気分が晴れないでいたのだと少し不安になる。私のこの計画、少しでも喜んでくれると良いのだけれど。
//当日までの間、何を着ていこうか、何に乗ろうかなんて、怜侍くんと話した。//
そして当日。
怜侍くんは、アラン模様が可愛いローゲージのニットにセンタープレスのついたベージュのパンツ、ローファーに赤いダッフルコートという出で立ちだった。
噂で聞いたのだが、昔関係者の間では誰も見たことがないことから、一時期怜侍くんの私服姿を想像するのが流行ったらしい。彼の私服姿を見たことのある人間は冥と私くらいのものなんだそうだ。
「似合ってるよ」
と本心から褒めると、はにかみながら、
「きみこそ」
と言ってくれた。
毎度毎度のデートの朝のやり取りなのに照れてしまう。
「じゃあ、行こっか」
怜侍くんを促して彼の車に乗り込む。ドライブ途中のお菓子や飲み物はバッチリだ。
「今日晴れて良かったね」
「ああ、絶好のレジャー日和だな」
そんな話をしながら海沿い方面の国道を1時間ほど走ると、急に視野が開けた場所に出た。元々この辺りは埋め立てられてできたのだろう、基本的に大きな建物が広い道路沿いに並んでいた。
しばらく遊園地の方へ向かうと、観覧車やジェットコースターの隣に、商業施設と思しき建物が見えて来た。
あらかじめ場所を調べておいた駐車場に止めようとすると、ある『違和感』に気がついた。
「ナマエ、すまないが駐車券を取ってもらえるだろうか?」
「そうだった。いいよー、はい」
彼の車は生憎左ハンドルなのである。
※
遊園地の入り口に着くと、商業施設とどちらの客なのかわからないが、早朝だというのに大勢の客でひしめいていた。
「とりあえずチケットを買おう」
「そうだね。
ーー大人二人お願いします!」
一人一枚、各自チケットを買う。
意外に思われるかもしれないけれど、私と怜侍くんの生活は、家事の負担も家計費も二人で折半だ。嬉しいことに当初は彼が甲斐性を発揮し、全部出すと言ってくれたのだが、一応私も働いている身である。結局、楽しいことは二倍に、辛いことは半分こにすることにしたのだ。病める時も健やかなる時も、にはまだ少し早いのだけれど。
閑話休題。
「さて、何から乗ろうか」
「肩慣らしにシューティングゲームでもどうかな」
「そうしよう」
こう見えて私は刑事である。射撃の腕前はそこそこだ。まずは怜侍くんに良いところを見せたい。
地図を見ながら場所を探していると、怜侍くんが近くのスポットを見つけてくれた。
「まっすぐ行って右手にあるらしい。早速行ってみるか」
「お、ありがとう」
無事待機列を探し出し、最後尾に並ぶと入場まで約10分ほどとの案内が表示されていた。
なんとなく手持ち無沙汰になり、怜侍くんに雑談を振ってみる。
「糸鋸刑事がさ、『また給与査定下がったっス。もうソーメンも食べられないっス』って嘆いていたんだけど、本当なの? 刑事の誼として、あんまり厳しくしないであげて欲しいな」
「確かに先月の査定は厳しかったが、それも彼が機密情報を漏らしたり、証拠品を紛失したりするからなのだが......」
「それはちょっと迂闊だなあ」
「だからキミが気にするまでもない」
まあ確かにそれはそうかもしれないけれど、普段糸鋸刑事にはとてもお世話になっている身としては、やはり気になってしまう。
「まあでも、怜侍くんにこれだけ厳しくされてもついて来てくれる辺り、糸鋸刑事の愛は本物だよね」
「愛......なのだろうか......」
「愛だと思うなあ」
そんなやりとりをしているうちに、シューティングゲームの順番が来た。
いよいよ怜侍くんにいいところを見せる時が来たようだ。私は内心ほくそ笑んだ。
スタッフの人に案内されて、乗り物の座席に座り、備え付けられたモデルガンを手に取る。アサルトライフルのM16。これはいい銃だ。
荒い運転の車を模した、ぐねぐねと動く乗り物に乗って、壁に投影されたCGの動画のゾンビをこれで撃っていくと言う寸法らしい。因みに並走する味方を打ったら減点だそうだ。
簡単な注意と説明の後、スタートの合図が鳴った。
そしてぐわんぐわんと揺れ始める乗り物。うっかり銃を落としそうになる。
闇夜に霜が降るごとく……と行きたい所だが、これは思ったよりも難しい。私は気を引き締めて、引き金に力を込めた。
※
結局、二位と圧倒的な点差をつけて、私は一位に入賞した。一方で怜侍くんは四位だ。惜しい。
「ふっふっふ。同僚のみんなに『スナイパー鉾崎』と呼ばれた私に死角はなかった」
「きみにそんな渾名が付いていたのか……見事だった」
怜侍くんがパチパチと拍手をしてくれる。どんなもんだい、と私は胸を張った。
アトラクションの出口に車に乗った参加者の写真が貼モニターに映されている。自由に撮影ができるフォトスポットらしい。怜侍くんも私も楽しそうにしている。それを記念に一枚、携帯のカメラに収めると、次のアトラクションを探すべく広い場所に出た。
「次どこ行こっか」
「あのホラーハウスはどうだろうか」
「いいね」
私と怜侍くんが次に向かったのは、サウンドドラマ形式のホラーハウスだ。
参加者の私たちは、山でのハイキング中に猛吹雪に襲われ、やむなく見つけた山小屋に入ったが、果たして……という設定らしい。
ハイキングに同行したツアーガイドを装ったスタッフに案内され、ブースの中に入って、ヘッドフォンをかける。
ごおお、と嵐のような轟音が聞こえ始めた。
しゃがれた老婆の声が私の耳元で囁く。
『クックックック......ようこそ、我が屋敷へ。外は猛吹雪ですから、一晩こちらでお休みになってはいかがでしょうか......』
続いて
『昨日、午後9時ごろ市内の路地で男女6人が殺害されるという事件が発生しました。犯人とみられる男は今も逃走中で、チェーンソーのようなものを持ったままと考えられます。警視庁も700人体制で犯人を追っています』
ガガッとノイズが走り、ラジオが消えた。
おおお......これはなかなか怖いな......。
ただ、犯人が人間で一安心だ。
実のところ、私は未知のオカルト的なものはちょっと怖かったりする。なるほどくんと怜侍くんから、倉院の里の事件を聞いたときは平静を装っていたが、内心震え上がっていた。
ちなみに言い添えておくと、真宵ちゃんも春美ちゃんも怖いわけじゃない。寧ろ大好きだ。
ガタガタと引き戸が開く音がした。
「おやまあ、旦那様、おかえりなさいませ。今日は御馳走......じゃなかった、お客様がこんなに......イッヒッヒッヒ」
「おお、そうかそうか、こんなに人間が......」
耳元で『旦那様』がじゅるりと唾液を啜る音とともに、どこからから生暖かい空気が流れてきた。
前言撤回、これはかなり怖くなってきたぞ!
その時、突然サイレンの音が聞こえた。警察が拡声器で犯人を呼んでいるようだ。犯人はチェーンソーを唸らせている。銃声。
ドン、と大きな音がしたと思った一瞬、部屋の電気が点くと仮面を被った血塗れの男の死体がテーブルの上に転がっていた。これが犯人だろうか。
暗転、再度明かりが点くと、何もなかったように死体はきれいさっぱり消え失せていた。
※
「あー……怖かった……」
「なかなかリアルだったな」
「最後には警察が来てくれてよかった.......」
「やはり一番怖いのは人間だということだな」
「でも、できることなら生きたまま逮捕したかったな」
「そうだな、極刑は免れないが、真実を明らかにするべきだった」
そんなことを話しながら、ホラーハウスを後にする。
「もうお昼だね。ご飯にする?」
「そうだな、どこか食事ができる所へ行こう」
地図を見ると、ちょうどこの上の階にレストランのコーナーがあるようだ。
移動する。
私はサンドイッチ。怜侍くんはハンバーグ定食を頼んでいた。
ジェットコースター
「さ……三半規管がやられた」
「お水買ってくるね」
「ごめんね、私の作戦ミスだった。ご飯食べた直後にこういうのは良くなかったね」
「いや、私の方こそすまない。きみが折角楽しんでいたのに」
「次はあんまり体に負担がかからない所に行こうか」
占い
「い......異議ありーーーーー!」
怜侍くんと自分の相性を占う。どんな結果が出ても私たちの絆は揺らがない......そう信じていたはずだが、あまりにも低いスコアと辛口なコメントが出てしまいつい動揺してしまった。
「フッ、随分な言われようだな」
一方で怜侍くんは占いの結果を一笑に付し、余裕綽綽である。ああ、彼のこういうところ好きだなあ、と呆然とした頭で思った。
「ナマエ、落ち込んでいても仕方がない。気を取り直して別のところへ行こう」
「う......うん」
ショックのあまりぼんやりとしたまま、怜侍くんに手を引かれてゲームセンターに連れて行かれる。
そういえば怜侍くんとゲームセンター行ったことないな。
クレーンゲームのコーナーに着くと、いかにも触りごごちの良さそうな、もふもふとした様子のぬいぐるみが無造作に積まれている。
「ナマエ、欲しいものはあるか?」
「あっちの、可愛いペンギンのやつ」
そうか、と怜侍くんは言い、私の指差したクレーンゲームにコインを入れた。
「そこで見ていたまえ」
そう宣言すると、見事なレバー捌きであっという間にぬいぐるみを取ってみせたのだった。
「えっ、凄い! 早くて全然見えなかった」
「ナマエ」
「えっ、えっ? もしかして私のために取ってくれたの?」
名前を呼ばれて、取ったぬいぐるみを手渡される。怜侍くんに首の辺りをわし摑みにされていたせいか、若干くったりとしているが、私の腕の中で徐々に形を取り戻していった。
落ち込んでいる私のためにわざわざ行動を起こしてくれるなんて、なんて優しい人なのだろうと思う。
「ありがとう......」
「元気が出たのならいい」
ぷいっとむこうを向いてしまって、様子はわからなかったけれど、耳が赤くなっているのを見るに限り、照れているのではないだろうか。なんて不器用で優しい人。
怜侍くんのお陰で、すっかり調子を戻した私は元気を出して一歩踏み出し、ゲームコーナーを後にした。
「おっと、そろそろヒーローショーの時間だね」
「うム、会場に向かうとするか」
会場に向かうと、老若男女揃いぶみ、という感じで定員500人の座席がほとんど埋まっていた。どうやらこのイベント目当てで来ている人が多いようだ。
今期の特撮ヒーロー、ニンジャカンジャはかつてのニンジャナンジャの続編で、文字通りスパイと忍者のハイブリッドの様な立ち位置である……というのが、日曜の朝テレビに釘付けになる怜侍くんの横で見ていた私の情報である。
「開演までしばらくあるね。……それにしても、怜侍くんがクレーンゲーム得意ってびっくり。もしかして好きだったの?」
「学生時代に、勉強のストレスが溜まるとよくやっていたのだよ……先生には秘密でな。ある時、ゲームで取ったぬいぐるみをメイにあげたら、ゲームセンターに通っているのが先生にバレて、大目玉を喰らってしまったのだ……久しぶりにやってみたが、意外と体が覚えているものだな」
先生、というのは怜侍くんの育ての親にしてお師匠、冥の実の父親である狩魔豪のことだ。
怜侍くんの口から彼の話を聞く度に、複雑な気持ちが胸を去来した。どんな気持ちで怜侍くんを教育したのだろう。どんな気持ちで冥に接したのだろう。
刑事の仕事をしていると、人間は全てが善か悪かとは分けることができないと実感する。つまり、結果的には彼は悪事を働き、沢山の人たちを傷つけた。それらは決して許されることではなかったけれど、生きている間、せめて家族といる間だけは善性が現れていたのだと信じたい。
そういえば私が子供の頃、父が狩魔検事について何か言っていたような気がする。
うっすらと記憶が蘇りかけたところで、怜侍くんの声に意識が引き戻された。
「ナマエ、もうそろそろ始まるようだ」
「う、うん」
舞台の袖から女性が登場した。
「こんにちは!皆、今日はニンジャカンジャのショーに来てくれてありがとう!」
「それではみんな、ニンジャカンジャを呼ぼう!せーの!」
周りでニンジャカンジャー!と大合唱だ。
一方、
今回の敵はコピーマンという、
新たにトノサマンの偽物が登場
やられそうになるところで本物のトノサマンが登場
例の音楽と共に本物のトノサマンが登場した。客席から歓声が上がる。
怜侍くんを見遣ると、衝撃のあまり白目を剥いたまま固まっていた。
トノサマンとニンジャカンジャが力を合わせて撃退する。そして閉幕。
「今日来てくれたお友達は、これから握手会に参加できます!是非参加してね!」司会のお姉さんのアナウンスだ。
仕事の場でトノサマンと接触する機会は割と多かったそうだけど、プライベートではこれが初めてだ。誰に憚ることもなく、思いっきり思いの丈を伝えて欲しい。
「怜侍くん、行ってきたら?」
そう水を向けると、硬直が取れたようでこちらを見返してきた。
「いいのか?」
「もちろん」
「で、では行ってくる」
緊張のあまりか、若干挙動不審になりながらも、握手会の列に並ぶ。
長蛇の列になっていたが、彼を待つのは全く苦ではなかった。
遂に怜侍くんの番だ。彼はトノサマンの手を握ると、口を開いた。
「御剣と申します。お会いできて光栄です。ご活躍をいつも拝見しています。今日の舞台も--------」
「はい、お兄さんお時間ですー」
後ろに控えていたスタッフさんに剥がされてしまう。
そんな一見面白そうな光景さえ、私には愛おしく思えた。彼が好きなものに触れられて、心から嬉しい。
私のいる客席に戻ってきた彼は心なしか頬が上気し、いつもより健康そうに見える。そして一言、
「会えた」
「見てたよ。良かったね」
「ああ」
そうして、満足そうに笑ったのだった。
※
日も西に傾き、空は青と橙の綺麗なグラデーションを描いていた。遠くに見えるビル影にも、ちらほらと明かりがつくのが見える。
時計を見ると、もう6時を回っていた。
「もうこんな時間なんだね。次で最後にする?」
「そうだな......最後なのだから、観覧車に乗るとするか」
「賛成!上の方だと、遠くの夜景まで見えそうだよね」
そう話しながら、観覧車の列に並ぶ。ここはこの遊園地のメインスポットの一つのようで、看板の案内によると流石に1時間ほど待つようだった。
「そういえば、後輩の一柳が是非君に会いたいと言っていたのだが、家に連れてきても良いだろうか」
「ああ、あの一柳くんか。話には聞いていたけど私も会ってみたいなあ。事件の後はどうしているのかな?」
「水鏡裁判官に、法律のことを一から扱かれているが、全く弱音も吐かず取り組んでいる。あれから随分と成長したようだ」
「おお、それは良かった」
しばらく、怜侍くんの同僚や後輩、上司の話を聞いた。こうして話していて思うのだけれど、家でも愚痴ひとつ吐かず、仕事でいかに周りの人に支えられているかばかり話す彼が好きだとしみじみ思う。
昔は弱音を吐いてくれないのを、信頼されていないからだと思っていたけれど、逆だったのだ。
「次の方、どうぞ!」
いよいよ私たちの番が来て、先に怜侍くんが乗り込んで手を差し伸べてくれる。
「ありがとう」
バタン、とスタッフさんがロックをかけると、いよいよゴンドラは上の方に昇り始めた。
「ナマエ、今日は誘ってくれて、改めて礼を言う。良い思い出になった」
「......それは良かった。私も楽しめたし」
「その、それだけではなく、いつも私を信じ、傍にいてくれていることにも感謝している。ありがとう」
「何、改まって。当たり前のことじゃない」
一呼吸、間があった。
「そちらへ行ってもいいだろうか」
「うん、いいよ」
とんとんと、私の隣のスペースを叩くと、怜侍くんはゆっくりとそこに腰掛ける。
外を見ると、もうだいぶ上の方まで来ていたようで、遠くの西の方に夕焼けを反射してキラキラと輝く海が見えた。
「きみにまた会えて良かった」
彼がポツリと呟いた。まるで今まで迷子だった子供が、家に帰ってこられて安心したみたいに。
//私もだよ、なんて言ってしまうのは簡単だったけれど、私はそうしなかった。その代わりに、今まで心に秘めていた不安を口にする。//
「怜侍くん、
そうして今度こそ、私が彼に答えるのだった。
「私もだよ。怜侍くんにまた会えて、傍に居られて本当に良かったと思っているんだよ」
「楽しかったなー。二人で来たはずが、皆と一緒にいた気分だったよ」
「それは良かった。また共に来よう」
『また来よう』。そんな一言だったけれども、私にはかけがえのない台詞だった。
私の人生には、果たされなかった約束が幾つもある。友達、同僚、家族。私の人生には『別れ』が多すぎた。それは本当にどうしようもないことなのだけれど、約束が破られる度に傷ついた。
怜侍くんは本当に、今度こそ約束を守ってくれるのか確かめたかった。
「本当? 本当にまた一緒に来てくれるの?」
そう聞くと、右手を握られた感覚がした。見ると、手を繋がれている。所謂、恋人つなぎというやつだ。
「ああ。約束だ」
不意に泣きたくなってしまったけれど、泣いたらメイクが落ちてみっともなくなるので我慢した。その代わり、手を優しく握り返す。
「ありがとう。また来ようね」
※
帰りは私の運転の番だ。
「安全運転で行くね」
「ああ、頼む」
「それにしても今日は本当に楽しかったな。ありがとう」
「礼を言うのはこちらの方だ」
「って、これ何回目のやりとりだ、って感じだよね」
「しかしこちらとしては、礼は何度言われても嬉しいものだが」
「そう? なら良かった。お土産も貰っちゃったしね」
「そう……だな……」
途中から怜侍くんの反応が薄くなってきたので、ちらりと助手席を盗み見ると寝息を立てて、すやすやと眠っていた。
私の運転で安心してもらえて嬉しい一方で、やはり疲れている中連れてきてくれたのだと申し訳なくなる。
「怜侍くん、着いたよ。起きて」
本当なら担いで家まで連れて行きたいところだけど、さすがの私もそんな力はなく、仕方なく怜侍くんの肩を叩いた。
「ム、すまない。寝てしまった」
「いいんだよ。さ、中に入ろう」
まずはお風呂に入って疲れをとって、昨日の作り置きのご飯で夕食にして、今日の思い出なんかを話しながら眠りにつこう。
幸い、明日も休みである。
おやすみ、また明日。
怜侍くんと一緒なら、明日もきっと良い日だから。
<完>
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