幸福な食卓
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「……堂、成歩堂、聞いているのか!」
突然の大声に意識が浮上する。
ぼくは暫くぼんやりとしていたらしい。
目前には眉根を寄せた御剣がこちらを睨みつけていた。
黒いハーフリムの眼鏡の奥の瞳がぎらり、と光る。
主席検事に昇進して以来、デスクワークが増えたせいで目が悪くなってきたらしい。書類を見るときの必需品だそうだ。
そういえばぼくも、新聞みたいな細かい文字を読むのが辛くなってきている。
ぼくらももう歳かなあ、なんて。
「ああごめん、聞いてるよ」
よいしょっと、座り心地の良いソファから身を起こすと、腿に肘を置き指を組んだ。
「それで、年が明けたら視察にぼくも行かせてもらえるんだろう」
「ああそうだ。諸々準備をしておくのだな」
弁護士資格を失ったぼくだけれども、絶望に暮れている時間はほんの僅かで、実際の所、やらなきゃいけないことが山積みだった。
引き取ることになったみぬきの世話を始め、『成歩堂法律事務所』改め『成歩堂芸能事務所』の運営、それからぼくに舞い込んだのは意外にも、この国の司法制度そのものに関する仕事だった。
気分を切り替えられたのも、ひとえに親友夫婦二人の叱咤激励と、守るべきみぬきの存在のおかげだったりする。
それからこれは後で聞いた話だけど、ぼくの処分に異議を申し立ててくれた人が、少なからず居たらしい。『アンタの事件の後、御剣検事は何度も弁護士協会に出向いていたっス』とも、イトノコ刑事から聴いている。
『しがない刑事でしかないジブンは何もできなくて申し訳ないッス』項垂れて済まなそうにする姿を今でも憶えている。
だからぼくは、ぼくを信じてくれている人のためにも、今回の仕事は頑張らなくちゃいけない。
今御剣と話しているのは、年明けに予定されている海外の司法機関の視察についてだ。
元国際警察であるナマエちゃんの口利きで、ヨーロッパやアメリカの議会や大学の見学や、専門家との面会なんかが予定されていたりなんかする。
ーーまあ、この話はいったん置いておいて。
「準備か……御剣は来年に向けて準備はできてるのかい?」
「勿論だ。面会予定者には事前にメールで挨拶を――」
「そうじゃなくて」
「――ああ、そうだったな」
お互いに目を合わせて軽く笑う。
――そう、こいつはナマエちゃんが来てからこんな風によく笑うようになった。
「予定日には帰国が間に合いそうで良かったな」
「そうだな」
「まあ、子育てで分からないことがあったらぼくに聞いてよ」
「……事あるごとに『女の子の考えていることがわからないんだ』と、ナマエに泣きついて来たのはどこの誰だったか」
「うぐっ」
御剣相手に父親の先輩風を吹かせようとしたら、痛いところを突かれてしまった。
実のところ、男手一つでみぬきをこれまで無事に育ててこれたのも、こちらもまた長年の親友であるナマエちゃんのお陰だったりする。ぼくが子育てで困る度に、女の子の視点に立って色々とアドバイスをしてくれていた。
でもここで黙ってしまっては、元敏腕弁護士の名折れだ。
とにかく、とりあえず異議を唱えてみる。
「い、異議あり!」
「何だ」
「みぬきの世話で忙しくて、構ってもらえなくなって寂しくなったからってナマエちゃんに強引に結婚を迫ったのは誰だ!」
「ぐッ……」
今度は御剣が黙る番だった。
というか図星か。図星なのか。
「待った!!」
ぼくたちの膠着状態を破ったのは、意外にもキッチンからの声だった。
「怜侍くんは全然強引なんかじゃありませんでした!本当に紳士的なプロポーズだったもの」
エプロン姿のナマエちゃんは、大きくなったお腹の上で腕を組んで、ちょっと不服そうに口をとがらせていた。
隣でお手伝いをしていたみぬきは、広げた手で口を隠して、思いっきり驚いていた。
ぼくはというと、『シンシテキなぷろぽーず』のコトバのアマイヒビキの破壊力に圧倒され、言葉が出ない。
御剣に至っては完全に硬直していた。
しん、と静まりかえるリビング。
そんなぼくらの動揺を物ともせず、爆弾発言をした当の本人はてきぱきとダイニングテーブルを整えていく。
流石にお皿を運ぶのは難儀そうで、我にかえったぼくは慌てて席を立った。
「ぼくも手伝うよ」
「いいのいいの。座ってて」
「そんな訳にはいかないよ」
そんなやりとりをしているうちに硬直が解けたらしい御剣が、ナマエちゃんの代わりにさっと食器を運んで行く。
意外なカテイテキな一面を垣間見れて、ぼくは何だかホッと安心してしまった。
「……何をニヤついている」
「いやあ、別に」
みぬきの元気ないただきます、の合図で食卓が始まった。
「パパ、にんじんはみぬきが切ったの!」
「ああ、道理でいつもよりにんじんがおいしいと思ったよ」
くすくすとナマエちゃんは笑い、御剣からは、この親馬鹿め、という呆れた視線が飛んでくる。
今に見ていろ御剣。お前だって近いうちにこんな風になるんだからな!
次に皆で食卓を囲む時には、御剣家の新しい家族と一緒に出来たらいいな。
突然の大声に意識が浮上する。
ぼくは暫くぼんやりとしていたらしい。
目前には眉根を寄せた御剣がこちらを睨みつけていた。
黒いハーフリムの眼鏡の奥の瞳がぎらり、と光る。
主席検事に昇進して以来、デスクワークが増えたせいで目が悪くなってきたらしい。書類を見るときの必需品だそうだ。
そういえばぼくも、新聞みたいな細かい文字を読むのが辛くなってきている。
ぼくらももう歳かなあ、なんて。
「ああごめん、聞いてるよ」
よいしょっと、座り心地の良いソファから身を起こすと、腿に肘を置き指を組んだ。
「それで、年が明けたら視察にぼくも行かせてもらえるんだろう」
「ああそうだ。諸々準備をしておくのだな」
弁護士資格を失ったぼくだけれども、絶望に暮れている時間はほんの僅かで、実際の所、やらなきゃいけないことが山積みだった。
引き取ることになったみぬきの世話を始め、『成歩堂法律事務所』改め『成歩堂芸能事務所』の運営、それからぼくに舞い込んだのは意外にも、この国の司法制度そのものに関する仕事だった。
気分を切り替えられたのも、ひとえに親友夫婦二人の叱咤激励と、守るべきみぬきの存在のおかげだったりする。
それからこれは後で聞いた話だけど、ぼくの処分に異議を申し立ててくれた人が、少なからず居たらしい。『アンタの事件の後、御剣検事は何度も弁護士協会に出向いていたっス』とも、イトノコ刑事から聴いている。
『しがない刑事でしかないジブンは何もできなくて申し訳ないッス』項垂れて済まなそうにする姿を今でも憶えている。
だからぼくは、ぼくを信じてくれている人のためにも、今回の仕事は頑張らなくちゃいけない。
今御剣と話しているのは、年明けに予定されている海外の司法機関の視察についてだ。
元国際警察であるナマエちゃんの口利きで、ヨーロッパやアメリカの議会や大学の見学や、専門家との面会なんかが予定されていたりなんかする。
ーーまあ、この話はいったん置いておいて。
「準備か……御剣は来年に向けて準備はできてるのかい?」
「勿論だ。面会予定者には事前にメールで挨拶を――」
「そうじゃなくて」
「――ああ、そうだったな」
お互いに目を合わせて軽く笑う。
――そう、こいつはナマエちゃんが来てからこんな風によく笑うようになった。
「予定日には帰国が間に合いそうで良かったな」
「そうだな」
「まあ、子育てで分からないことがあったらぼくに聞いてよ」
「……事あるごとに『女の子の考えていることがわからないんだ』と、ナマエに泣きついて来たのはどこの誰だったか」
「うぐっ」
御剣相手に父親の先輩風を吹かせようとしたら、痛いところを突かれてしまった。
実のところ、男手一つでみぬきをこれまで無事に育ててこれたのも、こちらもまた長年の親友であるナマエちゃんのお陰だったりする。ぼくが子育てで困る度に、女の子の視点に立って色々とアドバイスをしてくれていた。
でもここで黙ってしまっては、元敏腕弁護士の名折れだ。
とにかく、とりあえず異議を唱えてみる。
「い、異議あり!」
「何だ」
「みぬきの世話で忙しくて、構ってもらえなくなって寂しくなったからってナマエちゃんに強引に結婚を迫ったのは誰だ!」
「ぐッ……」
今度は御剣が黙る番だった。
というか図星か。図星なのか。
「待った!!」
ぼくたちの膠着状態を破ったのは、意外にもキッチンからの声だった。
「怜侍くんは全然強引なんかじゃありませんでした!本当に紳士的なプロポーズだったもの」
エプロン姿のナマエちゃんは、大きくなったお腹の上で腕を組んで、ちょっと不服そうに口をとがらせていた。
隣でお手伝いをしていたみぬきは、広げた手で口を隠して、思いっきり驚いていた。
ぼくはというと、『シンシテキなぷろぽーず』のコトバのアマイヒビキの破壊力に圧倒され、言葉が出ない。
御剣に至っては完全に硬直していた。
しん、と静まりかえるリビング。
そんなぼくらの動揺を物ともせず、爆弾発言をした当の本人はてきぱきとダイニングテーブルを整えていく。
流石にお皿を運ぶのは難儀そうで、我にかえったぼくは慌てて席を立った。
「ぼくも手伝うよ」
「いいのいいの。座ってて」
「そんな訳にはいかないよ」
そんなやりとりをしているうちに硬直が解けたらしい御剣が、ナマエちゃんの代わりにさっと食器を運んで行く。
意外なカテイテキな一面を垣間見れて、ぼくは何だかホッと安心してしまった。
「……何をニヤついている」
「いやあ、別に」
みぬきの元気ないただきます、の合図で食卓が始まった。
「パパ、にんじんはみぬきが切ったの!」
「ああ、道理でいつもよりにんじんがおいしいと思ったよ」
くすくすとナマエちゃんは笑い、御剣からは、この親馬鹿め、という呆れた視線が飛んでくる。
今に見ていろ御剣。お前だって近いうちにこんな風になるんだからな!
次に皆で食卓を囲む時には、御剣家の新しい家族と一緒に出来たらいいな。
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