彼女に初めて負けた日に
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部屋には時折、駒と盤が触れる以外何も聞こえない。
静寂な空間には、西日が差し込んで、まるで舞台のライトのように盤上を照らしていた。
テーブルを挟んだ向かいの相手――[#dn=1#]は、私のキングがbの1に移動すると、
ふと眉根を寄せ、組んだ指の上に顎を乗せて目を閉じた。
今回の勝負は黒が[#dn=1#]、白が私である。チェスにおいて、一般的に白が有利であると
言われているが、黒の攻撃的な戦略にやや押され気味だ。
彼女の長い睫毛が目元に影を落としていた。随分と考えこんでいるようで、瞼は閉じられ眉間に皺が寄っている。
そんな[#dn=1#]の熟考している様子に、不謹慎ながらも見惚れてしまっていた。
彼女は瞼を開くと、盤上にすばやく目を走らせ、ナイトを取るとcの3へ移動した。
……む、これはなかなかの窮地ではないだろうか。
私は気を引き締め直すと、頭のなかで戦術を組み立てた。
*
何度目かの攻防のあと、[#dn=1#]は何かを確かめるように、ゆっくりと駒を進めた。
黒のクイーンをdの2へ動かす。
「チェックメイト」
彼女は小さくつぶやき、顔を上げた。
確かに、これ以上駒の動かしようがない。どう動かしても2、3手以内にはキングを取られてしまうだろう。
「……私の負けだ」
私と目が合うと、びっくりしたように目を丸くした。
まるで、そんな事はありえない、とでも言うように。
しかし、やがてその顔に徐々に喜色満面の笑みが広がる。
「やった!遂に怜侍くんに勝ったー!」
万歳の格好をしてひとしきり喜ぶと、そのまま椅子に凭れて、ぐーっと伸びをした。
珍しい彼女のはしゃぎように、思わず苦笑が漏れる。
「そんなに私に勝ちたかったのか?」
「そりゃあね。だって今まで一度も怜侍くんに勝ったことないんだもの」
くるくると、最後に取った白のポーンを指先で回す。
「というか、こうやってまた、ただチェスをしたかっただけなのかも」
うきうきとした顔をした彼女から何気なく発された台詞にどきりとした。
彼女にとっては何気ない発言だったのだろうが、こちらとしては穏やかでいられない。
こちらがどれだけ心を動かされているのか知っているのだろうか。
今日は彼女にやられっぱなしだが、少し反撃しても許されるだろうか。
手を伸ばして、駒を片付ける[#dn=1#]の手にそっと触れた。びっくりしたようにこちらを見返す瞳と目が合う。
その手は昔と変わらず温い。熱いくらいだった。こうして彼女に触れるのは何年ぶりだろう、と思う。
「[#dn=1#]くん」
今度はこちらが攻める番だ。
「実は、私は――」
「御剣検事、事件ッスよ!」
勢い良く扉を開き駆け込んできたのはイトノコリギ刑事だった。
驚いて思わず彼女の手を放す。
「事件?!現場はどこ?私も行く!」
鞄を掴むやいなや刑事の後を追う[#dn=1#]。今までの静謐な空気は何処へやら、すっかり騒々しくなってきた。
糸鋸刑事の間の悪さを少し恨めしく思いながら私は一つため息を漏らすと、前の2人を追いかけた。
(私情で給与査定をしたいと思ったのは初めてだ!)
静寂な空間には、西日が差し込んで、まるで舞台のライトのように盤上を照らしていた。
テーブルを挟んだ向かいの相手――[#dn=1#]は、私のキングがbの1に移動すると、
ふと眉根を寄せ、組んだ指の上に顎を乗せて目を閉じた。
今回の勝負は黒が[#dn=1#]、白が私である。チェスにおいて、一般的に白が有利であると
言われているが、黒の攻撃的な戦略にやや押され気味だ。
彼女の長い睫毛が目元に影を落としていた。随分と考えこんでいるようで、瞼は閉じられ眉間に皺が寄っている。
そんな[#dn=1#]の熟考している様子に、不謹慎ながらも見惚れてしまっていた。
彼女は瞼を開くと、盤上にすばやく目を走らせ、ナイトを取るとcの3へ移動した。
……む、これはなかなかの窮地ではないだろうか。
私は気を引き締め直すと、頭のなかで戦術を組み立てた。
*
何度目かの攻防のあと、[#dn=1#]は何かを確かめるように、ゆっくりと駒を進めた。
黒のクイーンをdの2へ動かす。
「チェックメイト」
彼女は小さくつぶやき、顔を上げた。
確かに、これ以上駒の動かしようがない。どう動かしても2、3手以内にはキングを取られてしまうだろう。
「……私の負けだ」
私と目が合うと、びっくりしたように目を丸くした。
まるで、そんな事はありえない、とでも言うように。
しかし、やがてその顔に徐々に喜色満面の笑みが広がる。
「やった!遂に怜侍くんに勝ったー!」
万歳の格好をしてひとしきり喜ぶと、そのまま椅子に凭れて、ぐーっと伸びをした。
珍しい彼女のはしゃぎように、思わず苦笑が漏れる。
「そんなに私に勝ちたかったのか?」
「そりゃあね。だって今まで一度も怜侍くんに勝ったことないんだもの」
くるくると、最後に取った白のポーンを指先で回す。
「というか、こうやってまた、ただチェスをしたかっただけなのかも」
うきうきとした顔をした彼女から何気なく発された台詞にどきりとした。
彼女にとっては何気ない発言だったのだろうが、こちらとしては穏やかでいられない。
こちらがどれだけ心を動かされているのか知っているのだろうか。
今日は彼女にやられっぱなしだが、少し反撃しても許されるだろうか。
手を伸ばして、駒を片付ける[#dn=1#]の手にそっと触れた。びっくりしたようにこちらを見返す瞳と目が合う。
その手は昔と変わらず温い。熱いくらいだった。こうして彼女に触れるのは何年ぶりだろう、と思う。
「[#dn=1#]くん」
今度はこちらが攻める番だ。
「実は、私は――」
「御剣検事、事件ッスよ!」
勢い良く扉を開き駆け込んできたのはイトノコリギ刑事だった。
驚いて思わず彼女の手を放す。
「事件?!現場はどこ?私も行く!」
鞄を掴むやいなや刑事の後を追う[#dn=1#]。今までの静謐な空気は何処へやら、すっかり騒々しくなってきた。
糸鋸刑事の間の悪さを少し恨めしく思いながら私は一つため息を漏らすと、前の2人を追いかけた。
(私情で給与査定をしたいと思ったのは初めてだ!)
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