The fathers and the daughters2
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The fathers and the daughters2.
『狩魔はカンペキをもってよしとする』
そう宣言して法廷で完璧な有罪判決を勝ち取る、まだ年端もいかない検事の事を知ったのは、名前がアメリカに赴任してきてからすぐのことだった。有力な証人、決定的な証拠、そして陪審員を味方につける巧みな話術を持った彼女の事を知らない者はいなかった。
狩魔、と聞いて思い出したのは、昔子供の頃に聞いた聞いた父の話だ。
いつも疲れ切った顔で帰ってくる父が、その日は珍しく上機嫌で帰宅したのをよく憶えている。
「お父さんおかえり!今日は元気だね!何かいいことでもあったの?」
「ただいま、名前。ダメじゃないかこんな夜遅くまで起きてたら」
「だってお父さんが帰ってくるのを待っていたかったんだもん。それで、なになに?なにかあったの?」
「そうだね、今一緒に仕事をしている検事さんに娘さんが生まれたそうなんだ。いやあ、あんなに嬉しそうな狩魔検事、初めて見たよ」
「ふうん、その『かるま検事』ってどういう人なの?」
「うぅん、難しいなぁ。……でも人使いが荒いことは確かだよねえ」
日頃の仕事を思い出しているのか、父は遠い目をしてそう呟いた。
「じゃあわるいひとじゃない!」
「名前」
頬を膨らませて、頭から蒸気を出さんばかりに憤慨する娘に苦笑すると、父は背を屈め、名前と目を合わせてこう言った。
「人って云うのは必ずしも『良い』とか『悪い』で分けられないんだよ。
例えば誰かが狩魔検事を悪い人だって言ったとしても、その人には悪い面しか
見えていないだけなんだ……名前には少し難しいかな?」
真剣な顔で語った父と、狩魔と言う検事がどんな関係を築いていたのか、もう知る由もないが、父は父の信条を貫いた刑事だったと思いたい。
そうして狩魔冥と初めて対面した時は、この少女が父が話していた狩魔という検事の娘なのだという認識と、父とのあの会話から、それほどまで経ってしまったという感慨を覚えていた。
「あなたが苗字名前?」
「はい、国際警察からこの事件の担当として出向してきました。よろしくお願いします」
「私は狩魔冥。こちらこそよろしく。……私の顔に何かついてるかしら?」
「いえ、なんでもありません!」
つい昔の記憶に耽って、無意識に冥をじっと見つめていた名前は、我に帰るとあわてて首を振った。
「こんな小娘がパートナーで不安?見くびってもらっては困るわね」
名前の様子を誤解した彼女は、挑発的に笑って指を振って見せた。
「違います……つい、昔のことを思い出して……」
「昔のこと?」
「狩魔検事のお父様と、父が一緒に仕事をした時に、あなたが生まれた時のことを聞いたことを思い出しちゃったんです」
「……そう、パパは何て?」
「嬉しそうだったと、父は言っていたと思います」
「そ、そう……」
そこで初めて冥は少女らしい照れた表情を見せた。
「あなた、ご家族は日本に?」
「いえ、家族はもういません。私一人です」
その問いに、ちくりと胸を刺す痛みを感じたが、もうかつてのように怯むことなく名前は答えた。
「そ、そうなの……ごめんなさい」
冥ははっとした表情で肩口を握りしめ、俯いた。彼女の傷ついたような表情に、名前はこの少女は立ち向かうべきものには強気だが、人の傷には繊細だということを知った。
そういえば狩魔冥はアメリカで生まれ育ったと聞いた。父親はずっと日本で仕事をしているのだから、寂しい思いをしているのかもしれない。
何となくそんなことを考えると、彼女に対し親近感が湧いてくるから不思議だ。
「いいんです、気にしないで」
名前はにこりと笑うと手を出した。
「改めて、宜しくお願いします。狩魔検事」
「……よろしくお願いするわ」
つられて笑うと、冥は肩口から手を離し、そろりと名前の手を握った。
その後、幾つかの大規模な国際犯罪を二人で解決に導いた。名前の逮捕した犯人を、冥は必ず有罪にした。
※ ※ ※
そんな日常が続くと思っていた。あの日までは。
その日も早くから名前と捜査の打ち合わせをしながら、他の捜査官からの連絡を待っていた
。
突然、ピリリリと冥の携帯が着信を告げた。
「もしもし?」
電話に出るなり冥の顔から表情が消え、通話が続くにつれ顔色が悪くなる。時折相槌を打つ声さえ力ない。異常を感じた名前が携帯に手を伸ばしたが、冥は会話に夢中で固く携帯を握りしめて放そうとしない。名前がそこにいる事すら忘れているようだった。一体何の会話か知る事すら叶わない状況で、はらはらしながら冥を見守ることしかできなかった。
弱々しく頷いたのを最後に携帯を置くと、冥はがくりと椅子から崩れ落ちた。
「狩魔検事!」
弾かれたように駆け寄り抱き上げると、カタカタと身体が小さく震えていた。その瞳は虚空を見つめ、光が消えていた。
「大丈夫ですか!?」
「どうしよう…………」
「え?」
「パパが……日本で……サツジンで……今タイホされたって……」
名前はそれを聞いて絶句した。しばし茫然とするが、腕の中の少女の存在を思い出すと、冥を抱く腕に力を入れた。
しばらくの間抱き合うようにして床にしゃがみ込んでいた。お互いの心臓の音すら聞こえそうな静寂の中、名前がゆっくりと口を開いた。
「狩魔検事は、お父様のことが好きなんですね」
「大好き、なんて、もう誰にも言えないじゃない!」
一度大きくしゃくりあげると、初めて冥は声をあげて泣き出した。
嗚咽が続いたのは、ほんの僅かな間だった。軽く身を捩ると名前は腕を解く。俯いたまま涙を拭うと、もうそれ以上涙が出ることはなかった。名前は何も言わずただ側にいる。思いついたことを口にするのには迷いはなかった。
「日本に行くわ、私」
理由は言わない。それでも彼女ならわかってくれると信じているから。
それから。
それから。
「あなたのこと、名前って呼んでもいい?」
「ええ、もちろん」
***
(結局日本に行けたのは、当面の仕事が片付いてからで、随分経った後だったのだけれど)
そもそも日本に行ったのは、遣り場のない怒りをぶつけに行ったのか、父の罪を暴いた相手に負けに行ったのか、それともーーただ泣きに行ったのか。
アメリカに戻った冥を迎えたのは、変わらない名前の微笑みだった。何も言わずとも、まるで全てを見透かした上で肯定してくれるような彼女の存在に、どれほど救われてきただろう。
眼下には雲の海が広がっている。今、冥は機上の人だ。
日本まであと3時間。
名前に会うのも久しぶりになる。
(最初、怜侍と組んで捜査をしていると聞いたときは驚いたけれど)
どんな巨大な悪にでも、決して弱音を吐くことなく立ち向かった彼女が好きだった。
(待っていて、名前)
『狩魔はカンペキをもってよしとする』
そう宣言して法廷で完璧な有罪判決を勝ち取る、まだ年端もいかない検事の事を知ったのは、名前がアメリカに赴任してきてからすぐのことだった。有力な証人、決定的な証拠、そして陪審員を味方につける巧みな話術を持った彼女の事を知らない者はいなかった。
狩魔、と聞いて思い出したのは、昔子供の頃に聞いた聞いた父の話だ。
いつも疲れ切った顔で帰ってくる父が、その日は珍しく上機嫌で帰宅したのをよく憶えている。
「お父さんおかえり!今日は元気だね!何かいいことでもあったの?」
「ただいま、名前。ダメじゃないかこんな夜遅くまで起きてたら」
「だってお父さんが帰ってくるのを待っていたかったんだもん。それで、なになに?なにかあったの?」
「そうだね、今一緒に仕事をしている検事さんに娘さんが生まれたそうなんだ。いやあ、あんなに嬉しそうな狩魔検事、初めて見たよ」
「ふうん、その『かるま検事』ってどういう人なの?」
「うぅん、難しいなぁ。……でも人使いが荒いことは確かだよねえ」
日頃の仕事を思い出しているのか、父は遠い目をしてそう呟いた。
「じゃあわるいひとじゃない!」
「名前」
頬を膨らませて、頭から蒸気を出さんばかりに憤慨する娘に苦笑すると、父は背を屈め、名前と目を合わせてこう言った。
「人って云うのは必ずしも『良い』とか『悪い』で分けられないんだよ。
例えば誰かが狩魔検事を悪い人だって言ったとしても、その人には悪い面しか
見えていないだけなんだ……名前には少し難しいかな?」
真剣な顔で語った父と、狩魔と言う検事がどんな関係を築いていたのか、もう知る由もないが、父は父の信条を貫いた刑事だったと思いたい。
そうして狩魔冥と初めて対面した時は、この少女が父が話していた狩魔という検事の娘なのだという認識と、父とのあの会話から、それほどまで経ってしまったという感慨を覚えていた。
「あなたが苗字名前?」
「はい、国際警察からこの事件の担当として出向してきました。よろしくお願いします」
「私は狩魔冥。こちらこそよろしく。……私の顔に何かついてるかしら?」
「いえ、なんでもありません!」
つい昔の記憶に耽って、無意識に冥をじっと見つめていた名前は、我に帰るとあわてて首を振った。
「こんな小娘がパートナーで不安?見くびってもらっては困るわね」
名前の様子を誤解した彼女は、挑発的に笑って指を振って見せた。
「違います……つい、昔のことを思い出して……」
「昔のこと?」
「狩魔検事のお父様と、父が一緒に仕事をした時に、あなたが生まれた時のことを聞いたことを思い出しちゃったんです」
「……そう、パパは何て?」
「嬉しそうだったと、父は言っていたと思います」
「そ、そう……」
そこで初めて冥は少女らしい照れた表情を見せた。
「あなた、ご家族は日本に?」
「いえ、家族はもういません。私一人です」
その問いに、ちくりと胸を刺す痛みを感じたが、もうかつてのように怯むことなく名前は答えた。
「そ、そうなの……ごめんなさい」
冥ははっとした表情で肩口を握りしめ、俯いた。彼女の傷ついたような表情に、名前はこの少女は立ち向かうべきものには強気だが、人の傷には繊細だということを知った。
そういえば狩魔冥はアメリカで生まれ育ったと聞いた。父親はずっと日本で仕事をしているのだから、寂しい思いをしているのかもしれない。
何となくそんなことを考えると、彼女に対し親近感が湧いてくるから不思議だ。
「いいんです、気にしないで」
名前はにこりと笑うと手を出した。
「改めて、宜しくお願いします。狩魔検事」
「……よろしくお願いするわ」
つられて笑うと、冥は肩口から手を離し、そろりと名前の手を握った。
その後、幾つかの大規模な国際犯罪を二人で解決に導いた。名前の逮捕した犯人を、冥は必ず有罪にした。
※ ※ ※
そんな日常が続くと思っていた。あの日までは。
その日も早くから名前と捜査の打ち合わせをしながら、他の捜査官からの連絡を待っていた
。
突然、ピリリリと冥の携帯が着信を告げた。
「もしもし?」
電話に出るなり冥の顔から表情が消え、通話が続くにつれ顔色が悪くなる。時折相槌を打つ声さえ力ない。異常を感じた名前が携帯に手を伸ばしたが、冥は会話に夢中で固く携帯を握りしめて放そうとしない。名前がそこにいる事すら忘れているようだった。一体何の会話か知る事すら叶わない状況で、はらはらしながら冥を見守ることしかできなかった。
弱々しく頷いたのを最後に携帯を置くと、冥はがくりと椅子から崩れ落ちた。
「狩魔検事!」
弾かれたように駆け寄り抱き上げると、カタカタと身体が小さく震えていた。その瞳は虚空を見つめ、光が消えていた。
「大丈夫ですか!?」
「どうしよう…………」
「え?」
「パパが……日本で……サツジンで……今タイホされたって……」
名前はそれを聞いて絶句した。しばし茫然とするが、腕の中の少女の存在を思い出すと、冥を抱く腕に力を入れた。
しばらくの間抱き合うようにして床にしゃがみ込んでいた。お互いの心臓の音すら聞こえそうな静寂の中、名前がゆっくりと口を開いた。
「狩魔検事は、お父様のことが好きなんですね」
「大好き、なんて、もう誰にも言えないじゃない!」
一度大きくしゃくりあげると、初めて冥は声をあげて泣き出した。
嗚咽が続いたのは、ほんの僅かな間だった。軽く身を捩ると名前は腕を解く。俯いたまま涙を拭うと、もうそれ以上涙が出ることはなかった。名前は何も言わずただ側にいる。思いついたことを口にするのには迷いはなかった。
「日本に行くわ、私」
理由は言わない。それでも彼女ならわかってくれると信じているから。
それから。
それから。
「あなたのこと、名前って呼んでもいい?」
「ええ、もちろん」
***
(結局日本に行けたのは、当面の仕事が片付いてからで、随分経った後だったのだけれど)
そもそも日本に行ったのは、遣り場のない怒りをぶつけに行ったのか、父の罪を暴いた相手に負けに行ったのか、それともーーただ泣きに行ったのか。
アメリカに戻った冥を迎えたのは、変わらない名前の微笑みだった。何も言わずとも、まるで全てを見透かした上で肯定してくれるような彼女の存在に、どれほど救われてきただろう。
眼下には雲の海が広がっている。今、冥は機上の人だ。
日本まであと3時間。
名前に会うのも久しぶりになる。
(最初、怜侍と組んで捜査をしていると聞いたときは驚いたけれど)
どんな巨大な悪にでも、決して弱音を吐くことなく立ち向かった彼女が好きだった。
(待っていて、名前)
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