好きしか知らない 𝚙𝚝.𝟹
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【𝙹𝚒𝚖𝚒𝚗】
「あんたなんかいらない、おれの前から消えてくれよ。」
思わず伸ばした手は空を切ってしばらく彷徨ったあとぼくの膝の上に着地した。ぽつん、残されたぼくは呆然と握りしめた拳を見つめたまま頭の中でジョングクの言葉を反復する。
恋人という関係を解消したとたんに赤の他人のような態度をとるジョングクに最初は腹が立った。おまえばっかりつらいみたいな顔するなよ!ぼくだって平気なわけじゃないんだぞ!って、自分が悪いくせに苛立ったりしてそのうち、寂しくて、さみしくて、哀れな気持ちになっていった。
これからも毎日おんなじ空間にいて同じ時間を過ごさなければいけないのにこれじゃあぼくは、息もできない。ジョングクにとっての兄ちゃんたちの中にもう一度ぼくも...一人くらい増えたって問題ないだろって唯一見つけた打開策は一蹴された。
ぽつり、ぽつり、握った拳の上に落ちては流れて淡いブルージーンズが次第に濃く変色していく。泣きたくなんてないのに、なんでこんなに悲しいんだろう。あんなひどい嘘なんか吐かなかければよかった。ぼくはただ、暴力にも似た言葉の刃や世界中の差別や偏見からおまえを守りたかった。正直に伝えていればおまえの傷はもう少し浅くて済んだのかな。涙は止まらない。
「ジミナ?ヒョンがホットック焼いてあげるから手伝ってくれる?」
顔を上げると肩にかけていたバスタオルで顔をごしごし拭ってくれる。大きな身体を丸くして屈んだジンヒョンがピンクのパジャマ姿でニコニコ笑っていた。
いつからいたの、とぼくはヒョンの腕にしがみついて、泣いた。うわあーんと大きな声をあげて、泣いた。ジンヒョンがパジャマを着替えなきゃいけないくらい、泣きじゃくった。
*
「...おいひい!」
向かいの席には水色のパジャマに着替えたジンヒョン。うおー美味い!美味い!とオーバーアクションでぼくが口に入れようとしていたひと切れのホットックを奪って美味しそうに食べた。このヒョンとこうしているとしょっぱいケーキの味を思い出す。
「こんな時は甘いものを食べるのが一番!元気が出るからいっぱい食べな。」
あのときもジンヒョンはそう言ってくれたっけ。
「お前は時々思い詰めて周りが見えなくなっちゃうんだジミナ?お前は一人じゃないんだよいつでもヒョンがお前たちの味方だってこと忘れないで。もちろん、無関心なヒョンもおっちょこちょいなヒョンも賑やかなヒョンも四次元な友達も、ね?」
甘い甘いホットックがまた、しょっぱい涙の味に変わっていく。
「ひょおん、ひっく...じょんぐぎホットッ...ク、だいすきなん、だ...ひっく、」
「ふふふ、そしたら可愛い末っ子のために超特大サイズのやつ焼いてあげるか!」
「っ、うん!」
冷めないうちに届けてやりな、と大きなお皿を手渡されて急ぎ足でジョングクの部屋へ向かったぼくはドアの前で息をのんでその場にうずくまった。はじめは熱かった膝のうえのお皿が冷たくなってしまうくらいにはそこから動けなかった。
興奮したジョングクの声とそれを宥めるナムジュニヒョンの声は次第に、ナムジュニヒョンの穏やかな話し声に変わってジョングクの声がぱったりと止んだ。もしかしてまた声を殺して泣いているのだろうか。
部屋から出てきたナムジュニヒョンがぼくがいることに驚くでもなく普通に頭を撫でてくれたあと、一度大きく息を吸って静かにドアを開けた。ぐしゅぐしゅな顔でこっちを見ていたジョングクは泣き顔を見られたくないのか膝を抱え込んで、まぁるい頭だけが見えている。
食いしん坊のジョングクが甘い匂いにつられてこっちを見てくれるかとお皿を前に置いてみたけれど、ジョングクが顔を上げることはなかった。かわりに何かを探しているみたいに空中を彷徨っている彼の右手を二つの手でそっと包む。ぼくはここにいるよ、って。
「ぼくしかいないって、本当?」
「ぼくじゃなきゃダメって、ほんとにほんと?」
「ジョングクが...ぼくを幸せにしてくれるの?」
「一生?」
矢継ぎ早な質問に一回一回、うんうん、うん、と首を振って一応返事はしてくれるけれどその顔は膝に埋められたままで。それでも離そうとはしない手をにぎにぎしたらいたずらするなと言わんばかりにぎゅうーっと握り返された。
「おまえが約束してくれるなら、いいよ。」
何がいいの?
また付き合ってくれるの?
一生そばにいてくれる?
もう別れるって言わない?
膝小僧に向かってモゴモゴしゃべりかけてるけど多分、言ってることはこんな感じ。
「結婚、してあげてもいいよ?」
するっ、するるっ、脱力したジョングクの手が滑るように離れていって。やっと見ることができたジョングクの顔は涙と鼻水でグズグズでなんだかぼくも力が抜けてしまった。笑いすら込み上げてくる。
うん本当、今の言葉はぼくの心からの贈りものだよって。古びた小さな教会で二人だけでお祈りしよう、これからもずっと幸せでいられますようにって。それから一度しか言わないからよく聞いて、
「酷いこと言っておまえを傷つけたのにぼくを好きでいてくれて、嫌いにならないでいてくれてありがとな。おまえには十分すぎる幸せをもらっているよだから、今度はぼくが...チョンジョングクを幸せにしてあげる。」
あぐらの足の真ん中にすっぽりと綺麗におさまって、ゆらーりゆらり。心地よい揺れに身を任せながらも胸の辺りで交差している腕は油断すると絞め殺されそうになるから、しっかりと押さえてなきゃいけない。
当然この体勢ではジョングクの顔は見えないけれど鼻を啜る音がしなくなったからようやく泣き止んだかな?と少々のけ反ってジョングクを見上げてみた。アングルのせいもあるんだろうけど真っ先に目に入ったのはジョングク自慢の高い鼻で、ハワイで日焼けした時よりも赤くなっている。
「ちょーぶさいく。」
とりあえずジョングクに涙か鼻水だか分からないそれを何とかしてよってティッシュを握らせた。ようやく息苦しさから解放されたぼくはしゃんとしてたらイケメンすぎる顔を綺麗にするのを手伝ってあげる、涙も鼻水もよだれもいっしょくた。
何から話せばいいかな、そういえばさっき謝るの忘れた。あの子とセックスしたなんて、最低な嘘を吐いたこと。ジョングクがどれほど苦しむかを知っていたのに、知っていたからこその嘘だったんだけど。言い訳のしようもなく悪いのは、ぼくだ。
おまえにぼくしかいないようにぼくだって、おまえだけ。おまえがぼくじゃなきゃダメだと思うのと同じでぼくもおまえじゃなきゃ、ダメなんだよ。ジョングクの幸せがぼくの幸せだからぼくがジョングクを幸せにできたらそれはぼくの幸せに直結するからえっとつまりは、
「ぼくはおまえで、おまえはぼく。」
「何かってとすーぐそれだ、もう誤魔化されないぞ!おれってそんなに頼りない?肝心なことはいつも一人で決めちゃうじゃん、おれなんて完全無視、」
「頼りないなんてただの一度も思ったことなんかないよ?ぼくは...つらいとき必ずおまえの姿を探すし、楽しいときもおまえを目で追ってる。美味しいものを食べたときなんか次はジョングクと来ようっていっつも思うもん。ぼくが生きる世界はジョングクを中心に回ってるんだなっておまえがいなくなって思ったんだから、」
「おれはいなくなってないしこの先もいなくならないの!あんたがこれからどんなバカなことを言い出したとしてももう絶っ対!聞いてやらない!!」
ちーん、と鼻をかんだティッシュを力任せにごみ箱に投げ入れる。ごみ箱がびっくりしてカタカタ揺れてるじゃんか。グズグズと泣いていたかと思えば今度はプリプリ小言を言いはじめて、いつものジョングクだ。
ごめんね?とご機嫌を伺うようにジョングクの顔を覗き込んだ。ぼくたちなんでこうなっちゃうんだろうね?ってひとり言みたく呟いたら、あんたのせいだよ!ほっぺをむぎゅうと抓られた。じわじわ、痛い。
「あそういえば...ジンヒョンがそろそろ同棲許してやってもいいかなって言ってたよ?」
「ふーん...えええええ!?」
「ぷはっ、おもしろい顔。」
そんな重大ニュースもっと早く言ってよ!と鼻息荒く言うジョングクにそんなに興奮しなくてもと笑いが止まらない。
今までもずっと一緒に暮してきたんだし特別なにがどう変わるってものでもないと思うけど。もっと言えば付き合っていても付き合っていなくても、結婚してもしなくても、ぼくたちはぼくたちのまんまなんじゃないかな?そう思わない?ジョングガ。
「はぁ?あんたどこまで天然なの!全然違う!ぜんぜんちがう!ぜんっぜん違います!!」
なんで3回言ったの?とまたまた笑っちゃったぼくに大事なことだからだよ!とほっぺたを膨らませるジョングクが可愛い。まだ幼い日のジョングクはこうやって拗ねてはシュガヒョンにこっぴどく叱られてた。すぐにジョングクを庇うぼくも甘やかすな!なんてよく一緒に叱られたな。
目にいっぱい涙を溜めて口唇を尖らすジョングクの頭を撫でてやるのが、ぼくの役目だと思っていた。第二次反抗期にはちょっぴり手を焼いたけれど、あれは愛情の裏返しだったと告白されたときは困惑してすごく悩んだのも今となってはいい思い出。
「あなたが他のやつと遊びに行くとして例えばそれがセウォンでも、行くなって止める権利があるのに言わないのと言えないのとでは全く別物ってこと!」
「...よく分からないけど、この際だから言わせてもらえばその、あれだよ?そういうのもうちょっと何とかしようよ。」
「やきもち妬くなって言いたいの。」
「妬くなとは言わないけどっ...あー思い出した!おまえだって合コン行ってたじゃんか!ぼく知ってるんだからな!」
「あの時はもう振られてたんだし罪にはなんないでしょ。」
「女の子お持ち帰りするかもってテヒョンが言ってた...どうなの?」
「は?...は?は?あの日おれめちゃくちゃ早く帰ってきたでしょーが!あんたのことでいっぱいいっぱいでそんな余裕あるわけないし!ったくあの人は余計なことをっ!ほんっと腹立つなぁ、」
「そんな風には見えなかったけどね。」
「だったらおれも言わせてもらうけど、愛嬌振りまくのもたいがいにしてほしいし癖なのか知らないけど誰にでも引っつくのやめてもらえる?無意識なんだったらこれからは24時間ずっと意識してて!」
はあ...これだもんな。こんなときでも負けず嫌いをいかんなく発揮してひとつ言ったら何倍にもなって返ってくる。あと、もう二度と嘘は吐かないでお願いだから、ときつく抱きしめられた。ジョングクの腕の力が強すぎてわりと痛いけどやっぱりこの痛みさえも幸せで、愛おしい気持ちが溢れて二人して溺れてしまいそうだね。
「喜びは分かち合ってつらいことは二人で乗り越えようってなんべんも話したよね?どうしてそんなに忘れんぼなのかなぁ、」
柔らかい笑みを浮かべて頬をつたう涙を掬ってくれるジョングク。そういえば泣くのはおれの前だけにして、なんて言われたこともあったな。あのときは泣き虫はおまえの方じゃん、ぼくが泣くとおまえがすぐにもらっちゃうから泣くに泣けないよ!なんて笑い飛ばしたけれど、ぼくのジョングクはずいぶんと頼もしくなった。
ぼくのコンプレックスや嫌いな弱い部分はジョングクの大きな身体が隠してくれると思えばもっと、強くなれる気がする。バカみたいに同じ過ちを繰り返すぼくたちだけどその分、二人の絆は固く、強く結ばれて揺るぎないものになっていくんだよとジョングクが言う。おまえがそう言うんだから、そうなんだろうな。
「ジミナおれはね?とっくの昔に覚悟は出来てるんだよ、だからずっと...あなたを待ってるんだ。」
急がなくていいと言ってくれた。ジョングクが待っていてくれるその場所へぼくが追いつくまで、いつまでも待つつもりだと。ぼくのそばを決して離れたりしないで引っつき虫みたいにくっついて見守ることにするって。
「ぷっ、なんだよそれ.....あはははっ!」
「あ笑った。」
「ふははっ、おまえだって笑ってんじゃん。」
「ふはははっ、」
だってあなたが笑うから、と。ジョングクそれ、答えになってない。そしたらぼくも、涙が出るほど笑っちゃうのはおまえのそのくしゃくしゃの笑顔のせいだよ。
ぼくたちは二人、笑って泣いて、泣いて笑って。泣き笑いしながらすっかり忘れられたホットックの大皿を挟んで、引き寄せられるように触れた口唇と口唇はとてもしょっぱい幸せの味がした。
「あんたなんかいらない、おれの前から消えてくれよ。」
思わず伸ばした手は空を切ってしばらく彷徨ったあとぼくの膝の上に着地した。ぽつん、残されたぼくは呆然と握りしめた拳を見つめたまま頭の中でジョングクの言葉を反復する。
恋人という関係を解消したとたんに赤の他人のような態度をとるジョングクに最初は腹が立った。おまえばっかりつらいみたいな顔するなよ!ぼくだって平気なわけじゃないんだぞ!って、自分が悪いくせに苛立ったりしてそのうち、寂しくて、さみしくて、哀れな気持ちになっていった。
これからも毎日おんなじ空間にいて同じ時間を過ごさなければいけないのにこれじゃあぼくは、息もできない。ジョングクにとっての兄ちゃんたちの中にもう一度ぼくも...一人くらい増えたって問題ないだろって唯一見つけた打開策は一蹴された。
ぽつり、ぽつり、握った拳の上に落ちては流れて淡いブルージーンズが次第に濃く変色していく。泣きたくなんてないのに、なんでこんなに悲しいんだろう。あんなひどい嘘なんか吐かなかければよかった。ぼくはただ、暴力にも似た言葉の刃や世界中の差別や偏見からおまえを守りたかった。正直に伝えていればおまえの傷はもう少し浅くて済んだのかな。涙は止まらない。
「ジミナ?ヒョンがホットック焼いてあげるから手伝ってくれる?」
顔を上げると肩にかけていたバスタオルで顔をごしごし拭ってくれる。大きな身体を丸くして屈んだジンヒョンがピンクのパジャマ姿でニコニコ笑っていた。
いつからいたの、とぼくはヒョンの腕にしがみついて、泣いた。うわあーんと大きな声をあげて、泣いた。ジンヒョンがパジャマを着替えなきゃいけないくらい、泣きじゃくった。
*
「...おいひい!」
向かいの席には水色のパジャマに着替えたジンヒョン。うおー美味い!美味い!とオーバーアクションでぼくが口に入れようとしていたひと切れのホットックを奪って美味しそうに食べた。このヒョンとこうしているとしょっぱいケーキの味を思い出す。
「こんな時は甘いものを食べるのが一番!元気が出るからいっぱい食べな。」
あのときもジンヒョンはそう言ってくれたっけ。
「お前は時々思い詰めて周りが見えなくなっちゃうんだジミナ?お前は一人じゃないんだよいつでもヒョンがお前たちの味方だってこと忘れないで。もちろん、無関心なヒョンもおっちょこちょいなヒョンも賑やかなヒョンも四次元な友達も、ね?」
甘い甘いホットックがまた、しょっぱい涙の味に変わっていく。
「ひょおん、ひっく...じょんぐぎホットッ...ク、だいすきなん、だ...ひっく、」
「ふふふ、そしたら可愛い末っ子のために超特大サイズのやつ焼いてあげるか!」
「っ、うん!」
冷めないうちに届けてやりな、と大きなお皿を手渡されて急ぎ足でジョングクの部屋へ向かったぼくはドアの前で息をのんでその場にうずくまった。はじめは熱かった膝のうえのお皿が冷たくなってしまうくらいにはそこから動けなかった。
興奮したジョングクの声とそれを宥めるナムジュニヒョンの声は次第に、ナムジュニヒョンの穏やかな話し声に変わってジョングクの声がぱったりと止んだ。もしかしてまた声を殺して泣いているのだろうか。
部屋から出てきたナムジュニヒョンがぼくがいることに驚くでもなく普通に頭を撫でてくれたあと、一度大きく息を吸って静かにドアを開けた。ぐしゅぐしゅな顔でこっちを見ていたジョングクは泣き顔を見られたくないのか膝を抱え込んで、まぁるい頭だけが見えている。
食いしん坊のジョングクが甘い匂いにつられてこっちを見てくれるかとお皿を前に置いてみたけれど、ジョングクが顔を上げることはなかった。かわりに何かを探しているみたいに空中を彷徨っている彼の右手を二つの手でそっと包む。ぼくはここにいるよ、って。
「ぼくしかいないって、本当?」
「ぼくじゃなきゃダメって、ほんとにほんと?」
「ジョングクが...ぼくを幸せにしてくれるの?」
「一生?」
矢継ぎ早な質問に一回一回、うんうん、うん、と首を振って一応返事はしてくれるけれどその顔は膝に埋められたままで。それでも離そうとはしない手をにぎにぎしたらいたずらするなと言わんばかりにぎゅうーっと握り返された。
「おまえが約束してくれるなら、いいよ。」
何がいいの?
また付き合ってくれるの?
一生そばにいてくれる?
もう別れるって言わない?
膝小僧に向かってモゴモゴしゃべりかけてるけど多分、言ってることはこんな感じ。
「結婚、してあげてもいいよ?」
するっ、するるっ、脱力したジョングクの手が滑るように離れていって。やっと見ることができたジョングクの顔は涙と鼻水でグズグズでなんだかぼくも力が抜けてしまった。笑いすら込み上げてくる。
うん本当、今の言葉はぼくの心からの贈りものだよって。古びた小さな教会で二人だけでお祈りしよう、これからもずっと幸せでいられますようにって。それから一度しか言わないからよく聞いて、
「酷いこと言っておまえを傷つけたのにぼくを好きでいてくれて、嫌いにならないでいてくれてありがとな。おまえには十分すぎる幸せをもらっているよだから、今度はぼくが...チョンジョングクを幸せにしてあげる。」
あぐらの足の真ん中にすっぽりと綺麗におさまって、ゆらーりゆらり。心地よい揺れに身を任せながらも胸の辺りで交差している腕は油断すると絞め殺されそうになるから、しっかりと押さえてなきゃいけない。
当然この体勢ではジョングクの顔は見えないけれど鼻を啜る音がしなくなったからようやく泣き止んだかな?と少々のけ反ってジョングクを見上げてみた。アングルのせいもあるんだろうけど真っ先に目に入ったのはジョングク自慢の高い鼻で、ハワイで日焼けした時よりも赤くなっている。
「ちょーぶさいく。」
とりあえずジョングクに涙か鼻水だか分からないそれを何とかしてよってティッシュを握らせた。ようやく息苦しさから解放されたぼくはしゃんとしてたらイケメンすぎる顔を綺麗にするのを手伝ってあげる、涙も鼻水もよだれもいっしょくた。
何から話せばいいかな、そういえばさっき謝るの忘れた。あの子とセックスしたなんて、最低な嘘を吐いたこと。ジョングクがどれほど苦しむかを知っていたのに、知っていたからこその嘘だったんだけど。言い訳のしようもなく悪いのは、ぼくだ。
おまえにぼくしかいないようにぼくだって、おまえだけ。おまえがぼくじゃなきゃダメだと思うのと同じでぼくもおまえじゃなきゃ、ダメなんだよ。ジョングクの幸せがぼくの幸せだからぼくがジョングクを幸せにできたらそれはぼくの幸せに直結するからえっとつまりは、
「ぼくはおまえで、おまえはぼく。」
「何かってとすーぐそれだ、もう誤魔化されないぞ!おれってそんなに頼りない?肝心なことはいつも一人で決めちゃうじゃん、おれなんて完全無視、」
「頼りないなんてただの一度も思ったことなんかないよ?ぼくは...つらいとき必ずおまえの姿を探すし、楽しいときもおまえを目で追ってる。美味しいものを食べたときなんか次はジョングクと来ようっていっつも思うもん。ぼくが生きる世界はジョングクを中心に回ってるんだなっておまえがいなくなって思ったんだから、」
「おれはいなくなってないしこの先もいなくならないの!あんたがこれからどんなバカなことを言い出したとしてももう絶っ対!聞いてやらない!!」
ちーん、と鼻をかんだティッシュを力任せにごみ箱に投げ入れる。ごみ箱がびっくりしてカタカタ揺れてるじゃんか。グズグズと泣いていたかと思えば今度はプリプリ小言を言いはじめて、いつものジョングクだ。
ごめんね?とご機嫌を伺うようにジョングクの顔を覗き込んだ。ぼくたちなんでこうなっちゃうんだろうね?ってひとり言みたく呟いたら、あんたのせいだよ!ほっぺをむぎゅうと抓られた。じわじわ、痛い。
「あそういえば...ジンヒョンがそろそろ同棲許してやってもいいかなって言ってたよ?」
「ふーん...えええええ!?」
「ぷはっ、おもしろい顔。」
そんな重大ニュースもっと早く言ってよ!と鼻息荒く言うジョングクにそんなに興奮しなくてもと笑いが止まらない。
今までもずっと一緒に暮してきたんだし特別なにがどう変わるってものでもないと思うけど。もっと言えば付き合っていても付き合っていなくても、結婚してもしなくても、ぼくたちはぼくたちのまんまなんじゃないかな?そう思わない?ジョングガ。
「はぁ?あんたどこまで天然なの!全然違う!ぜんぜんちがう!ぜんっぜん違います!!」
なんで3回言ったの?とまたまた笑っちゃったぼくに大事なことだからだよ!とほっぺたを膨らませるジョングクが可愛い。まだ幼い日のジョングクはこうやって拗ねてはシュガヒョンにこっぴどく叱られてた。すぐにジョングクを庇うぼくも甘やかすな!なんてよく一緒に叱られたな。
目にいっぱい涙を溜めて口唇を尖らすジョングクの頭を撫でてやるのが、ぼくの役目だと思っていた。第二次反抗期にはちょっぴり手を焼いたけれど、あれは愛情の裏返しだったと告白されたときは困惑してすごく悩んだのも今となってはいい思い出。
「あなたが他のやつと遊びに行くとして例えばそれがセウォンでも、行くなって止める権利があるのに言わないのと言えないのとでは全く別物ってこと!」
「...よく分からないけど、この際だから言わせてもらえばその、あれだよ?そういうのもうちょっと何とかしようよ。」
「やきもち妬くなって言いたいの。」
「妬くなとは言わないけどっ...あー思い出した!おまえだって合コン行ってたじゃんか!ぼく知ってるんだからな!」
「あの時はもう振られてたんだし罪にはなんないでしょ。」
「女の子お持ち帰りするかもってテヒョンが言ってた...どうなの?」
「は?...は?は?あの日おれめちゃくちゃ早く帰ってきたでしょーが!あんたのことでいっぱいいっぱいでそんな余裕あるわけないし!ったくあの人は余計なことをっ!ほんっと腹立つなぁ、」
「そんな風には見えなかったけどね。」
「だったらおれも言わせてもらうけど、愛嬌振りまくのもたいがいにしてほしいし癖なのか知らないけど誰にでも引っつくのやめてもらえる?無意識なんだったらこれからは24時間ずっと意識してて!」
はあ...これだもんな。こんなときでも負けず嫌いをいかんなく発揮してひとつ言ったら何倍にもなって返ってくる。あと、もう二度と嘘は吐かないでお願いだから、ときつく抱きしめられた。ジョングクの腕の力が強すぎてわりと痛いけどやっぱりこの痛みさえも幸せで、愛おしい気持ちが溢れて二人して溺れてしまいそうだね。
「喜びは分かち合ってつらいことは二人で乗り越えようってなんべんも話したよね?どうしてそんなに忘れんぼなのかなぁ、」
柔らかい笑みを浮かべて頬をつたう涙を掬ってくれるジョングク。そういえば泣くのはおれの前だけにして、なんて言われたこともあったな。あのときは泣き虫はおまえの方じゃん、ぼくが泣くとおまえがすぐにもらっちゃうから泣くに泣けないよ!なんて笑い飛ばしたけれど、ぼくのジョングクはずいぶんと頼もしくなった。
ぼくのコンプレックスや嫌いな弱い部分はジョングクの大きな身体が隠してくれると思えばもっと、強くなれる気がする。バカみたいに同じ過ちを繰り返すぼくたちだけどその分、二人の絆は固く、強く結ばれて揺るぎないものになっていくんだよとジョングクが言う。おまえがそう言うんだから、そうなんだろうな。
「ジミナおれはね?とっくの昔に覚悟は出来てるんだよ、だからずっと...あなたを待ってるんだ。」
急がなくていいと言ってくれた。ジョングクが待っていてくれるその場所へぼくが追いつくまで、いつまでも待つつもりだと。ぼくのそばを決して離れたりしないで引っつき虫みたいにくっついて見守ることにするって。
「ぷっ、なんだよそれ.....あはははっ!」
「あ笑った。」
「ふははっ、おまえだって笑ってんじゃん。」
「ふはははっ、」
だってあなたが笑うから、と。ジョングクそれ、答えになってない。そしたらぼくも、涙が出るほど笑っちゃうのはおまえのそのくしゃくしゃの笑顔のせいだよ。
ぼくたちは二人、笑って泣いて、泣いて笑って。泣き笑いしながらすっかり忘れられたホットックの大皿を挟んで、引き寄せられるように触れた口唇と口唇はとてもしょっぱい幸せの味がした。
