好きしか知らない 𝚙𝚝.𝟹
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【𝙹𝚒𝚖𝚒𝚗】
パソコンの電源を落として電気を消したら、ジミナ?と小さく呼ぶ声に手元のリモコンのボタンをもう一度押した。じんわりと部屋に明かりが戻ってくる。
「ごめん、ヒョンもう寝てると思ってた。」
「事務所にさ、ジョングクとジミンは恋人同士なのかって電話が引っきりなしにかかってくるらしいんだわ。」
ホビヒョンがあまり感情が読み取れない声のトーンで何の前置きもなく切り出した話題にチクリと胸が痛んだ。前々から釘を刺されていただけに、なおのこと。
「批判的なものもあるらしくてナムジュンも悩んでてさ、お前は気づいたと思うけど、」
「うん。」
ホビヒョンが言葉を濁すのは今日の授賞式でのことを言ってるんだろう。思えば朝から妙にピリピリした空気が漂っていたような気がする、勘のいいぼくは朝の配車の段階で悟ったけれど。
メンバーの態度がそれはもう、あからさまで。ぼくとジョングクは近づくことさえも許されなくて、あいつはひどく傷ついた表情で顔色も良くなかった。
「ぼくだけじゃない、ジョングクも気づいてたよホビヒョン。」
「そうか...さすがに今日のはやりすぎたかもしれん、悪かった。」
「あいつにはあんまり言わないであげてってお願いしたでしょう?必要以上に意識しすぎて仏頂面になっちゃうし、しまいには目も合わせないし逆に不自然なんだってば。」
「分かってる分かってるんだよでもな?事が大きくなってからじゃ遅いんだぞ?カメラに取り囲まれて核心を突かれてみろ、なんて答えるんだ?それこそジョングクのやつがどんな顔すると思う?」
「それは、」
「お前らの口から付き合ってますとも付き合ってませんとも言わせたくないんだよ、俺たちは。」
「だったらもう別れる。」
「おいおい極論はやめてくれ、そんなことになったらジョングクの精神状態がどうなるか分からん!それにあいつは俺たちや会社を絶対に許さない。」
「ぼくが振られればいいんでしょ。」
「ジミナぁ、頼むから恐ろしいことを言うんじゃない、おかしな気を起こすんじゃないぞ?分かったな?」
「はは、冗談だよ。」
チームの悩みの元凶がぼくたちならば、ぼくたちが別れることでヒョンたちが抱えている問題が解決するのなら、一瞬そこまで到達したぼくの心の内をホビヒョンはちゃんと読んでいた。
先にNO!を突きつけられてぼくは、それは矛盾してるんじゃないのと心の中で反抗してみせたけれど。結論としてはヒョンたちみんな末っ子が可愛くてかわいくて、ジョングクが傷つかない方法を手探りで探してるんだ。
だけどぼくはいつかどこかで深く傷を負う日がくるんじゃないかと密かに予想している。その傷がぼくよりジョングクの方がほんの少しだけでもいい、浅ければいいなって。これが、ぼくの本心。
いつだったか浮気は一回ぽっきりだって許さないぞ!と冗談交じりに言ったぼく。そのときジョングクが言った、逆の立場だったならおれは...許してしまうかもしれないと。
*
「ぼくあの子とキスして...セックスした、ごめんね?」
「...。」
「流されて仕方なくって言いたいところだけど次また会う約束しちゃったし。幻滅、した?」
「幻滅しただって?はぁ?あんた正気??」
「怒ってんの?浮気しても許すって言ってたじゃん。ジミンしか愛せないって言ったくせに、怒るの?ぼくを?」
「おれを裏切っておいて開き直るってなんなの、あんたしか愛せないのを知ってて?それなのにおれの気持ちを踏みにじって平気?あんた...最低だ!あのガキぶっ殺してやる!!」
「言っとくけどあの子になんかしたらおまえとは一生口きかないから。」
パチン!乾いた音がぼくの耳に届いて左頬がじんじんと痛むまでにずいぶんと時間差があった。殺したいほどぼくが憎いだろうにこんなときでもおまえは、手加減するんだな。叩かれた頬はたいして痛くないのに胸が張り裂けそうに苦しかった。
ジョングクのまるい瞳からボロボロと大粒の涙が零れて、落ちる。痛いのはぼくなのに、なんでおまえが泣くんだよ。
もう、兄弟にも友達にも戻れないよねジョングク、絶対にぼくを許したりしないで...ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。小さくなる背中に何度も、何度も、なんども、許しを請う。
これまで何度人生の選択を間違っただろうか。こと、ジョングクが絡むといつもこう。全てを失ったあとで後悔の波に飲み込まれて溺れゆく学習能力のないバカなぼくには最高の結末だ。
「なんていうかさ...お前のことはよく知ってるつもりだったけど思ってた以上に...あほだよね。」
追い打ちをかけるようにストレートな言葉で殴りつけてくる親友がいる、強み。無駄に大きな身体はモコモコの毛布みたいにぼくをすっぽりと隠してくれて、ダム決壊ほどの涙をすべて吸収しつくしてくれた。
*
しばらく会っていなかったセウォンとの飲み会に後輩ができたんです!と嬉しそうに。兄ちゃんの顔をしたセウォンが連れてきたのがこの子だった。
「パクジウです!じじじじみん先輩の大大大っファンなんです僕!よよよろしくお願いします!」
ジョングクよりの2歳下のハタチになったばかりのまだ少年っぽさが残るジウくんとはたった数時間で意気投合してすっかり仲良しになってしまった。
穏やかな物言いでユーモアもあってお酒も強くて、ジョングクにちょっぴり似ているなというのが第一印象。同じ歳の頃のジョングクよりはずいぶんと大人っぽいなとは思うけれど。(なんでもジョングクと比べてしまうのはぼくの悪い癖)
セウォンにもすごく心配されたけれどぼくはジウと会うのをやめなかった、なんでって、ジョングクがきっと嫌がるだろうと知っていたから。
二人で映画を観に行ったり、ボーリングで本気になって勝負をした、おしゃれなカフェでスイーツを食べたりも。時にはホテルのバーでお酒を飲んでそのままお泊りなんてこともあったっけ。(もちろん何もない)
ナムジュニヒョンにはすっごく怒られたけどジョングクは口唇を噛みしめただけで、何にも言わなかった。あの日ぼくがあの話を切りださなければずっと、ジョングクは見て見ぬふりを続けていたと思う。こんな卑怯なぼくなんかのために。
「すみませんすみませんすみませんっ、本当にすみません。」
「あっは、何回謝ってんだよぅーふふふふ、あうちっ!」
「うちのジミンが迷惑かけてすまない、あとはこっちで面倒みるから君はここで、」
「いーやーだージウに連れてってもらうの!おんぶ!ジウおんぶ!」
ナムジュニヒョンに捻りあげられた腕を振りほどきぼくはジウの背中に飛び乗って、早くベッドに連れていけと急かす。
悪いけどこっちに頼む、と大きな溜息を吐くホビヒョンの後ろにジョングクが立っていた。あの時ぼくを平手打ちした大きな手は今日は固く握られていた。酔って帰宅したぼくを心底軽蔑した二つの瞳が見据えている。いいんだもう...十分嫌われているから。
大丈夫ですか?とジウがぼくにかけてくれた言葉に頭を撫でてやることで返事をする。いつもジョングクにしていたように。
ベッドの柔らかさに安心したのか死んだように眠ってしまったぼくは、真っ暗闇の中を一人彷徨う夢をみた。とても、とても怖い夢。一寸先すらも見えない知らない場所で、誰かが咽び泣く声が聞こえる。夢の中でも...ジョングクが泣いていた。
もちろん次の日起き抜けからナムジュニヒョンのお説教が始まって。お酒には強いぼくの頭がガンガン割れそうに痛いのはお説教のせいだけではなさそう、昨夜は相当飲んだらしい。
だけどナムジュニヒョンから昨日あった出来事を聞いて、眠気も二日酔いも一気に吹っ飛んだ。ジョングクがぼくの部屋から出てきたジウを玄関の外まで引きずり出して殴りかかった、と。おまえがゴミを見るかのような冷たい目でぼくを見ていたのはそのほんの、数分前じゃないか。
この話をもう終わりにしたいのに誰もリビングに入って来ないのは、どうしてなんだよ。7人掛けのテーブルに向き合うぼくたちの他にもう一人いたことに気づいたのはたった今。キッチンでジンヒョンが大きな音をたて始めたからで、その音に紛れさせてナムジュニヒョンが言葉を続ける。
「昨日のやつと本当に付き合っているのか。」
「はい付き合っています。」
その質問に即答したと同時に目の前に白い液体が入ったグラスが置かれる。ヨーグルトと微かにバナナの甘い香りがした。
「二日酔いが少しは楽になるから飲みなさい。それからね、ジミナ?」
ヒョンはお前の嘘に騙されてあげるからほんの少しだけリーダーの苦労も理解してあげなきゃね、ジンヒョンがいつかのように頭を撫でてくれる。それは拗ねたジョングクにぼくがいつもしていたことで、鼻の奥がツンとした。
「ジミンにも遅い反抗期がきちゃったみたいこの子たちには苦労の連続だな、ねナムジュナ?」
ナムジュニヒョンも無言で頷いているけど、ジョングクと一緒にしないでよね。ぼくはあいつみたいに拗ねたりしない、思っていることがすぐに顔に出ちゃうんだあいつは。そんなところはいつまでたっても子供の頃のまんまなんだから可愛いやつめなんて、よくからかって遊んだっけ。
ぼくがいないと何にも出来ないと思っていた。寝ぼすけで髪はいつもボサボサだし、洋服にも無頓着。几帳面なくせにだらしない、そんなジョングクの世話を焼くのがぼくの日常だったけれどそれがなくなった今、心にぽっかりと穴が開いたようにスースーして気持ちが悪い。
一人でいる時間が増えたことで誰にも邪魔されずに好きな本を読みふけることができるし、許可なんか得ずとも友達と自由に遊びに行くことだってできる。フリーダム最高!なんてテヒョンに言ってのけたぼくなのに。日に日に心に開いた穴が大きく大きく広がっていくのを実感して逃げ出したくて、とうとうお酒に溺れてしまった。
ジョングクは何事もなかったかのように普通に毎日を過ごしているのに、なんでぼくが。どうしてぼくだけがこんなに苦しいんだろう。優しくしてくれるジウを利用してジョングクを傷つけた代償はぼくの想像よりもはるかにとてつもなく、大きかった。
「ほんっとーにごめん!」
両手を合わせて拝み倒すように謝るぼくに商売道具の綺麗な顔に擦り傷をつくったジウは大丈夫です大丈夫です!とその擦り傷の前で手のひらを振ってみせる。
きみとデートを重ねていわゆる、大人の関係だと偽っていたこと、付き合っていると今も嘘を吐いていることを正直に告白した。そりゃあもうだいぶ気まずい空気が流れては、いる。
「どうしてそんな嘘をつく必要があるんです?それから、僕がジョングクさんに殴られた理由が知りたいです。」
まあ、そうくるよね。ぼくはジョングクと付き合っていてなんとなく、別れる理由が欲しかったんだ。なるだけ深い傷となって残るような、二度と顔も見たくなくなるようなそんな、ひどい別れ方がよかった。
「それならいっそ、本当に付き合いますか僕たち。」
思いもよらない言葉が返ってきたけれどぼくはその言葉を静かに跳ねのけて首を横に振った。新しい恋人が欲しいわけじゃないただ、ジョングクと別れたかっただけ。
「ジウには悪いと思ってるんだけど...このまま恋人のふりをしててくれないかな。」
ぼくの突拍子もないお願いにジウが目を丸くしたところでセウォンが合流して、タイムオーバー。OKです!とニコちゃんマークつきのメッセージが届いたのは次の日の朝だった。
とはいえ仮想恋愛というものは連絡を取り合う必要もなく、デートなんてものをするわけでもないから楽ちんで。ぼくたちは普段通りたまの飲み会で顔を合わせる程度でしかも、必ずといっていいほどセウォンがいるものだから。
もしかしたらセウォンのやつはジョングクのスパイなんじゃないのかと疑ったりもしたけど、最近のジョングクを見ている限り残念ながらぼくにはまるで関心がないようだ。
「ジョングクなら出かけてるぞぉー。」
「聞いてない。」
「そ?97ラインの合同コンパつってたから上手くいけばお持ち帰り?今日は帰って来なかったりして、な?」
「へえ、」
...。
テヒョンのやつ、聞いてもいないことをペラペラと。べつにジョングクが誰とどこへ行こうとぼくには関係ないんだよ!と思うのに言葉に詰まって反論することを諦めた。
「あージョングクも今のお前みたいな顔してたなお前が友達と遊び行ってるときね?そわそわして落ち着かないか不貞寝するかジンヒョンに八つ当たりするか、いっつもそんな感じ。そんで限界超えたらシュレックになって、」
「しゅ?れっく??」
「うんそう、緑色になってぶくぶくデカくなってってめーっちゃぶさいくになるんだけどそれはまぁ、いいや、とにかく!あれでもあいつはお前を自由にさせてやってるつもりだったわけ、分かる?絶対ストーカーとか監禁とかしそうなタイプじゃん、俺分かるんだぁジョングクがジミンをどんくらい大事に思ってんのか?俺に分かるんだからお前もちゃんと分かってんだろうけどさ。ジョングクが合コンつっただけでなっさけない顔してんだもんなぁ、いやこれ何回目?いいかげんにしてほしいの、俺!筋肉と餅のあいだにむぎゅうっと挟まれてる俺の身にもなりやがれ、このマンゲトック!」
パソコンの電源を落として電気を消したら、ジミナ?と小さく呼ぶ声に手元のリモコンのボタンをもう一度押した。じんわりと部屋に明かりが戻ってくる。
「ごめん、ヒョンもう寝てると思ってた。」
「事務所にさ、ジョングクとジミンは恋人同士なのかって電話が引っきりなしにかかってくるらしいんだわ。」
ホビヒョンがあまり感情が読み取れない声のトーンで何の前置きもなく切り出した話題にチクリと胸が痛んだ。前々から釘を刺されていただけに、なおのこと。
「批判的なものもあるらしくてナムジュンも悩んでてさ、お前は気づいたと思うけど、」
「うん。」
ホビヒョンが言葉を濁すのは今日の授賞式でのことを言ってるんだろう。思えば朝から妙にピリピリした空気が漂っていたような気がする、勘のいいぼくは朝の配車の段階で悟ったけれど。
メンバーの態度がそれはもう、あからさまで。ぼくとジョングクは近づくことさえも許されなくて、あいつはひどく傷ついた表情で顔色も良くなかった。
「ぼくだけじゃない、ジョングクも気づいてたよホビヒョン。」
「そうか...さすがに今日のはやりすぎたかもしれん、悪かった。」
「あいつにはあんまり言わないであげてってお願いしたでしょう?必要以上に意識しすぎて仏頂面になっちゃうし、しまいには目も合わせないし逆に不自然なんだってば。」
「分かってる分かってるんだよでもな?事が大きくなってからじゃ遅いんだぞ?カメラに取り囲まれて核心を突かれてみろ、なんて答えるんだ?それこそジョングクのやつがどんな顔すると思う?」
「それは、」
「お前らの口から付き合ってますとも付き合ってませんとも言わせたくないんだよ、俺たちは。」
「だったらもう別れる。」
「おいおい極論はやめてくれ、そんなことになったらジョングクの精神状態がどうなるか分からん!それにあいつは俺たちや会社を絶対に許さない。」
「ぼくが振られればいいんでしょ。」
「ジミナぁ、頼むから恐ろしいことを言うんじゃない、おかしな気を起こすんじゃないぞ?分かったな?」
「はは、冗談だよ。」
チームの悩みの元凶がぼくたちならば、ぼくたちが別れることでヒョンたちが抱えている問題が解決するのなら、一瞬そこまで到達したぼくの心の内をホビヒョンはちゃんと読んでいた。
先にNO!を突きつけられてぼくは、それは矛盾してるんじゃないのと心の中で反抗してみせたけれど。結論としてはヒョンたちみんな末っ子が可愛くてかわいくて、ジョングクが傷つかない方法を手探りで探してるんだ。
だけどぼくはいつかどこかで深く傷を負う日がくるんじゃないかと密かに予想している。その傷がぼくよりジョングクの方がほんの少しだけでもいい、浅ければいいなって。これが、ぼくの本心。
いつだったか浮気は一回ぽっきりだって許さないぞ!と冗談交じりに言ったぼく。そのときジョングクが言った、逆の立場だったならおれは...許してしまうかもしれないと。
*
「ぼくあの子とキスして...セックスした、ごめんね?」
「...。」
「流されて仕方なくって言いたいところだけど次また会う約束しちゃったし。幻滅、した?」
「幻滅しただって?はぁ?あんた正気??」
「怒ってんの?浮気しても許すって言ってたじゃん。ジミンしか愛せないって言ったくせに、怒るの?ぼくを?」
「おれを裏切っておいて開き直るってなんなの、あんたしか愛せないのを知ってて?それなのにおれの気持ちを踏みにじって平気?あんた...最低だ!あのガキぶっ殺してやる!!」
「言っとくけどあの子になんかしたらおまえとは一生口きかないから。」
パチン!乾いた音がぼくの耳に届いて左頬がじんじんと痛むまでにずいぶんと時間差があった。殺したいほどぼくが憎いだろうにこんなときでもおまえは、手加減するんだな。叩かれた頬はたいして痛くないのに胸が張り裂けそうに苦しかった。
ジョングクのまるい瞳からボロボロと大粒の涙が零れて、落ちる。痛いのはぼくなのに、なんでおまえが泣くんだよ。
もう、兄弟にも友達にも戻れないよねジョングク、絶対にぼくを許したりしないで...ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。小さくなる背中に何度も、何度も、なんども、許しを請う。
これまで何度人生の選択を間違っただろうか。こと、ジョングクが絡むといつもこう。全てを失ったあとで後悔の波に飲み込まれて溺れゆく学習能力のないバカなぼくには最高の結末だ。
「なんていうかさ...お前のことはよく知ってるつもりだったけど思ってた以上に...あほだよね。」
追い打ちをかけるようにストレートな言葉で殴りつけてくる親友がいる、強み。無駄に大きな身体はモコモコの毛布みたいにぼくをすっぽりと隠してくれて、ダム決壊ほどの涙をすべて吸収しつくしてくれた。
*
しばらく会っていなかったセウォンとの飲み会に後輩ができたんです!と嬉しそうに。兄ちゃんの顔をしたセウォンが連れてきたのがこの子だった。
「パクジウです!じじじじみん先輩の大大大っファンなんです僕!よよよろしくお願いします!」
ジョングクよりの2歳下のハタチになったばかりのまだ少年っぽさが残るジウくんとはたった数時間で意気投合してすっかり仲良しになってしまった。
穏やかな物言いでユーモアもあってお酒も強くて、ジョングクにちょっぴり似ているなというのが第一印象。同じ歳の頃のジョングクよりはずいぶんと大人っぽいなとは思うけれど。(なんでもジョングクと比べてしまうのはぼくの悪い癖)
セウォンにもすごく心配されたけれどぼくはジウと会うのをやめなかった、なんでって、ジョングクがきっと嫌がるだろうと知っていたから。
二人で映画を観に行ったり、ボーリングで本気になって勝負をした、おしゃれなカフェでスイーツを食べたりも。時にはホテルのバーでお酒を飲んでそのままお泊りなんてこともあったっけ。(もちろん何もない)
ナムジュニヒョンにはすっごく怒られたけどジョングクは口唇を噛みしめただけで、何にも言わなかった。あの日ぼくがあの話を切りださなければずっと、ジョングクは見て見ぬふりを続けていたと思う。こんな卑怯なぼくなんかのために。
「すみませんすみませんすみませんっ、本当にすみません。」
「あっは、何回謝ってんだよぅーふふふふ、あうちっ!」
「うちのジミンが迷惑かけてすまない、あとはこっちで面倒みるから君はここで、」
「いーやーだージウに連れてってもらうの!おんぶ!ジウおんぶ!」
ナムジュニヒョンに捻りあげられた腕を振りほどきぼくはジウの背中に飛び乗って、早くベッドに連れていけと急かす。
悪いけどこっちに頼む、と大きな溜息を吐くホビヒョンの後ろにジョングクが立っていた。あの時ぼくを平手打ちした大きな手は今日は固く握られていた。酔って帰宅したぼくを心底軽蔑した二つの瞳が見据えている。いいんだもう...十分嫌われているから。
大丈夫ですか?とジウがぼくにかけてくれた言葉に頭を撫でてやることで返事をする。いつもジョングクにしていたように。
ベッドの柔らかさに安心したのか死んだように眠ってしまったぼくは、真っ暗闇の中を一人彷徨う夢をみた。とても、とても怖い夢。一寸先すらも見えない知らない場所で、誰かが咽び泣く声が聞こえる。夢の中でも...ジョングクが泣いていた。
もちろん次の日起き抜けからナムジュニヒョンのお説教が始まって。お酒には強いぼくの頭がガンガン割れそうに痛いのはお説教のせいだけではなさそう、昨夜は相当飲んだらしい。
だけどナムジュニヒョンから昨日あった出来事を聞いて、眠気も二日酔いも一気に吹っ飛んだ。ジョングクがぼくの部屋から出てきたジウを玄関の外まで引きずり出して殴りかかった、と。おまえがゴミを見るかのような冷たい目でぼくを見ていたのはそのほんの、数分前じゃないか。
この話をもう終わりにしたいのに誰もリビングに入って来ないのは、どうしてなんだよ。7人掛けのテーブルに向き合うぼくたちの他にもう一人いたことに気づいたのはたった今。キッチンでジンヒョンが大きな音をたて始めたからで、その音に紛れさせてナムジュニヒョンが言葉を続ける。
「昨日のやつと本当に付き合っているのか。」
「はい付き合っています。」
その質問に即答したと同時に目の前に白い液体が入ったグラスが置かれる。ヨーグルトと微かにバナナの甘い香りがした。
「二日酔いが少しは楽になるから飲みなさい。それからね、ジミナ?」
ヒョンはお前の嘘に騙されてあげるからほんの少しだけリーダーの苦労も理解してあげなきゃね、ジンヒョンがいつかのように頭を撫でてくれる。それは拗ねたジョングクにぼくがいつもしていたことで、鼻の奥がツンとした。
「ジミンにも遅い反抗期がきちゃったみたいこの子たちには苦労の連続だな、ねナムジュナ?」
ナムジュニヒョンも無言で頷いているけど、ジョングクと一緒にしないでよね。ぼくはあいつみたいに拗ねたりしない、思っていることがすぐに顔に出ちゃうんだあいつは。そんなところはいつまでたっても子供の頃のまんまなんだから可愛いやつめなんて、よくからかって遊んだっけ。
ぼくがいないと何にも出来ないと思っていた。寝ぼすけで髪はいつもボサボサだし、洋服にも無頓着。几帳面なくせにだらしない、そんなジョングクの世話を焼くのがぼくの日常だったけれどそれがなくなった今、心にぽっかりと穴が開いたようにスースーして気持ちが悪い。
一人でいる時間が増えたことで誰にも邪魔されずに好きな本を読みふけることができるし、許可なんか得ずとも友達と自由に遊びに行くことだってできる。フリーダム最高!なんてテヒョンに言ってのけたぼくなのに。日に日に心に開いた穴が大きく大きく広がっていくのを実感して逃げ出したくて、とうとうお酒に溺れてしまった。
ジョングクは何事もなかったかのように普通に毎日を過ごしているのに、なんでぼくが。どうしてぼくだけがこんなに苦しいんだろう。優しくしてくれるジウを利用してジョングクを傷つけた代償はぼくの想像よりもはるかにとてつもなく、大きかった。
「ほんっとーにごめん!」
両手を合わせて拝み倒すように謝るぼくに商売道具の綺麗な顔に擦り傷をつくったジウは大丈夫です大丈夫です!とその擦り傷の前で手のひらを振ってみせる。
きみとデートを重ねていわゆる、大人の関係だと偽っていたこと、付き合っていると今も嘘を吐いていることを正直に告白した。そりゃあもうだいぶ気まずい空気が流れては、いる。
「どうしてそんな嘘をつく必要があるんです?それから、僕がジョングクさんに殴られた理由が知りたいです。」
まあ、そうくるよね。ぼくはジョングクと付き合っていてなんとなく、別れる理由が欲しかったんだ。なるだけ深い傷となって残るような、二度と顔も見たくなくなるようなそんな、ひどい別れ方がよかった。
「それならいっそ、本当に付き合いますか僕たち。」
思いもよらない言葉が返ってきたけれどぼくはその言葉を静かに跳ねのけて首を横に振った。新しい恋人が欲しいわけじゃないただ、ジョングクと別れたかっただけ。
「ジウには悪いと思ってるんだけど...このまま恋人のふりをしててくれないかな。」
ぼくの突拍子もないお願いにジウが目を丸くしたところでセウォンが合流して、タイムオーバー。OKです!とニコちゃんマークつきのメッセージが届いたのは次の日の朝だった。
とはいえ仮想恋愛というものは連絡を取り合う必要もなく、デートなんてものをするわけでもないから楽ちんで。ぼくたちは普段通りたまの飲み会で顔を合わせる程度でしかも、必ずといっていいほどセウォンがいるものだから。
もしかしたらセウォンのやつはジョングクのスパイなんじゃないのかと疑ったりもしたけど、最近のジョングクを見ている限り残念ながらぼくにはまるで関心がないようだ。
「ジョングクなら出かけてるぞぉー。」
「聞いてない。」
「そ?97ラインの合同コンパつってたから上手くいけばお持ち帰り?今日は帰って来なかったりして、な?」
「へえ、」
...。
テヒョンのやつ、聞いてもいないことをペラペラと。べつにジョングクが誰とどこへ行こうとぼくには関係ないんだよ!と思うのに言葉に詰まって反論することを諦めた。
「あージョングクも今のお前みたいな顔してたなお前が友達と遊び行ってるときね?そわそわして落ち着かないか不貞寝するかジンヒョンに八つ当たりするか、いっつもそんな感じ。そんで限界超えたらシュレックになって、」
「しゅ?れっく??」
「うんそう、緑色になってぶくぶくデカくなってってめーっちゃぶさいくになるんだけどそれはまぁ、いいや、とにかく!あれでもあいつはお前を自由にさせてやってるつもりだったわけ、分かる?絶対ストーカーとか監禁とかしそうなタイプじゃん、俺分かるんだぁジョングクがジミンをどんくらい大事に思ってんのか?俺に分かるんだからお前もちゃんと分かってんだろうけどさ。ジョングクが合コンつっただけでなっさけない顔してんだもんなぁ、いやこれ何回目?いいかげんにしてほしいの、俺!筋肉と餅のあいだにむぎゅうっと挟まれてる俺の身にもなりやがれ、このマンゲトック!」
