午前2時
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【𝙹𝚞𝚗𝚐𝚔𝚘𝚘𝚔】
...まただ。
あと1センチ、掴みかけたそのとき右肩に衝撃が走っておれの手は虚しく空をきる。
ぶつかったことを謝りもしないでおれとマネージゃーの間をすり抜けて、ためらいもなく肩を抱く。自分のコートで守るように包み込んでフラッシュの向こう側を鋭い眼光で見据えた。
「撮ってんじゃねぇよ、このボケ!」
冷ややかな三白眼で睨みつけるだけじゃ気が済まなかったのか、分かりやすく汚い言葉を投げつけてマネージャーに制止された。
カメラに向かって暴言を吐くなんて命取りの世界で、アイドルにとってのタブーなんてこの人には存在しないらしい。ただ大切な人を守りたいという必死の想いが最近やけに広くなった背中から伝わってくる。
おれは一体、なにをしているんだろう。
一度や二度じゃない。傷ついたり落ちこんだり、元気がないとき、無理をして明るく振る舞うのが常のジミニヒョン。それでも限界まで追い込まれると腫れた目を見てまた、一人で泣いていたのかと悲しくなるし、痩せこけた頬を見て温かいスープを飲ませたくなる。
だけどこうなると唯一無二の親友とやらのあの男はジミニヒョンを自分のテリトリーから出そうとしない。「こういうときは俺じゃないとダメだから」とメンバーすら寄せつけないからおれは、自分があの人の恋人であることを忘れそうになってしまうんだ。
「...はぁ、」
「いやいや何回目?目が合うたんびに溜め息吐かれるとかほんと、やだわー。」
焼きすぎて黒くなった肉をはじっこによけながら仕返しのように溜め息を吐く。元恋敵のカンセウォンとはいつの間にかジミニヒョン抜きでも食事に行く仲になって、それがまぁ、結構いいやつだったりして一緒にいると楽だしやたら気が合うことを最近知った。
「ジミニヒョンにさ、この際乗りかえちゃうってのはどうですか?テヒョン先輩か、カンセウォン?」
「は?」
「ってメッセージ送信したとこにタイミング良くお前から電話きてビビったって話、もうした?」
「ちょっと今その冗談笑えない。」
「や、でもマジな話こないだどっかで揉みくちゃにされてたやつ、ジミニヒョンを庇うテヒョン先輩が爆イケでさ、こいつは俺が守ります的な?彼氏感ハンパなくね?惚れたわー。つーかお前...いた?」
「...。」
あれは確かテレビ局を出たときテヒョンイヒョンが記者に暴言を吐いた日のことだ。いつもならジミニヒョンの隣りはおれだって暗黙の了解事項なのに、そんなことぶち壊して二人は同じ車に乗り込んで行った。
こんなときジミニヒョンより年下であることをひどく恨む。もしもおれがテヒョンイヒョンと同じ立ち位置ならば、あの人みたいに外でも堂々と抱き寄せて涙を拭ってやれたのかなって。
恋人らしいことを何にもしてやれないこんなおれをジミニヒョンはどう思ってるんだろう、最近はそのことばかり気になっていた。
「年下だし頼りないしどうせおれはたいして、必要とされてない。」
「出た!出た出た!お前の年下コンプレックスもここまでくると病気だな、黄金マンネの名が泣くわ。」
「そんなの人見知りで自信もないおれをヒョンたちが持ちあげてくれてただけだし。本当に黄金なのはおれじゃない、ヒョンたちだよ。」
「んーやっぱジミニヒョン、乗りかえたほうがいいかもなぁ。テヒョン先輩か、カンセウォン!どうよ?」
うははって、笑いごとじゃないんだよこっちは!で?結局のところジミニヒョンはなんて返事を返したんだよ。一番聞きたいのはそこなんだけど、とド直球。今さらカッコつける相手でもないし。
正直、お前にだから言うんだけどおれだって薄々は気づいてる。ジミニヒョンに頭を撫でられるテヒョンイヒョンはデレデレで、心の内を隠してるつもりなんだろうけど全くもって隠しきれてない。それから、テヒョンイヒョンに抱きしめられたジミニヒョンはとても幸せそうに、笑う。つまるところ二人はお似合いだってこと。
バカ言うなって、ジミニヒョンとジョンググの方が似合いのカップルに決まってんじゃん!って言って欲しかった?本音を言えば死ぬほど嫉妬してるし、めちゃくちゃ拗ねてるんだ、おれは。こんなにも慰めの言葉を欲しがってるおれにセウォンのやつ。
「お前になに言っても無駄だろ?ジミニヒョンがいなきゃ生きてけないじゃん。泣き虫ジョングガ!ぷははっ、」
振られたら慰めてやるから安心しろ!ってほんと、冗談にならないから、やめてくれ。ジミニヒョンだって、どうせ昔のことを持ち出しておれのこと、泣き虫呼ばわりしてるんだ。
溜めこんだ不安は消えてなくなりはしないけれど、とりあえずお腹は満たされた。もちろんセウォンの奢りで。お酒もかなり飲んだ気でいたのに、家に帰ってシャワーを浴びたらすっかり酔いは覚めてしまっていて。
自室に戻る途中でジミニヒョンの部屋をこっそり覗くとヒョンのシーツは整えられたままで。あー今日もか、あの人が誰とどこにいるかを察しておれは、気持ちが暗く沈んでいく。
嫉妬する相手じゃないことはこれまでに何度も自分に言い聞かせた。あの人がおれに言う「愛してる」が嘘じゃないことも頭ではちゃんと分かってるんだ、...いつかおれたちに終わりがくるとしたら捨てられるのがおれだってことも。年下で頼りないバカなおれでも、ひしひしと感じ取っている。
「ジミナー、お前よく平気だな?俺、あいつ見てたらイライラすんだけど。」
小声で話してるつもりでも薄い壁ごしに聞こえてくる会話。これだから自分の部屋に戻るのは嫌だったんだ、いい事なんかひとつもない。
「誰の目ぇ気にしてんだか何に遠慮してんだか知んないけど、緑のおばさんばりに見守るじゃん。緑のおばさんは声かけてくれるだけいいよね、あいつ見てるだけじゃん?なんのための筋肉?って思うじゃん?」
「筋肉かんけーないわ!ぼくがいいって言ってるんだからいいじゃんか!それに、あいつが筋肉マンなのはぼくだけが知ってればいいんだよ。」
「お前ねぇ、ジョングクのやつにもちょっとくらい甘えてやったら?あいつが今一番欲しがってることだぞ?多分、」
「ジョングクのことうんと甘やかしてやりたいんだ、あいつにはいつも笑ってて欲しいからさ、だってぼく...兄ちゃんだもん、一応ね。」
「ふーん兄ちゃんねえ...そこ、こだわるとこなんかな、」
「ずっと前にナムジュニヒョンに言われたんだよね...、ぼくが笑ってるとね、すんごく離れた場所にいるジョングクも一緒になって笑ってるんだってさ。そういうのっていいな、ってヒョンが言ってくれたんだ、嬉しかった。」
「うん。」
「ぼくが悲しい顔するとあいつが悲しくなっちゃうだろ、ぼくが泣くとあいつも泣いちゃうから、」
「から?一人で泣くのか?んーそれはお前の考えが間違ってるんじゃないかと俺は、思う。」
「そうかな...。」
そうだよジミニヒョン。おれはあなたの喜びも悲しみも笑顔も涙も、怒りだって、正面から受け止める。それくらいの覚悟と決意を持ってあの日、あなたに愛してると言ったんだから。
*
本当なら焼酎の一杯でも煽りたいとこだけど明日の仕事のことを考えて今日のところは甘すぎるほどのミルクティー。いつもジミニヒョンが淹れてくれるミルクティーとはどこか違う気がして、味気なかった。
これ以上あの二人の会話を聞いてるのもいたたまれなくて、どうせ眠れないしと逃げ出してきた。本来どっち側の人間かといえば根暗なタイプのおれは薄暗い静かなリビングがやたらと落ち着く。
と、マグカップのミルクティーが半分も減らないうちに誰かがそのドアを開けて、一直線におれの方へと向かってくるあいだ、寝たふりをしようかと考えているうちにもう目の前で。隣りに腰をおろしたその人物は、ころん、とおれの肩に頭を預けた。
「拗ねたの?」
そう聞いた声は少し笑い含んでるように感じた。見ていないから分からないけどこの人が今どんな顔をしているかなんてだいたい、想像がつく。
おれが意図せず会話を聞いてしまったこと、そしてちょっとばかり傷ついてるなんてことも、きっとお見通しなんだろうな。でなきゃ、いくら真夜中でも宿舎のリビングでこんなにベッタリ引っついたりしない。
「テヒョンが言ったこと気にしてんの?」
「べつに、」
煮え切らないおれの態度にテヒョンイヒョンがイライラしてるのなんて、ずいぶん前から気づいていたし。あなたがヒョンたちに「泣き虫ジミニ」とからかわれるたびにジョングギの方が泣き虫だって言い返してるのも、知ってる。
なのに、今さらな何を気にするというの。今回のことでやっぱりチョンジョングクは無力だってことをチームのみんなにに証明できたし、もうこれ以上傷つくことも惨めになることもない。
ーしばらくのあいだ宿舎以外の場所では二人、できるだけ距離を置いてくれないか
今、それを言うのか。この状況で?全世界から飛んできた冷たい言葉の刃を無数に突き刺されている本人に向かって、言うべきことなのか。
頭が沸騰しそうになるおれの背中をゆっくりと撫でながら隣りのこの人はやけに落ち着いた声色で言った。分かりました、とたったひと言。呆気にとられるおれの肩に手を置いてこの憎っくきリーダーは強い眼差しで一度、頷いただけ。
言うにこと欠いて、今?こんなときに、おれたちの恋愛事情に口を出すリーダーに発狂したい気持ちと、あっさりとそれを承諾したジミニヒョンに食ってかかりたい気持ちをめちゃくちゃ堪えるのに全神経を集中した。
愛する人をこれ以上、恋人のおれまでもが苦しめちゃいけない。あの日のおれはその想いだけだったんだ。
「ナムジュニヒョンに言われたとき、堪えてくれてありがとね。」
「...。」
「おまえのこと、大人になったって褒めてたよ?言いたいことが全部顔に出ちゃってたけどね。」
うふふっ、ジミニヒョンが笑うたび彼の息がおれの喉元をくすぐった。絡ませた腕をほどいて顔を覗きこんでくる黒い瞳は目が合うと細められて、これでもかと白い歯を見せるからほんの少し飛び出た右の前歯をおれは、見つめていた。
「勘違いしないであげてね?ナムジュニヒョンが心配してるのはさ、ぼくたちのことだよ?」
「そんなの知ってるよ。」
「きっとおまえが考えてるのとは違うと思うなぁ。」
おれの指をふにふにする丸っこい手を強く握りしめた。
違うってなに。メンバー内での恋愛関係なんて世間に知られちゃいけないって、誰にもバレないように隠し通せって、そう言われたんだよ、おれたち。
それがチームのためなら、なにより、ジミニヒョンのためになるならって。言われた通りずっとそうやってきたけどおれ、あなたのファンに言われちゃったんだ。
肝心なときに何もせずに目を反らすなら恋人面なんかするな、って。今あなたが守ってやらないで誰が私たちのジミニを守れるの、って。
あなたのことが好きで、あなたを大切に思っている人なら誰だってそう、みんな同じ気持ちなんだよ。だからって傷ついたりしない、傷つく資格なんておれにはないんだ。おれだってあなたが好きなのに...誰よりも大切にしてきたのに。
すでに最大級のダメージを喰らっているおれにとどめを刺したのはあの日、目の前で颯爽とあなたを奪っていったキム・ナイト・テヒョンで。おれのちっぽけな心はしょぼくれて萎れるしかなかった、おれたちの記念日。
「付き合って3年目のジンクスって知ってる?別れの危機なんだってさ。」
「は?あなた別れたいの?」
「またぁすぐそうやってネガティブに、おまえってやつは。」
「つーかもう3年経ったよ!4年目突入だっての!」
そんなジンクスとっくに乗り越えてんだよって!って鼻息荒く言うおれを丸い瞳ときょとん顔で見てくるけど、なんか筋違いなこと言った?えっと...なんの話ししてたんだっけ?
「ぼくね?どんなことがあってもジョングクと別れたくないって言ったんだ、ナムジュニヒョンに。一度おまえに振られちゃったときぼく、すんごく悲しくて...もうあんなのは嫌だって。」
突然ぎゅっとしがみつかれて反射的に華奢な腰を引き寄せた。ずずっ、鼻を啜りながらジミニヒョンは太股のうえにまたがって、おれの胸に顔を隠してしまった。
泣いてるの?と聞いたおれに、なんか色々思い出しちゃっただけ、と言ったジミニヒョン。どんな理由をつけてもいいよ、あなたがおれの腕の中で泣いてくれるのなら。おれは知らないふりで背中を擦ってあげる。
ナムジュニヒョンが距離を置けと言ったのはジミニヒョンが怖がったから?もしもこのタイミングで付き合っていることがバレたとしたら、騒ぎに便乗しておれたちはメッタ打ちにされるだろう。ナムジュニヒョンならきっと...、こう言う。
ーそんなことでお前たちを駄目にしたくない
そしておれは。
涙で濡れる愛くるしいほっぺたを両手で挟んで、ポロポロと落ちてくる雫を親指の腹で拭った。大きな水たまりをたたえたままの黒い瞳がゆっくりとおれを見上げる。そんなあなたにできるだけ優しい声色でおれは、想いを告げた。
「ダメになんかならないよ。」
「うんおまえがそう言うならぼくも、そうだと思う。」
「くくっ、なにそれ。」
「だって、今までおまえが大丈夫!って言ってくれて大丈夫じゃなかったことないもん。」
「そ?ならよかった。」
垂れて下がった眉毛も腫れてやぼったい目も赤くなった鼻頭も、ずずーっと鼻水を啜るのさえも、愛おしい。
「せっかくの記念日、いろいろ準備してくれてたのに全部キャンセルさせちゃって...ごめんな?」
「なに言ってんの何千何万あるうちのたった一日だよ?たいした問題じゃない。」
「あは、そんなにあるの?ぼくたちの記念日。」
「うんそうだよ?この先ずっと。数えきれないくらい、あなたが忘れちゃうくらい、何度もなんども来るよ。」
ジミニヒョンは嬉しそうに目を細めて、しょっぱい味のキスをくれた。その触れたままの口唇が、ジョングク愛してるとも言ってくれた。
「わわわ!もうこんな時間?早く寝ないと!ほら早くっ!!」
めちゃくちゃいい雰囲気だったけれどこの人はおかまいなしに。早くしろ、とおれの両腕を引っぱって立ち上がらせたくせに自分だけ先にリビングを出て行く。まったくマイペースなんだから。
その背中を追いかけていると何度も振り返っておれの姿を確認しては手招きをする。はいはい、ちゃんと着いて行ってますよ、可愛いなぁ、もう。
「ジミナ、おやすみ。」
「ん?...おやすみ?」
一瞬、首を傾げたように見えたジミニヒョンは天使みたいに微笑んで、おれの部屋に消えた。え.....え?え?え?あなたテヒョンイヒョンの部屋で寝るんじゃないの?うそおれ、今夜はあなたを抱き枕にして眠れるってこと?
ドス黒く変色してしぼんでいた心はあなたとの30分足らずの時間でこんなにも色をつけて花を咲かせるのに。ぬくぬくの布団で朝まで抱きしめ合えたら明日のおれには虹色の世界が広がっているはず。そんなキラキラした一日を想像しながらおれは、スキップさながら自室に向かった。
そして、真冬のスケートデートを目撃されるのはほんの少し、あとのお話。
ーーー 𝙴𝚗𝚍 ーーー
...まただ。
あと1センチ、掴みかけたそのとき右肩に衝撃が走っておれの手は虚しく空をきる。
ぶつかったことを謝りもしないでおれとマネージゃーの間をすり抜けて、ためらいもなく肩を抱く。自分のコートで守るように包み込んでフラッシュの向こう側を鋭い眼光で見据えた。
「撮ってんじゃねぇよ、このボケ!」
冷ややかな三白眼で睨みつけるだけじゃ気が済まなかったのか、分かりやすく汚い言葉を投げつけてマネージャーに制止された。
カメラに向かって暴言を吐くなんて命取りの世界で、アイドルにとってのタブーなんてこの人には存在しないらしい。ただ大切な人を守りたいという必死の想いが最近やけに広くなった背中から伝わってくる。
おれは一体、なにをしているんだろう。
一度や二度じゃない。傷ついたり落ちこんだり、元気がないとき、無理をして明るく振る舞うのが常のジミニヒョン。それでも限界まで追い込まれると腫れた目を見てまた、一人で泣いていたのかと悲しくなるし、痩せこけた頬を見て温かいスープを飲ませたくなる。
だけどこうなると唯一無二の親友とやらのあの男はジミニヒョンを自分のテリトリーから出そうとしない。「こういうときは俺じゃないとダメだから」とメンバーすら寄せつけないからおれは、自分があの人の恋人であることを忘れそうになってしまうんだ。
「...はぁ、」
「いやいや何回目?目が合うたんびに溜め息吐かれるとかほんと、やだわー。」
焼きすぎて黒くなった肉をはじっこによけながら仕返しのように溜め息を吐く。元恋敵のカンセウォンとはいつの間にかジミニヒョン抜きでも食事に行く仲になって、それがまぁ、結構いいやつだったりして一緒にいると楽だしやたら気が合うことを最近知った。
「ジミニヒョンにさ、この際乗りかえちゃうってのはどうですか?テヒョン先輩か、カンセウォン?」
「は?」
「ってメッセージ送信したとこにタイミング良くお前から電話きてビビったって話、もうした?」
「ちょっと今その冗談笑えない。」
「や、でもマジな話こないだどっかで揉みくちゃにされてたやつ、ジミニヒョンを庇うテヒョン先輩が爆イケでさ、こいつは俺が守ります的な?彼氏感ハンパなくね?惚れたわー。つーかお前...いた?」
「...。」
あれは確かテレビ局を出たときテヒョンイヒョンが記者に暴言を吐いた日のことだ。いつもならジミニヒョンの隣りはおれだって暗黙の了解事項なのに、そんなことぶち壊して二人は同じ車に乗り込んで行った。
こんなときジミニヒョンより年下であることをひどく恨む。もしもおれがテヒョンイヒョンと同じ立ち位置ならば、あの人みたいに外でも堂々と抱き寄せて涙を拭ってやれたのかなって。
恋人らしいことを何にもしてやれないこんなおれをジミニヒョンはどう思ってるんだろう、最近はそのことばかり気になっていた。
「年下だし頼りないしどうせおれはたいして、必要とされてない。」
「出た!出た出た!お前の年下コンプレックスもここまでくると病気だな、黄金マンネの名が泣くわ。」
「そんなの人見知りで自信もないおれをヒョンたちが持ちあげてくれてただけだし。本当に黄金なのはおれじゃない、ヒョンたちだよ。」
「んーやっぱジミニヒョン、乗りかえたほうがいいかもなぁ。テヒョン先輩か、カンセウォン!どうよ?」
うははって、笑いごとじゃないんだよこっちは!で?結局のところジミニヒョンはなんて返事を返したんだよ。一番聞きたいのはそこなんだけど、とド直球。今さらカッコつける相手でもないし。
正直、お前にだから言うんだけどおれだって薄々は気づいてる。ジミニヒョンに頭を撫でられるテヒョンイヒョンはデレデレで、心の内を隠してるつもりなんだろうけど全くもって隠しきれてない。それから、テヒョンイヒョンに抱きしめられたジミニヒョンはとても幸せそうに、笑う。つまるところ二人はお似合いだってこと。
バカ言うなって、ジミニヒョンとジョンググの方が似合いのカップルに決まってんじゃん!って言って欲しかった?本音を言えば死ぬほど嫉妬してるし、めちゃくちゃ拗ねてるんだ、おれは。こんなにも慰めの言葉を欲しがってるおれにセウォンのやつ。
「お前になに言っても無駄だろ?ジミニヒョンがいなきゃ生きてけないじゃん。泣き虫ジョングガ!ぷははっ、」
振られたら慰めてやるから安心しろ!ってほんと、冗談にならないから、やめてくれ。ジミニヒョンだって、どうせ昔のことを持ち出しておれのこと、泣き虫呼ばわりしてるんだ。
溜めこんだ不安は消えてなくなりはしないけれど、とりあえずお腹は満たされた。もちろんセウォンの奢りで。お酒もかなり飲んだ気でいたのに、家に帰ってシャワーを浴びたらすっかり酔いは覚めてしまっていて。
自室に戻る途中でジミニヒョンの部屋をこっそり覗くとヒョンのシーツは整えられたままで。あー今日もか、あの人が誰とどこにいるかを察しておれは、気持ちが暗く沈んでいく。
嫉妬する相手じゃないことはこれまでに何度も自分に言い聞かせた。あの人がおれに言う「愛してる」が嘘じゃないことも頭ではちゃんと分かってるんだ、...いつかおれたちに終わりがくるとしたら捨てられるのがおれだってことも。年下で頼りないバカなおれでも、ひしひしと感じ取っている。
「ジミナー、お前よく平気だな?俺、あいつ見てたらイライラすんだけど。」
小声で話してるつもりでも薄い壁ごしに聞こえてくる会話。これだから自分の部屋に戻るのは嫌だったんだ、いい事なんかひとつもない。
「誰の目ぇ気にしてんだか何に遠慮してんだか知んないけど、緑のおばさんばりに見守るじゃん。緑のおばさんは声かけてくれるだけいいよね、あいつ見てるだけじゃん?なんのための筋肉?って思うじゃん?」
「筋肉かんけーないわ!ぼくがいいって言ってるんだからいいじゃんか!それに、あいつが筋肉マンなのはぼくだけが知ってればいいんだよ。」
「お前ねぇ、ジョングクのやつにもちょっとくらい甘えてやったら?あいつが今一番欲しがってることだぞ?多分、」
「ジョングクのことうんと甘やかしてやりたいんだ、あいつにはいつも笑ってて欲しいからさ、だってぼく...兄ちゃんだもん、一応ね。」
「ふーん兄ちゃんねえ...そこ、こだわるとこなんかな、」
「ずっと前にナムジュニヒョンに言われたんだよね...、ぼくが笑ってるとね、すんごく離れた場所にいるジョングクも一緒になって笑ってるんだってさ。そういうのっていいな、ってヒョンが言ってくれたんだ、嬉しかった。」
「うん。」
「ぼくが悲しい顔するとあいつが悲しくなっちゃうだろ、ぼくが泣くとあいつも泣いちゃうから、」
「から?一人で泣くのか?んーそれはお前の考えが間違ってるんじゃないかと俺は、思う。」
「そうかな...。」
そうだよジミニヒョン。おれはあなたの喜びも悲しみも笑顔も涙も、怒りだって、正面から受け止める。それくらいの覚悟と決意を持ってあの日、あなたに愛してると言ったんだから。
*
本当なら焼酎の一杯でも煽りたいとこだけど明日の仕事のことを考えて今日のところは甘すぎるほどのミルクティー。いつもジミニヒョンが淹れてくれるミルクティーとはどこか違う気がして、味気なかった。
これ以上あの二人の会話を聞いてるのもいたたまれなくて、どうせ眠れないしと逃げ出してきた。本来どっち側の人間かといえば根暗なタイプのおれは薄暗い静かなリビングがやたらと落ち着く。
と、マグカップのミルクティーが半分も減らないうちに誰かがそのドアを開けて、一直線におれの方へと向かってくるあいだ、寝たふりをしようかと考えているうちにもう目の前で。隣りに腰をおろしたその人物は、ころん、とおれの肩に頭を預けた。
「拗ねたの?」
そう聞いた声は少し笑い含んでるように感じた。見ていないから分からないけどこの人が今どんな顔をしているかなんてだいたい、想像がつく。
おれが意図せず会話を聞いてしまったこと、そしてちょっとばかり傷ついてるなんてことも、きっとお見通しなんだろうな。でなきゃ、いくら真夜中でも宿舎のリビングでこんなにベッタリ引っついたりしない。
「テヒョンが言ったこと気にしてんの?」
「べつに、」
煮え切らないおれの態度にテヒョンイヒョンがイライラしてるのなんて、ずいぶん前から気づいていたし。あなたがヒョンたちに「泣き虫ジミニ」とからかわれるたびにジョングギの方が泣き虫だって言い返してるのも、知ってる。
なのに、今さらな何を気にするというの。今回のことでやっぱりチョンジョングクは無力だってことをチームのみんなにに証明できたし、もうこれ以上傷つくことも惨めになることもない。
ーしばらくのあいだ宿舎以外の場所では二人、できるだけ距離を置いてくれないか
今、それを言うのか。この状況で?全世界から飛んできた冷たい言葉の刃を無数に突き刺されている本人に向かって、言うべきことなのか。
頭が沸騰しそうになるおれの背中をゆっくりと撫でながら隣りのこの人はやけに落ち着いた声色で言った。分かりました、とたったひと言。呆気にとられるおれの肩に手を置いてこの憎っくきリーダーは強い眼差しで一度、頷いただけ。
言うにこと欠いて、今?こんなときに、おれたちの恋愛事情に口を出すリーダーに発狂したい気持ちと、あっさりとそれを承諾したジミニヒョンに食ってかかりたい気持ちをめちゃくちゃ堪えるのに全神経を集中した。
愛する人をこれ以上、恋人のおれまでもが苦しめちゃいけない。あの日のおれはその想いだけだったんだ。
「ナムジュニヒョンに言われたとき、堪えてくれてありがとね。」
「...。」
「おまえのこと、大人になったって褒めてたよ?言いたいことが全部顔に出ちゃってたけどね。」
うふふっ、ジミニヒョンが笑うたび彼の息がおれの喉元をくすぐった。絡ませた腕をほどいて顔を覗きこんでくる黒い瞳は目が合うと細められて、これでもかと白い歯を見せるからほんの少し飛び出た右の前歯をおれは、見つめていた。
「勘違いしないであげてね?ナムジュニヒョンが心配してるのはさ、ぼくたちのことだよ?」
「そんなの知ってるよ。」
「きっとおまえが考えてるのとは違うと思うなぁ。」
おれの指をふにふにする丸っこい手を強く握りしめた。
違うってなに。メンバー内での恋愛関係なんて世間に知られちゃいけないって、誰にもバレないように隠し通せって、そう言われたんだよ、おれたち。
それがチームのためなら、なにより、ジミニヒョンのためになるならって。言われた通りずっとそうやってきたけどおれ、あなたのファンに言われちゃったんだ。
肝心なときに何もせずに目を反らすなら恋人面なんかするな、って。今あなたが守ってやらないで誰が私たちのジミニを守れるの、って。
あなたのことが好きで、あなたを大切に思っている人なら誰だってそう、みんな同じ気持ちなんだよ。だからって傷ついたりしない、傷つく資格なんておれにはないんだ。おれだってあなたが好きなのに...誰よりも大切にしてきたのに。
すでに最大級のダメージを喰らっているおれにとどめを刺したのはあの日、目の前で颯爽とあなたを奪っていったキム・ナイト・テヒョンで。おれのちっぽけな心はしょぼくれて萎れるしかなかった、おれたちの記念日。
「付き合って3年目のジンクスって知ってる?別れの危機なんだってさ。」
「は?あなた別れたいの?」
「またぁすぐそうやってネガティブに、おまえってやつは。」
「つーかもう3年経ったよ!4年目突入だっての!」
そんなジンクスとっくに乗り越えてんだよって!って鼻息荒く言うおれを丸い瞳ときょとん顔で見てくるけど、なんか筋違いなこと言った?えっと...なんの話ししてたんだっけ?
「ぼくね?どんなことがあってもジョングクと別れたくないって言ったんだ、ナムジュニヒョンに。一度おまえに振られちゃったときぼく、すんごく悲しくて...もうあんなのは嫌だって。」
突然ぎゅっとしがみつかれて反射的に華奢な腰を引き寄せた。ずずっ、鼻を啜りながらジミニヒョンは太股のうえにまたがって、おれの胸に顔を隠してしまった。
泣いてるの?と聞いたおれに、なんか色々思い出しちゃっただけ、と言ったジミニヒョン。どんな理由をつけてもいいよ、あなたがおれの腕の中で泣いてくれるのなら。おれは知らないふりで背中を擦ってあげる。
ナムジュニヒョンが距離を置けと言ったのはジミニヒョンが怖がったから?もしもこのタイミングで付き合っていることがバレたとしたら、騒ぎに便乗しておれたちはメッタ打ちにされるだろう。ナムジュニヒョンならきっと...、こう言う。
ーそんなことでお前たちを駄目にしたくない
そしておれは。
涙で濡れる愛くるしいほっぺたを両手で挟んで、ポロポロと落ちてくる雫を親指の腹で拭った。大きな水たまりをたたえたままの黒い瞳がゆっくりとおれを見上げる。そんなあなたにできるだけ優しい声色でおれは、想いを告げた。
「ダメになんかならないよ。」
「うんおまえがそう言うならぼくも、そうだと思う。」
「くくっ、なにそれ。」
「だって、今までおまえが大丈夫!って言ってくれて大丈夫じゃなかったことないもん。」
「そ?ならよかった。」
垂れて下がった眉毛も腫れてやぼったい目も赤くなった鼻頭も、ずずーっと鼻水を啜るのさえも、愛おしい。
「せっかくの記念日、いろいろ準備してくれてたのに全部キャンセルさせちゃって...ごめんな?」
「なに言ってんの何千何万あるうちのたった一日だよ?たいした問題じゃない。」
「あは、そんなにあるの?ぼくたちの記念日。」
「うんそうだよ?この先ずっと。数えきれないくらい、あなたが忘れちゃうくらい、何度もなんども来るよ。」
ジミニヒョンは嬉しそうに目を細めて、しょっぱい味のキスをくれた。その触れたままの口唇が、ジョングク愛してるとも言ってくれた。
「わわわ!もうこんな時間?早く寝ないと!ほら早くっ!!」
めちゃくちゃいい雰囲気だったけれどこの人はおかまいなしに。早くしろ、とおれの両腕を引っぱって立ち上がらせたくせに自分だけ先にリビングを出て行く。まったくマイペースなんだから。
その背中を追いかけていると何度も振り返っておれの姿を確認しては手招きをする。はいはい、ちゃんと着いて行ってますよ、可愛いなぁ、もう。
「ジミナ、おやすみ。」
「ん?...おやすみ?」
一瞬、首を傾げたように見えたジミニヒョンは天使みたいに微笑んで、おれの部屋に消えた。え.....え?え?え?あなたテヒョンイヒョンの部屋で寝るんじゃないの?うそおれ、今夜はあなたを抱き枕にして眠れるってこと?
ドス黒く変色してしぼんでいた心はあなたとの30分足らずの時間でこんなにも色をつけて花を咲かせるのに。ぬくぬくの布団で朝まで抱きしめ合えたら明日のおれには虹色の世界が広がっているはず。そんなキラキラした一日を想像しながらおれは、スキップさながら自室に向かった。
そして、真冬のスケートデートを目撃されるのはほんの少し、あとのお話。
ーーー 𝙴𝚗𝚍 ーーー
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