好きしか知らない 𝚙𝚝.𝟸
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【𝙹𝚒𝚖𝚒𝚗】
*****
「...おれたち...別れよう。」
*****
その暗く沈んだ声のトーンに彼の本気度を感じてぼくは、潔く頷くしかなかった。
ジョングクが別れを望んでいるだなんて思ってもみなかったものだから正直ショックで、先に好きと言ったのはおまえじゃないか!なんて、女々しい言葉をぶつけてしまうところだった。
恋人としての思い出なんてひとつもない。ただ泣きたいほど、好きだった。
数えきれないほど交わしたキスとほんの少しの触れ合いだけ、ぼくはジョングクの肌の温もりを知らない。今となってはそれで正解だったと思う。
もしもジョングクに抱かれていたらぼくはもう、引き返すことも前に進むこともできないだろう。そしてあいつはぼくを見る度、一時の気の迷いをずっと後悔しながら生きていかなくちゃいけないんだ。
可愛い弟にそんな思いをさせなくて本当に、よかった。
...ぼく?
あの日ぼくは至って普通に何でもないように「おやすみ」って、なるべく明るい声色を心掛けたけれど、ちゃんと笑えてたかな、顔引きつってたんじゃないかな、今考えると上手く演技はできなかったと思う。
玄関で待ちかまえていたテヒョンが顔を見るなりカオナシみたいな声を出して、きつく抱きしめてきたから。ぼくはそんなひどい顔してるのかよって。
それからテヒョンの部屋でコーラと焼酎を何杯もおかわりして。ぼくはお酒のせいにして、いっぱい泣いて、いっぱい笑った。
「ちょんじょんぐぅーのばかやろー!」
「そーだそーだー!言ってやれ―!」
勝手に好きになって、勝手に嫌いになって、勝手に離れていくなんて、おまえっておまえって、ほんと最低。
ぼくだってあんなやつ嫌いになってやる!絶対、ぜったい、すぐに忘れてやるんだからな。待ってろ!バーーーーカ!
「うう、...う、わーーーーーん、」
これでもかと泣きじゃくってテヒョンを困らせてそのまま泣き疲れて眠ってしまったらしく、起きたら見事に顔がパンパンに浮腫んでいてマンゲトックどころの騒ぎじゃない。
「じみな、ちょーぶさいく。」
腫れたぼくの顔を見て面白がって言うテヒョンに、おまえもな!と真顔で返してやった。めっちゃ泣いてたもんな、おまえ。なんでおまえがぼくより泣いてるのか、意味分かんない。
テヒョンアめちゃくちゃ泣くじゃん、って可笑しくて、もう途中から泣いてるのか笑ってるのか分かんなくなって。枕投げさながらティッシュを丸めて投げつけ合った。
「んーでも、なんかスッキリしたわ。」
ありがとな、改めて言葉にするのもちょっぴり照れくさくて、涙だか鼻水だかよだれだかよく分からないほっぺに残る痕をゴシゴシ擦ってやった。なんでそんなに嫌そうな顔をされるのかは納得いかない。
どんなに悲しいことがあった後でも夜になれば普通に眠くなるし、時間がきたらお腹も減るわけで。
もちろんジョングクと顔を合わさない日はないから、どうやって接したらいいかすごく悩んだけれどなんてことはない、そんな心配はいらなかった。仕事中ですら目も合わせなければ近寄っても来ないし、家にいるときは自分の部屋から一歩も出てこなくなったから。
いいんだこれで、寂しくなんかない...寂しくなる必要は、ない。
「ジミナ!」
「ジミナーーーー!」
「じみなーーーー!」
「じみなぁーーーー!」
「じーーみーーなーーーー!」
他人の迷惑もかえりみない大声の主はキムテヒョン、またの名をキム・オウム・テヒョン。
毎日、毎日、ジミナジミナジミナジミナと飽きもせずに。どこへ行くにも、何をするにも、ぼくの姿が見えないとこれだもん。
うっっせぇ、ぶっ殺すぞ!!とシュガヒョンにどやされても、ナムジュニヒョンが雄叫びをあげて耳栓を突っ込んでも気にする様子もない。今日はホビヒョンにシュークリームを丸ごと口に押し込まれてたし。大丈夫かな、あいつ。
「ジーミーナーーーー!」
ほら、きた!両手でシュークリームをひとつ大事そうに抱えて、ぼくにも食べろとへらへら笑って。どうやったらそんなところにクリームがつくんだよ。
「ほっぺ貸してみ、クリームついてる。」
「いひひひっ、」
「おまえさ、最近ぼくにベッタリだけど、...寂しかったの?」
「は?」
ちょっと待って、怖い顔するんじゃないよ。さっきまでへらへら笑ってたくせにおまえって二重人格?ついてけないわ。
「今までぼくとジョングクに遠慮してくれてたのかな、って思っただけ。」
「遠慮?誰が?俺が?んなこと気にしたことないしっ!ぜんっぜん?寂しいとかありえないしっ!は?は?は?なに勘違いしてんの、ばっかじゃない!」
ふふふ、そーかそーか、寂しかったか。
「はいはい、分かった分かった。」
「俺がついててやんないとお前...また泣くじゃんか。俺は泣いてもいいけど、お前が泣いてんのやだ、なんかムカつく。」
「なんだそれどういう解釈。」
でも実際こいつのおかげで自分が失恋したことを忘れていたくらい。変わらずバカばっかやってるテヒョンとぼくみたいにいつか、ジョングクとも昔のぼくたちみたく戻れる日がくるといい。ただの願望だけど。
「俺の話聞いてた?お前が泣くとちょームカつくの、分かる?」
「...うん。」
「はぁ...そんなつらいなら俺があいつに言ってやろうか?」
「いたたたっ、痛いよ、もうっ!」
袖口を伸ばして目元をゴシゴシ乱暴に擦るテヒョン。だからぼくは泣いてなんかない!って長い腕を振り払って、テヒョンの言葉は聞こえないふりをした。
*
それからしばらくたったある日、あの筋肉の塊が熱を出した。
朝からジンヒョンがキッチンとジョングクの部屋を行ったり来たり、バタバタと忙しなく動いてる。ぼくも何か手伝えることがあればと思ったけれど、ジョングクが嫌がるだろうからと手を出せずにいた。
「ジミナ!突っ立ってんだったら、これ!」
取り替えてきて、と手の上に置かれた冷却シートをじっと眺める。助けを求めようにも周囲に誰もいなくて、しかたなくぼくはジョングクの部屋に向かった。冷却シートが手の中で温まってしまわないうちにと。
通い慣れたはずの部屋の前で一度、大きく深呼吸をしてから足を踏み入れたけれど。ぼくの心配をよそにジョングクは死んだように眠っていて、時々苦しそうに息を吐き出す。
おでこのシートはすっかりその仕事を終えていたからそっと剥がして手を当てた。可哀そうにまだすごく熱い。ずっと具合が悪かったのに我慢してたみたいだとさっきジンヒョンが言っていた。元々熱を出しやすい子なのに無理するからだよ、バカだな。
「ひょ、ん。」
ジョングクの熱を持った手がぼくの手に重なる。慌てて引こうとしたら手首を掴まれ、虚ろな黒い瞳に囚われた。
「えっと...これ、貼ったら出てくから...ゆっくり休みな。」
「じみにょ、」
「ん?なんか飲む?み、水、持ってこようか?」
「...行かない、で...そばにいて...ひょん、」
「ぇ...ぅん...どこにも行かない、ここにいるよ。」
ぼくの指を一本握りしめたままでまた、ゆっくりと瞼がおりていく。
熱に浮かされているだけだと分かってはいてもぼくの心臓はドキドキ、うるさいほど高鳴った。いまだ冷めない自分の気持ちを再確認する。
「こんなんでおまえのこと、忘れられんのかな。」
ずいぶんと昔にも高熱を出して寝込んでしまったジョングクを何日も看病したことがあったっけ。
あのときは薬を飲むのもジミニヒョン、お粥を食べるのもジミニヒョン、身体を拭くのもジミニヒョン、着替えをするのもジミニヒョン。夜は俺が付き添うと言ったリーダーに、ジミニヒョンじゃなきゃ嫌だ!なんて、グズグズ泣いてメンバーを呆れさせてた。懐かしい思い出。
いつの間にか大人になってずいぶんと逞しくなったけれど、中身なんてちっとも変わってなくて。こうしてぼくの指を離さないところがあの頃のまんまじゃんかって笑っちゃうのに、ものすごく胸が苦しい。先に手を離したくせにこんな風にまた、簡単にぼくの心を掴まえるんだな。
そこから指を引き抜いて、もうそんなに冷たさを感じない冷却シートをおでこに乗っけて、振り返らずに部屋を出た。
ジンヒョンにジョングクの様子を報告したら、なんでかぎゅっと抱きしめられて、痛くて、苦しい。キッチンの椅子に強制的に座らされ、きょとんとしているぼくの前にトンと白いお皿が置かれた。そのお皿の上には白い苺のショートケーキ。
「甘いものを食べるとね元気が出るから、いっぱい食べな。」
目の前で頬杖をついているジンヒョンはぼくが食べている様子をじっと見つめながら、泣かなくていい、と何度も頭を撫でてくれる。
その日食べた苺のケーキは今まで食べたどんな美味しいケーキとも違う、しょっぱくて、やさしい味がした。
*****
「...おれたち...別れよう。」
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その暗く沈んだ声のトーンに彼の本気度を感じてぼくは、潔く頷くしかなかった。
ジョングクが別れを望んでいるだなんて思ってもみなかったものだから正直ショックで、先に好きと言ったのはおまえじゃないか!なんて、女々しい言葉をぶつけてしまうところだった。
恋人としての思い出なんてひとつもない。ただ泣きたいほど、好きだった。
数えきれないほど交わしたキスとほんの少しの触れ合いだけ、ぼくはジョングクの肌の温もりを知らない。今となってはそれで正解だったと思う。
もしもジョングクに抱かれていたらぼくはもう、引き返すことも前に進むこともできないだろう。そしてあいつはぼくを見る度、一時の気の迷いをずっと後悔しながら生きていかなくちゃいけないんだ。
可愛い弟にそんな思いをさせなくて本当に、よかった。
...ぼく?
あの日ぼくは至って普通に何でもないように「おやすみ」って、なるべく明るい声色を心掛けたけれど、ちゃんと笑えてたかな、顔引きつってたんじゃないかな、今考えると上手く演技はできなかったと思う。
玄関で待ちかまえていたテヒョンが顔を見るなりカオナシみたいな声を出して、きつく抱きしめてきたから。ぼくはそんなひどい顔してるのかよって。
それからテヒョンの部屋でコーラと焼酎を何杯もおかわりして。ぼくはお酒のせいにして、いっぱい泣いて、いっぱい笑った。
「ちょんじょんぐぅーのばかやろー!」
「そーだそーだー!言ってやれ―!」
勝手に好きになって、勝手に嫌いになって、勝手に離れていくなんて、おまえっておまえって、ほんと最低。
ぼくだってあんなやつ嫌いになってやる!絶対、ぜったい、すぐに忘れてやるんだからな。待ってろ!バーーーーカ!
「うう、...う、わーーーーーん、」
これでもかと泣きじゃくってテヒョンを困らせてそのまま泣き疲れて眠ってしまったらしく、起きたら見事に顔がパンパンに浮腫んでいてマンゲトックどころの騒ぎじゃない。
「じみな、ちょーぶさいく。」
腫れたぼくの顔を見て面白がって言うテヒョンに、おまえもな!と真顔で返してやった。めっちゃ泣いてたもんな、おまえ。なんでおまえがぼくより泣いてるのか、意味分かんない。
テヒョンアめちゃくちゃ泣くじゃん、って可笑しくて、もう途中から泣いてるのか笑ってるのか分かんなくなって。枕投げさながらティッシュを丸めて投げつけ合った。
「んーでも、なんかスッキリしたわ。」
ありがとな、改めて言葉にするのもちょっぴり照れくさくて、涙だか鼻水だかよだれだかよく分からないほっぺに残る痕をゴシゴシ擦ってやった。なんでそんなに嫌そうな顔をされるのかは納得いかない。
どんなに悲しいことがあった後でも夜になれば普通に眠くなるし、時間がきたらお腹も減るわけで。
もちろんジョングクと顔を合わさない日はないから、どうやって接したらいいかすごく悩んだけれどなんてことはない、そんな心配はいらなかった。仕事中ですら目も合わせなければ近寄っても来ないし、家にいるときは自分の部屋から一歩も出てこなくなったから。
いいんだこれで、寂しくなんかない...寂しくなる必要は、ない。
「ジミナ!」
「ジミナーーーー!」
「じみなーーーー!」
「じみなぁーーーー!」
「じーーみーーなーーーー!」
他人の迷惑もかえりみない大声の主はキムテヒョン、またの名をキム・オウム・テヒョン。
毎日、毎日、ジミナジミナジミナジミナと飽きもせずに。どこへ行くにも、何をするにも、ぼくの姿が見えないとこれだもん。
うっっせぇ、ぶっ殺すぞ!!とシュガヒョンにどやされても、ナムジュニヒョンが雄叫びをあげて耳栓を突っ込んでも気にする様子もない。今日はホビヒョンにシュークリームを丸ごと口に押し込まれてたし。大丈夫かな、あいつ。
「ジーミーナーーーー!」
ほら、きた!両手でシュークリームをひとつ大事そうに抱えて、ぼくにも食べろとへらへら笑って。どうやったらそんなところにクリームがつくんだよ。
「ほっぺ貸してみ、クリームついてる。」
「いひひひっ、」
「おまえさ、最近ぼくにベッタリだけど、...寂しかったの?」
「は?」
ちょっと待って、怖い顔するんじゃないよ。さっきまでへらへら笑ってたくせにおまえって二重人格?ついてけないわ。
「今までぼくとジョングクに遠慮してくれてたのかな、って思っただけ。」
「遠慮?誰が?俺が?んなこと気にしたことないしっ!ぜんっぜん?寂しいとかありえないしっ!は?は?は?なに勘違いしてんの、ばっかじゃない!」
ふふふ、そーかそーか、寂しかったか。
「はいはい、分かった分かった。」
「俺がついててやんないとお前...また泣くじゃんか。俺は泣いてもいいけど、お前が泣いてんのやだ、なんかムカつく。」
「なんだそれどういう解釈。」
でも実際こいつのおかげで自分が失恋したことを忘れていたくらい。変わらずバカばっかやってるテヒョンとぼくみたいにいつか、ジョングクとも昔のぼくたちみたく戻れる日がくるといい。ただの願望だけど。
「俺の話聞いてた?お前が泣くとちょームカつくの、分かる?」
「...うん。」
「はぁ...そんなつらいなら俺があいつに言ってやろうか?」
「いたたたっ、痛いよ、もうっ!」
袖口を伸ばして目元をゴシゴシ乱暴に擦るテヒョン。だからぼくは泣いてなんかない!って長い腕を振り払って、テヒョンの言葉は聞こえないふりをした。
*
それからしばらくたったある日、あの筋肉の塊が熱を出した。
朝からジンヒョンがキッチンとジョングクの部屋を行ったり来たり、バタバタと忙しなく動いてる。ぼくも何か手伝えることがあればと思ったけれど、ジョングクが嫌がるだろうからと手を出せずにいた。
「ジミナ!突っ立ってんだったら、これ!」
取り替えてきて、と手の上に置かれた冷却シートをじっと眺める。助けを求めようにも周囲に誰もいなくて、しかたなくぼくはジョングクの部屋に向かった。冷却シートが手の中で温まってしまわないうちにと。
通い慣れたはずの部屋の前で一度、大きく深呼吸をしてから足を踏み入れたけれど。ぼくの心配をよそにジョングクは死んだように眠っていて、時々苦しそうに息を吐き出す。
おでこのシートはすっかりその仕事を終えていたからそっと剥がして手を当てた。可哀そうにまだすごく熱い。ずっと具合が悪かったのに我慢してたみたいだとさっきジンヒョンが言っていた。元々熱を出しやすい子なのに無理するからだよ、バカだな。
「ひょ、ん。」
ジョングクの熱を持った手がぼくの手に重なる。慌てて引こうとしたら手首を掴まれ、虚ろな黒い瞳に囚われた。
「えっと...これ、貼ったら出てくから...ゆっくり休みな。」
「じみにょ、」
「ん?なんか飲む?み、水、持ってこようか?」
「...行かない、で...そばにいて...ひょん、」
「ぇ...ぅん...どこにも行かない、ここにいるよ。」
ぼくの指を一本握りしめたままでまた、ゆっくりと瞼がおりていく。
熱に浮かされているだけだと分かってはいてもぼくの心臓はドキドキ、うるさいほど高鳴った。いまだ冷めない自分の気持ちを再確認する。
「こんなんでおまえのこと、忘れられんのかな。」
ずいぶんと昔にも高熱を出して寝込んでしまったジョングクを何日も看病したことがあったっけ。
あのときは薬を飲むのもジミニヒョン、お粥を食べるのもジミニヒョン、身体を拭くのもジミニヒョン、着替えをするのもジミニヒョン。夜は俺が付き添うと言ったリーダーに、ジミニヒョンじゃなきゃ嫌だ!なんて、グズグズ泣いてメンバーを呆れさせてた。懐かしい思い出。
いつの間にか大人になってずいぶんと逞しくなったけれど、中身なんてちっとも変わってなくて。こうしてぼくの指を離さないところがあの頃のまんまじゃんかって笑っちゃうのに、ものすごく胸が苦しい。先に手を離したくせにこんな風にまた、簡単にぼくの心を掴まえるんだな。
そこから指を引き抜いて、もうそんなに冷たさを感じない冷却シートをおでこに乗っけて、振り返らずに部屋を出た。
ジンヒョンにジョングクの様子を報告したら、なんでかぎゅっと抱きしめられて、痛くて、苦しい。キッチンの椅子に強制的に座らされ、きょとんとしているぼくの前にトンと白いお皿が置かれた。そのお皿の上には白い苺のショートケーキ。
「甘いものを食べるとね元気が出るから、いっぱい食べな。」
目の前で頬杖をついているジンヒョンはぼくが食べている様子をじっと見つめながら、泣かなくていい、と何度も頭を撫でてくれる。
その日食べた苺のケーキは今まで食べたどんな美味しいケーキとも違う、しょっぱくて、やさしい味がした。
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