stop time
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『stop time』
いつもの時間、いつもの日々、夕暮れに染まる校舎の中で、綿貫桜哉はズボンのポケットに手を突っ込んで、ぼーっと歩いていた。
先生に雑用を押しつけられ、真昼達が帰った後も残っていた。
その雑用も終わり、どことなくふらふら歩いていると、瑞々しく澄んだような綺麗な歌声が聞こえる…。
近くには音楽室、桜哉はこの歌声が誰のものなのか、いち早く察知した。
壁に寄りかかり、その歌声を耳に入れて目を閉じた。
(…蒼の声だ……)
優しく微笑み、手を組んで歌う姿が目に浮かぶ。
桜哉も思わずふと笑みを零し、少し俯いた。
…まるで、さらさらと流れる小川の中を、ゆっくり泳いでいるような、そんな感覚を覚えた。
少ししてその歌声は止み、桜哉も目を開けた。
すいっと横目で音楽室のドアを見やる。
すると、ガラリとそのドアが開いた。
「あれ?桜哉くん?」
目を大きく開き、きょとんとした顔でこちらを見る蒼。
とととっと近付き「どうしたの?」と声を掛けてきた。
「真昼くん達と一緒に帰ったんじゃないの?」
「いやぁそれがさ、先生に雑用頼まれちゃってさー。この時間まで残ってたんだよ」
「そっか、お疲れ様だね」
「プリントをな?半分に折っていく作業なんだけど」
「うん」
「そういえば内容なんだろって見てみたらさ…なんと!!通り魔が出るから気を付けろって注意事項だったんだ!」
「と、通り魔!?」
えぇっ!?とびっくりしたような顔で真剣に聞く蒼。
おどろおどろしく話す桜哉の言葉を、蒼は素直に受け入れていく…。
「そう…この近辺で出始めたんだ、その通り魔が。被害者は既に数十人…襲われた人の首筋には、必ず跡があるんだ…」
「な、なんの跡?」
「……血を吸われたような…噛まれた跡が……」
「っ!?」
「さて、今の話はどこまでが嘘でしょーかっ!」
「へっ?…う、嘘なの?」
「……」
真昼達がいないため、ツッコミがない。
オチが見付からず、桜哉は「あー…え~っと…」とどもり始める。
苦笑しながら、蒼の頭をポンポンと叩いて二カッと笑った。
「ま、暗くなる時間は気を付けろってことだよ」
「あ、そ、そうね…そうだよね!」
「おう!」
誤魔化すように、桜哉は「あ、そうだ!」と人差し指を立てた。
パッと顔を明るくして、まるで☆が一つ二つ飛んでいるように見える。
「どっか寄ってこーぜ!真昼達と寄れなかったからさ、付き合ってくんない?」
「う、うん。いいよ?」
「よっしゃ!」
ウキウキと子供の様に蒼の前を歩く桜哉。
「……」何か引っかかるような表情で、前を歩いている桜哉の背中を見つめながら、蒼も歩き始めた。
ちょこちょこと歩く蒼の歩幅に合わせて、隣に移動する桜哉。
「今歌ってたのって、文化祭用か?」
「うん。合唱でね、ソロの部分があるから練習しておきたくて」
「そっか。楽しみだな文化祭♪」
「私も楽しみ♪」
えへへと笑う蒼の笑顔。
ふと笑みを零すと、桜哉は急に蒼の手をぎゅっと掴んだ。
「えっ!?」驚く蒼を余所に、桜哉は走り出すと同時にぐいっと引っ張る。
ぐらっと揺れる蒼のバランスを取りながら「暗くなるから、早く行こうぜっ」廊下を軽々と抜けるように言った。
唖然とする蒼だが、楽しそうにする桜哉を見て、もう一度笑みを浮かべた。