fair is foul, and foul is fair
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『fair is foul, and foul is fair』
休日の、とある時間…。
リビングのソファーで本を読んでいた蒼の元へ、一匹の黒猫がやってきた。
その黒猫は、ベランダから窓をトントンと叩いている。
音に気付いた蒼は、その姿を目に映すとふっと笑みを浮かべて立ち上がった。
ベランダの窓をカラカラと開けると、ふわりと優しい風が蒼を包み込む。
「いらっしゃい、クロ」
トコトコと部屋の中へ入って来た。
サーヴァンプ…“怠惰”の吸血鬼【沈黙する終焉(スリーピーアッシュ)】。
今の名をクロ、日光を浴びると黒猫に変わる。
隣に住む城田真昼と契約を交わし、本人曰くめんどくせーことになった、と嘆いている。
そんなクロを、蒼は嫌がる素振りも無く、寧ろ手乗り猫が可愛いと、コーラやらカップ麺やらポテチやら買ってあげては甘やかす始末。
それでよく真昼に怒られることもしばしば…。
「今日はどうしたの?」
「…掃除機の音いやだがら、逃げてきた…」
「あはは、そっか」
クロを抱き上げ、「お掃除中なんだね」と言いながら呼んでいる途中の本を手にした。
ポスンとソファーの上に座ると、クロを膝の上に乗せる。
蒼の膝の上で手足を伸ばし、だらんとしているクロは、尻尾をぱたぱたとさせていた。
クロの頭を撫でると、読んでいた本をパラッとめくり、再び読書に入りこもうとする蒼。
「なに読んでんだ?」
「ん?これ?」
一度パタンと本を閉じると、表紙をクロに見せた。
【マクベス】ウィリアム・シェイクスピア作、四大悲劇の一つである。
何故そんなものを読んでいるのかと、クロは疑問に思った。
そんな疑問に答えるように、蒼は言葉を続けた。
「この間、演劇部の先輩がマクベスの劇を観に行ったんだって」
「…なんで、よりによって悲劇のやつなんか…」
「さあ…でもすごい感動したって。役者は勿論、そのお話も。だから私も気になっちゃって、それで読み始めたの」
「へー…」
「…それでね、気になるセリフがあるの」
本を隣にポスンと置くと、本とは反対側にクロをそっと降ろした。
スッと立ち上がり、数歩歩いてくるりとクロのいる方に身体を向けると、まるで張りつめた空気が漂う。
思わずクロも身体を硬直させてしまった。
魅入られるように、蒼の動作から目線を外すことが出来ずに…。
当の本人は、セリフと共に動作する。
「きれいはきたない」
天からおちてくるものを受けとめるように右の掌を上げて…。
「きたないはきれい」
地からあがりくるものを受けとめるように左の掌を上げて…。
「闇と汚れの中を飛ぼう」
上げた両手を振り払い、窓から差す陽の光へ身体を向けて、まるで飛び立つように両手を横に伸ばす。
「!」
開けたままの窓から、強い風が一瞬蒼を包み込む。
まるでセリフに合わせて羽ばたかせるかのように…。
カーテンが強くなびき、透けて見える蒼の姿は、まるで真っ直ぐ飛翔する鳥の様子が垣間見える。
強く輝かしいそんな姿を、クロは目を見開いたまま見つめていた。
「ふう……ん?…クロ?」
緊張した空気は、ゆらりと元に戻っていくカーテンと共に消えていく。
クロの方に目を向けると、固まったまま動かない。
呼びかけても返事など無く、蒼はクロに近付いた。
「クロ?どうしたの?ぼーっとして…」
「……あ…いや…」
「?」
首を傾げると、もう一度くるりと背を向けて窓の方へ向かう蒼。
窓を閉めるのかと思いきや、その場に立ったまま動かずにいた。
クロはソファーからピョンと飛び降り、トコトコと蒼の隣に近付く。
じっと見つめていると、蒼は間を空けて「…ねえ、クロ」と静かに語り始めた。
ゆらりと風がなびき、蒼の髪を揺らしながら…。