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一方蒼は、替えのタオルを洗面所の方で洗い終わった後、台所で食器を洗っていた。
クロは猫の姿のまま、ソファーでゴロゴロとくつろぎ、尻尾をパタパタ動かしている。
台所で蒼の片付けをしている姿を見つつ、外の風景を眺めていた。
(……天使の梯子…か……)
空は晴れ渡り、先程見えた雨上がりの空はすっかり消えている。
クロは晴天の空を見つめながら、天使の梯子が見えた時の蒼の発言を思い出していた。
クロの表情は曇る。
もう一度蒼を見てみれば、いつもと変わらない様子で食器を洗い、片付けていた。
ピョンとソファーから飛び降りるクロ。
とことこと蒼へ近付き、名前を呼ぼうとしたがクロが来たことに蒼が先に気が付いた。
「?…どうしたの?クロ」
「もう少しで終わるから、待っててねー?」棚に食器を片付けていく姿を、クロはちょんと座り、ジッと見つめている。
まとめてお皿を閉まった後、蒼は着けていたエプロンを外し、待っていたクロを抱き上げた。
「おまたせ。どうかしたの?」
「……」
ソファーにポスンと座る蒼。
問い掛けても、クロは何も言わない。
?を飾すが、ふと笑みを溢しふわりとクロの頬を撫でてあげた。
気持ち良さそうに目を閉じ、手にすりよってくる。
気持ちを安心させる癒しの持ち主。
このまま、時間が止まってしまえばいいのに…そんな風にすら思ってしまう。
あまりの気持ち良さに、クロはカクンと首を何度か落とした。
「クロ…眠い?」
「……おー…」
「確か、籠が真昼くんの部屋にあったよね。……あ、そうだ♪」
「……?」
ソファーの端に畳んで置いておいた毛布。
病院に行く前に、横になっていた真昼に掛けていたもの。
何かを思い付いたように蒼は立ち上がり、クロを抱えたままその毛布を持ってリビングを出ていった。
──────────……
夕暮れ時の空が紅く染まる頃…真昼は目を覚ました。
左下に何か重みがあるのが感じられる。
半開きの目をそちらの方に向けると、蒼がうつ伏せになって、スースーと寝息を立てていた。
ご丁寧に自分に毛布を掛けて、近くには黒猫姿のクロが丸くなり、毛布を掛けて一緒に眠っている。
「……蒼……蒼…そんなとこで寝てると、風邪引くぞ…」
声を掛けてみるが、起きる気配はなく。
気分はとりあえず落ち着いていて、熱も少し下がっているのが分かった。
身体を起こそうとした時、蒼が小さく名前を呼ぶのが聞こえて、起こすのを止めた真昼は蒼の方をもう一度見た。
「……ん……真昼くん………むにゃ…熱、下がった……」
(……なんだ…寝言か…)
「……明日……晴れる、から……きっと、元気になる…よ………」
「………まったく…」
蒼の寝言と、口元が綻んだ様子が見えて、真昼も思わず口元が綻ぶ。
布団から左手を出し、そのまま蒼の頭へ。
そっ…と触れ、優しく撫でた。
「…ありがとな、蒼」
──────────……
数時間か前…。
ガチャ…
『真昼くん、寝てるから静かに静かに…』
『…蒼、寝込み襲うなんて向き合えねーよ…』
『ちっ、違うよっ……』
こそそっと会話しながら、真昼の部屋に静かに忍び込む蒼。
真昼に近付き、クロをベッドの上にそっと置いた。
近くにあったクロ専用の籠から毛布を取り出す。
そして持ってきた毛布を自分の肩に掛けてペタンと座り込んだ。
『ここで寝んのか?』
『うん』
『風邪引くぞ…?』
『真昼くんが目を覚まして、寂しくないって思ってくれるならへっちゃらだよ』
『……はあ~…向き合えねー…』
『ほらほら、クロも寝よ♪毛布掛けてあげる♪』
『ったく……風邪引いても知らねーぞ…?』
『大丈夫大丈夫よ〜!』
真昼のベッドに掛けていた腕を組んで顔を乗っける蒼。
寝顔を見て、安心すると瞼が重くなり、うつらうつらと揺れ動く。
いつの間にか、眠りについた蒼をクロは『ふう…』と溜め息をつきながら見ていた。
……台所にいた蒼へ言いたかったこと、その言葉…いや、正しくは願いを、クロはポソッと呟いて同じように眠りについていった。
『………梯子、早く昇んなよ…?』
最後まで、クロは天使の梯子を気にしていたのだった。