08.うそつきはだれだ
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『つらいことが、あったんだね…』
『!』
『“目の前にある事だけが、真実とは限らない。”前に読んだ、推理小説に載ってる一説』
『…蒼』
『ごめんね…』
『え…?』
『私、桜哉くんの事…何も知らなかった』
『… 蒼が、謝る事じゃねーよ…』
『…こうして触れてみて、分かるよ?桜哉くんが、とてもつらい気持ちを抱えてる事』
『……オレは………オレ…っ』
『うん…うん。大丈夫…大丈夫よ?…少しずつでいい。教えて?』
『だめだ、こんなドロドロした…汚い気持ちなんて…っ』
『いいよ……いいの。その気持ち、全部…全部……
私が受け止めてあげるから』
その言葉と同時に、蒼は桜哉の両頬から手を離し、そのまま首の後ろに手を回した。
優しく、包み込むように、桜哉を抱きしめたのだ。
耐えきれなくなった桜哉は、しがみつくように蒼を強く抱きしめた。
溢れだす涙、泣きすがる姿、子供をあやすように頭を撫でてあげる蒼。
必死に言葉に置き換える桜哉の話を、うんうんと、ゆっくり耳に入れていく。
『……オレは、嘘つきだ…っ』
『うん…』
『嘘つきの街で生まれた…』
『…うん』
『嘘つきの子供…』
『……うん』
『ホントはさ…もっと…もっと…っ』
『…うん』
『笑ってたかったよ…っ』
『…うん。うん。…笑おう?一緒に笑おう?』
『…でも、だめなんだ…』
『?…ダメ?どうして?』
『オレは…あの時…椿さんに……』
『!…椿、さん?』
『…ありがとう、もう十分だ…っ』
『っ…ま、待って?まだあるんだよね?まだ言いたい事があるんだよねっ?』
『いいんだ、蒼。ありがとう……ごめんな、蒼…』
スッ…と蒼から離れ、桜哉は闇の中へと消えて行く。
『待っ…!!』手を伸ばすも届かず、蒼は暗闇に降る雨の中、一人取り残された。
たった一人取り残された蒼は、下に俯き、救えなかったと後悔の念を抱く。
『桜哉くん…』
ポツン…
一粒の涙が、地面に滴り落ちた。
すると涙が落ちた所から光が周りを照らした。
『っ!』
突然の事に驚き、目を見開く。
雨は止み、まるでその光が全体を照らすように…。
──────────……
『…な、なに…?』
そう呟くと、光は止み、辺りはもう一度暗闇に包まれた。
だが最初の時とは違い、周りは雪原に変わり、そして雨の代わりに雪がしんしんと降り出したのだ。
真っ暗な空は変わりなく、ただポツンと…まあるい満月がそこに灯っている。
雪が降っているのに、寒くない…『不思議…』ポソッと呟く蒼。
すると蒼の後ろで、何かが現れたような気配がし、恐る恐る後ろを振り向くと…。
『へ…?』と気の抜けたような声を出してしまった蒼。
そこには、何の変哲もない真っ白なテーブルと、真っ白なイスが一つあるだけだったのだから。
気配の主が現れたと思って振り向いた結果、呆然としてしまったようだ。
さくっ…さくっ…
雪の上をゆっくり歩き、テーブルとイスに近付く蒼。
不思議なことに、触ってみてもテーブルとイスには深々と降り続ける雪は積もってなどいなかった。
『…夢だから、寒くないのかな…?』
呟きながら蒼はそのイスに座ってみた…とその時、周りから声が響いた。
─────夢だけど、夢じゃない─────
『え?』
少し大人びた、まるで鈴の音が響き、透き通るような女性の声。
─────ここは、夢と現実の狭間─────
『は、狭間?』
─────そなたは、必然でここへ来た─────
─────これから…起こる事の為に…─────
─────正に…運命、というものなのであろうな…─────
『…誰?』
天に向かって言ったその言葉で、声は何も言わなくなった。
そして蒼の目の前にふわりと白い霧が立ち込める。
渦を巻き、その中に誰かがいることに気付いた蒼。
形どられていくのが終わり、白い霧は風に流れるように消えていった。
そこに現れたのは…。