07.守るということ
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リビングを出たクロは、真昼の部屋に入り、閉めてあったカーテンを開けた。
カラカラカラッと窓も開く。
隣の仕切りの先は…蒼の部屋。
黒猫の姿に変わり、仕切りに向かってぴょんと手を掛けた。
よじよじと登り、蒼の部屋の窓を確認する。
細い幅の仕切りを足で蹴り、飛び降りた瞬時に窓の縁へ手を掛けた。
ぷら〜んとぶら下がり、「ふぅ…」と一息落ち着くと、ひょこっと部屋を見てみた。
カーテンは開けっぱなし、部屋は暗いまま。
僅かな縁の淵に器用に立ち、ペタリと両手を当てるとほんの隙間分窓が開いた。
(不用心だな…)
そう思う他無いクロはそろりそろりと淵を横へ歩き、窓を更に開けた寸前を狙って蒼の部屋にぴょんと飛び降り、辺りを見渡してみる。
だが様子がおかしかった。
「…鞄がねえ」
帰って来たら置く筈の蒼の学校用鞄がない。
クロはリビングや台所、洗面所や手洗い場に行くが、電気など点いておらずどこもかしも暗いまま、人のいる気配が全く無くもぬけの殻。
玄関に行くもローファーが無い、やっぱり帰ってきてない。
(どういうことだ…?)クロはもう一度蒼の部屋へ戻り、開けたままだった窓の前に立つと漸く人の姿に変わった。
「…ったく、めんどくせーなあ…」
そのまま窓から飛び降り、蒼の気配を追うクロは建物を次々と飛び駆けていく。
・・・
(あっちから…視える。蒼のオーラが…)
初めて会った時から感じた、蒼の気配。
なんとも言えない、熱く感じたもの。
真昼の部屋に戻ってきた後、二人で話した時に現れたオーラが、光景が大きく鼓動を動かしたことを…クロは今でもハッキリ覚えている。
尽きる事のない、眩しく輝きながらも、その輝きに目を打たずして直視できる淡い光。
例えて言うなら、蛍のような灯火…それが後光のように蒼から溢れ出す。
クロの目にはそのオーラがくっきりと視えている。
そして感じた…リリイやベルキアも感じた、あの熱い鼓動。
それが何なのか、クロにも理解は出来ていない。
蒼がいない、内から溢れだす熱い鼓動は、オーラを伝って真っ直ぐに病院へと向かわせた。
(…?病院?)
また何かやらかしたのかと、眉間にシワを寄せて、病院に着いたクロ。
蒼の病室を探し当て、窓から忍び込むクロ。
(つーか、ここの窓も開けっ放しかよ…全開だし…)そう思いながらカラカラと窓を閉め、ついでにカーテンも閉めてあげる。
そしてベッドで眠る蒼に、ほっとした様子で近付いた。
「ふ~~……向き合えねーよ、お前の無茶には…」ポヒュンッ
そう呟き、黒猫の姿に変わった。
ピョンッとベッドの上に乗っかり、とてとてと顔の近くまで歩いていく。
そっ…と、猫の手で蒼の頭を撫でた。
勿論そんな事で起きる筈も無く…クロはその場に伏せをしてジッと蒼を見つめる。
寝息の良い音を立てて眠り続ける蒼を見て、クロはいつの間にか眠ってしまっていた。
「……… 蒼…」
──────────……
雨…暗闇の中、強く降り続ける雨…。
傘も差さずに佇む一人の少年。
蒼はその姿が桜哉だという事をすぐに理解した。
『桜哉くん!!』叫び桜哉の元に走る蒼。
桜哉は蒼の方へ振り向き、その表情は今にも泣きそうな、悲哀に満ちたものだった。
『さ、桜哉くん…あ、あの…』
『蒼っ…なんで…』
『ごめんね?桜哉くん。私…桜哉くんの事、気付いてあげられなくて…ごめん。……ごめんね?』
『っ…… 蒼、なんで来たんだよ。お前が来なければ…』
『え…?』
『お前が来なければ…いつだって、笑っていられたのに…』
『さ、桜哉、くん…?』
『お前だって…それを望んでただろ?なのに…なんで……』
『な、何を、言っているの?』
桜哉の言っている事が理解できない蒼。
それでも桜哉は言葉を続ける。
『なんで…お前なんだ?』
『え…?』
『お前が、あの雨の中オレに気付かなければ…
オレなんか気遣って、後を追ってこなければ…
オレは今…皆の隣で、蒼の隣で笑っていられたのに…
オレは明日も、蒼の望む世界にいられたのに』
『わ、たし…の……?…セ、カイ…?』
『こんな簡単なことで、世界なんて壊れていくんだよ』
『っ!!……あ………ああ……っ』
顔を覆い包む蒼。
桜哉はスーっと姿を暗闇に消していった。
そしてまた、あのコエが響く…。
─────私の、望む世界…(あたしの、望む世界…)─────
─────皆、笑っていて…(皆、焼かれてしまえ…)─────
─────とても平和で…(壊れてしまえ…)─────
─────愛する者達と、ただ生きていたかっただけなのに…!!─────
─────(何もかも全部、全部不幸になって消えてしまえ…!!)─────