06.よみがえる幻影
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──────────……
優しい笑顔、優しい声。
今でもはっきり覚えてる、あの懐かしい歌声…まるでそれは、天使…。
【天使の歌声】
蒼の歌声を聞きながら、よみがえる一つの思い出。
救われたような思いが、椿の中を渦巻いていく。
歌声が、はっきりと映し出しているように…椿は知らぬ間に涙を一筋流していた。
「……♪♪──♪────………!つ、椿さん!?」
「え…?」
「す、すみません!そんなにダメでしたか?」
「は?」
椿の涙に気付いた蒼は、自分の歌があまりにダメで泣いてしまったものだと勘違いをした。
それで思わず謝ってしまったという事だ。
一方で、椿は蒼の歌声を通して思い出していた出来事に涙していたにも関わらず、とんちんかんな質問をされて唖然としてしまっている。
そんな蒼の言葉に、椿はぷっと吹き出してしまった。
「す、すみません!…やっぱり、歌わなければ良かったですね…」
「あっあはははっあーははははははっはははははははははっ」
「あぅ…あの……つ、椿さん…?」
「あははははっ…はあ~~…違うよ、蒼」
「え?」
「ちょっとね、思い出しただけ。ねえ、どうして歌ってくれたの?」
「…そ、それは…だって、椿さんがあまりにも悲しそうな顔をしていたので…」
「…だってさ、蒼が連れて行かれそうだったから」
「連れて行かれるって、どこにですか?」
「……どこかに、かな…」
何を言っているのか分からない蒼は首を傾げるだけ。
「どういう、ことですか?」と問い掛けても、椿はにこっと笑みを返すだけで何も言わなかった。
「あ、あの…椿さんは、この唄を知っているのですか?」
「!…どうして、そう思うの?」
「思い出したって、言ってたので…もしかしたら、どこかで聴いてるのかもと思って。もし知ってたら、教えてほしくて…」
そう、椿に歌ってくれた、天使の歌声。
それは心を包み込み、まるで支えてくれているような、そんな曲。
救われたような気分になりながら、椿は「ごめん。僕も聴いたことがあるだけで、詳しいことは知らないんだ」と返した。
「それ、なんていう題名?」
「…この唄のタイトルは…『Carmen Salutis』といいます。翻訳で調べてみたら、ラテン語みたいなんですけど…」
「けど?」
「私、ラテン語なんて勉強したことないし、話すこともできないのに…でもこの唄のタイトルも、歌詞の意味も解るんです。不思議ですよね…」
「……なんていう、意味なの?」
「……『救いの唄』。誰かが苦しんでいる時、悲しんでいる時に、贈る唄なんですよ」
蒼は椿の隣にポスンと座り、椿の手を優しく持って両手で包みこんだ。
包んでいる椿の手を見つめながら、蒼は歌った唄を思い出して目を閉じた。
そんな蒼を見つめる椿、先程の歌っていた蒼を通して見えたある人物。
その人物の面影を、蒼はそっくりそのまま持っているようだった。
…いや、持っているのだ…確実に。
「椿さんを見て、この唄を贈りたいって思ったんです。…歌ってみて分かりました」
「…何を?」
「切ない気持ち、会いたいと願う気持ち、それが伝わってきたんです」
「…歌って、分かるものなの?」
「歌うからよく分かるんです。私は、歌って気持ちをより深く知ることができる」
「誰もがそうすれば、分かるもの?」
「…多分、人によってじゃないかなと…。私が変なんですよ、きっと」
えへへ…と苦笑いをする蒼。
困ったように微笑む椿、そっと蒼を抱き寄せ、優しく頭を撫でてあげた。
椿の行動に一瞬驚きを見せたが、撫でてもらっている感触に居心地が良く感じる。
目がトロン…と、まぶたが重くなっていく。