05.信じてたもの
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一方で、蒼は音楽室に忘れたかもと思い出しながら向かう途中、自分の教室の前を通り過ぎようとした時、開けっ放しのドアから桜哉の姿を見かけた。
ボーっと突っ立っている桜哉に、名前を呼んでみる。
「桜哉くー……ん?桜哉くん?」
既にエプロンと看板、うさ耳カチューシャは外している。
だが背中に着けている弾幕はそのまま…まるで時間が止まったようにピクリとも動かない。
「桜哉くん。どうしたの?」
声を掛けてみると、ビクッと肩が上がるのが分かる。
何かに怯えているような、そんな雰囲気。
触れようと桜哉の肩に手を置こうとする蒼だが…それは桜哉によって叶わないものとなった。
バサッ
「うりゃ!弾幕攻撃~~!!」
「へ?!」
バッと振り向いた矢先に、桜哉は弾幕をいきなり外し、両手を広げて自分自身も包むように蒼に被せたのだ。
急な事に蒼もついていけず、「わっぷ…!な、なに…!?」と慌てふためくだけ。
「あっはははは!なんだよわっぷって!反応古ぃよ!あっははは!」そんな蒼など露知らず、桜哉は蒼の掛け声に爆笑している。
「もうっ!笑っちゃダメよ!」
「あはははっ、わりぃわりぃ。つい面白くってさ~」
被された弾幕からようやく顔を出した蒼、目の前には桜哉の笑顔。
お互いの頭には弾幕がまだ被せられていて、二人共包まれているが為、距離が一気に縮まる。
端から見れば、恋人同士と言われても否定出来ない。
だが蒼からしたら、よく桜哉に横から抱きしめられ、頬を擦り寄らせてくることが多い為、普段はあまり気に留めてはいなかった。
その度に真昼からいつも注意され、引き剥がされていた…まあぶっちゃけジェラシーなのだが。
しかし今回ばかりは…。
「ん~~♪蒼いい匂い~♪」
「ちょ、さ、桜哉くんっ!?」
目の前から思い切りぎゅ~っと、胸に強く当てるくらい抱きしめている。
流石に蒼も顔を真っ赤にした。
「は、恥ずかしいよぉ~~~」
「ん~~蒼かーわいいーっ!」
「もうっ、ほんとにどうしたの?」
「ん~…もうさ、ずっとこーしてたいなあ…ってさ」
「え…?」
一瞬、その声に悲しみが混じっているかのような…。
蒼には感じられた。
だがそれを壊すように、桜哉は一度胸から蒼を離し、目を合わせてにかっと笑った。
「あ、そういえば、何で教室来たんだ?」
「桜哉くんの姿見かけたから。それと楽譜忘れたかもと思って、音楽室に寄る途中だったの」
「楽譜?」
「うん。文化祭でね、メンバー全員の合唱と、ソロパートの人達が一人一曲歌うんだ」
「てことは、蒼も歌うんだな?」
「そう♪ないとダメなのよ~」
自分の机に向かいながら「今日は雨強くなるみたいだから、音楽室で練習もできないし…。帰ってやろうかなって」がさごそと机の中を見てみた。
あっと気付き、どうやら楽譜はあったらしくそれを取り出す。
「良かった、教室にあったんだ…」パラッと一枚めくる蒼の隣に来た桜哉は、ずいっと楽譜を覗きこんだ。
「…あれ?これ作詞作曲者書かれてねーじゃん。自作?」
「ううん。書き起こしたのは私だけど…これはね、昔どこかで聞いた曲なの」
「昔?」
「うん。教会みたいな所で聞いた感じがするんだけど、あんまり覚えてなくて…曲調と詩は覚えてて、でも作った人はよく知らないんだ」
「へぇ~」
「あとね?もう一曲あるんだよ、昔聞いた曲。すっごくいい曲なんだ♪」
「どんな曲?」
「それは今度教えるよ。今回はね?これを歌うの。…桜哉くん、聴きに来てくれる?」
「ああ!勿論!」
「うんっ、ありがとうね♪」
ふんわりと笑みを目いっぱい輝かせながらお礼を言う蒼。
そんな蒼の頭をワシャワシャと撫でてやる桜哉。
力が少し強かったのか「アイタタ…!」と反応する蒼に「あっ、悪ぃ!」と手を離した。
「ごめん!大丈夫か!?痛むか…?」
「大丈夫よ。痛いは痛いけど、病院に行く日だから心配しないで。私こそごめんね?お買い物、一緒に行けそうになくて…真昼くんと楽しんできて」
「いや、それは別にいいんだけどさ…。にしても、どーしたんだよその怪我。理由聞こうにもクラスメイトに囲まれるしさー、タイミング悪くて聞けねーし」
「うん。建物の柱がね、急にバキバキ〜ってなって、下に子供達がいたから思わず庇ったんだけど、その破片が頭を掠っちゃってこんな怪我に…」
「なんだそれ、よく無事だったな」
「何とかね〜。でも、子供達に怪我が無かったから良かったよ」
「でも、代わりに蒼が怪我してんじゃん」
「うっ…そ、そうなんだけど…」
「蒼はすぐ無茶すっからなー。どーせ真昼からもガミガミ言われてんだろ?」
「あう…!ご、ごもっともれす…!」
「あははっ。まあでも、気持ちは分かるよ。…あんま、無茶すんなよ」
そう言いながら、今度は優しく頭を撫でる。
「オレだって心配するからさー」と言ってくれる桜哉に、蒼は「善処します…」と困ったように笑った。
こうして過ごす時間、笑って、心配されて、歌を歌って、3年間を共に…。
ずっとこうして笑いあっていける、そう信じて疑わない蒼とは裏腹に、桜哉はどこか、悲しげな表情をうっすらと浮かべていた。