03.7+1
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──────────……
帰り道、今さっきまでの出来事が真昼と蒼の足取りを遅くする。
因みにクロは猫姿のまま蒼に抱っこされ、のんびりお休み状態。
「真昼くん、今日のご飯どうする?」
「あー…う〜ん……」
「…。ねえ、今日はレトルトとか、簡単に済ませられるものにしない?色々あって疲れちゃったでしょ?」
「ん〜…そうだな。たまにはいいか」
「うんうん。ご飯だけ炊いて、今日くらい楽しちゃおう♪」
「…蒼」
「ん?」
「…サンキュ、気遣ってくれてさ」
「お礼なんていいよ。クロもそれで…っあ!」
思わず口を手で抑える。
目がぐるぐると回りながら冷や汗がだらだらと垂れてくる蒼はふと足を止めた。
そしてぽつりと呟く。
「ま、真昼くん…どうしよ…」
「えっ!?なに!?どうした!?まさか、ほんとは怪我とか…!」
「う、ううん…怪我は、してないんだけど…」
「けど?」
「わ、私……クロって名前…何回も呼んじゃった…!」
・・・・・・・・・・・・・・・。
「は?」
「…?」
仮契約の際、名前を呼ばないようにと言われていたことを今更ながら思い出した。
そう、本当に今更なのだ。
蒼の動揺に、真昼もクロも呆れた表情を見せた。
「あのさ、蒼」
「へ?」
「すんげー今更だぞ?そもそも、あの手品師がいた時にはもう叫んでたし」
「え、うそ…」
「ほんと。まあ、そのお陰で俺もちょっと冷静になれたところはあったけど…」
「そ、それならいいけど……ね、ねえ?ク、じゃなくて…ね、猫、くん?」
「はあ〜…だから、今更だっつーの。大体、もう契約は成立しちまったし…お前が名前を呼んでも、もう関係ねーんだ…」
「そ…そっか〜……じゃあ…」
口を抑えていた手が、クロの頭を優しく撫でる。
最高の撫で心地に、思わず「にゃ〜…」と声が出た。
にこっ
「気兼ねなく、クロって呼べるんだね♪」
「……っ」
花が咲いたような笑顔に、クロはドクンッ…と鼓動が大きく動く。
そして隣にいる真昼も、蒼の笑顔に頬が紅潮した。
何の自覚もない蒼はのほほんと「良かった良かったよ〜♪」と、少々歌交じりに発して、止めていた足を進める。
動けないままの真昼に、ゆるふわのウェーブがかった髪をくるりと靡かせ、振り返る蒼は「真昼くん」と呼んだ。
心地の良い優しい声は、真昼の鼓動もドキッと動かす。
「帰ろう」
「お、おう」
「……」
帰宅した二人と一匹、蒼は一度荷物を置きに行くのと着替えをする為、クロを真昼に渡して自分の部屋へ帰っていく。
バタバタと荷物を置いたり準備をしたりと、部屋へ着替えに行く慌ただしい真昼を余所にソファーでくつろぐクロは、ふとキッチンの方へ視線を向けた。
(…エプロンが、二つ…。あの蒼って子のか…?)
随分と親しげな二人だと感じたクロ。
初めて部屋に連れてこられた時も、食事を一緒にしていた。
隣に住んでいるだけなのに、随分と…。
(……付き合ってる…のか……?)
そう結びつくのは不自然ではない。
真昼の方は態度を見ていれば言わずもがな…どちらにしても好意があるのは間違いない。
…けれど、相手の方は…?
本当にごく僅かのこの短期間で、とんでもない天然娘だということは分かった。
別にだからどうという訳でもないが、クロの中に生まれた小さな靄が、何故か気持ちをそわそわさせた。
そこへ、玄関が開く音が響き「お邪魔します〜」と鈴のなるような声が後から聞こえる。
パタパタとスリッパの歩く音がやってきて…。