02.椿
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「…その……“椿”…さん?…て、どんな人なんですか?」
「ん~?そうだねェ…お祭り好きかな」
「お祭り?」
「そう!派手なことが大好き!そしてボクたち“家族”をとても大事に想ってくれる。すごい笑い上戸なんだけど、冷めるのも凄く早いんだよォ~」
楽しそうに、嬉しそうに、大事そうに話す手品師の言葉に、蒼は静かに耳を傾けていた。
「ダッツの抹茶味とか、お稲荷さんが好きでね?…でも、とてもかわいそうな人なんだァ…」最後の言葉で、とても悲しそうに言う手品師。
蒼も、何故かわいそうなのか事情は分からないが、一つ思ったことはあった。
「……その椿って人のこと、とても大切なんですね」
「!…なに急にィ。でもそうだよォ?ボクらにとって、椿が全てだから」
「…そうですか」
そこまで敬愛する事に、何か意味があるのだろう。
“椿”…どんな人なのだろうか…。
だけど、深く追求出来ない…。
キーン…と耳鳴りが鳴り始め、蒼は耳を抑える。
知らない間に蒼の表情が曇り出し、手品師もそのことに気が付き声を掛けた。
「ねェ~、なんで耳塞いでるのォ~?っていうか、なんでキミがそんな顔するのォ~?」
「……あ…えと、耳鳴りがして…。…何で、かな……何だか、悲しくなっちゃって…」
「…キミってさァ、ホント変な人間だよねェ。フツー敵のことそんな風に思わないでショ?」
「敵って、言われても…敵味方なんて私は…」
「それにさァ…」
「?」
「なァんかさっきから感じる…今もそう、熱いんだよォ。なんか変な感じィ~」
「?…私、特に何もしてないのですが…」
「ん~~…なんて言うのかなァ…キミから漂うオーラっていうの?それがァ…」
「変に、してる?」
「そォそ」
「……私、貴方を困らせてる、でしょうか…」
きゅっと胸が痛めつけられたような、困った表情を見せる蒼。
そんな蒼の表情を間近に、手品師はまたも慌てふためく。
「べ、別に困るなんて言ってないじゃ~んッ」
「……なら、いいのですが…」
ふと笑う蒼。
でもその笑みはどこかぎこちなく、無理に笑ってるようにしか見えなかった。
「…キミは、まるで異質だねェ」
「異質…」
─────ドクン…─────
鼓動が一つ、大きく動いた。
“異質 -イシツ-”、それは蒼の心を揺さぶる。
嬉しいでも悲しいでもない、何とも言えない感情。
でもそれが何なのか、蒼自身は分からない…分からないままの気持ちが心をもやもやさせた。
(分からない事が、この時間までに沢山増えた気がする…)
「ねェ~~つまんないよォ~~!なにか芸の一つでもできないのォ~~?」
「っ!げ、芸?芸って言われても…歌う事しかできませんが…」
「歌?じゃあそれでいいよ!下手だったらブーイング起こすからネ☆」
「へっ、が、頑張りますっ」
机に人形を置くと、しゃきっと緊張したように背筋を伸ばす蒼。
目を閉じて、一度深呼吸をする。
胸の前で手を組み、すぅ…と息を吸い込むと、静かにその歌声は響き始めた。
「♪─────♪♪─────♪───…」
「っ!?」
蒼の歌声を聞いた途端、身体の芯から込み上げてくる感覚を覚えた。
本人すらも理解できない、湧き起こるような熱い思いが手品師の心を包んだ。
それは縛られているでもなく、抑え込まれているでもない…。
ふわりと優しく包み込まれているような、そんな思いが巡る。
(な、なんだこの歌声…胸の奥がさっきより熱い。…ずっと、ずっと聞いていたいって思う……一体、何なんだ…?この人間…)
疑問を抱きながらも、歌に心奪われる手品師。
答えを見出すことなく、歌は静かに終わっていった。
「…え、えっと…ど、どうでしたか?私の歌…」
「へ?…あ、ああ…ま、まあいいんじゃない?しょーがないから上手かったって言っておくヨ☆」
「ふふっ、ありがとうございます。きっと、貴方みたいな楽しい人が側にいたら、気持ちもわくわくして、次の日が楽しみになりそうですね♪」
「!……フン!ホント、変な人間~」
「失礼な」
なんだかんだ時間が過ぎていることに気が付き、いつの間にか深夜になっていた。
「もうこんな時間…!」人形を持ち上げ、嬉しそうにする蒼。
そんな蒼に、手品師の人形はさっきと変わらず変な人間だと思う他無かった。