09.武器を持つということ
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──────────……
そこで背景は消え、雪原の景色に変わる。
蒼の表情は、何とも言えない困惑したものになっていた。
“悲しみ”“後悔”“怒り”それらが全部交わり、蒼の拳が力強く握りしめ、ぽたっと涙を零す。
眉間にシワを寄せる蒼に…。
『眉間にシワが寄っていると、折角の美しい顔が台無しであるぞ?』
後ろから声を掛ける者が現れた。
振り向く蒼の目に映ったのは、自分の眉間に指を指していながらイスに座っている女性だった。
『……』
『だから言ったであろう?』
『……っ私、何も出来なかった…結局、何も変わらなかった…っ』
『…そなたがそう望んだのだ。怠惰の主人(イヴ)の親友が吸血鬼、力を拒み食われそうになった怠惰の主人(イヴ)が苦しみ、悲しむ光景を目の当たりにした』
『…真昼くんに、声を掛けることすら出来なかった…』
『ようやく理解したか?これでそなたが関わる必要などないと』
『……そんなこと…は…っ』
『…ではそれ以上関わり、怠惰の主人(イヴ)を…あの嘘つきの子を救えると?』
『嘘つきって言わないで…っ!!』
『……』
『あ…!』
思わず大声を出してしまった蒼は、直ぐ様気が付き『ごめんなさい…大声出して…』と謝罪した。
しゅんと縮こまる蒼に、ふぅ…と溜息をつく女性は『座るがよい』と白いイスを指差す。
招かれた際に出て来た、白いテーブルと白いイス。
カタンと座る蒼に、女性は指をパチンと鳴らすと、ふわあっと白い霧が蒼の前で渦巻き始める。
中から白いカップに淹れられた紅茶が現れた。
『…すまなかった。私も配慮が足りなかった』
『…いえ、そんなこと…』
『……詫びだ。飲むが良い』
『……』
カチャ…
カップを手にし、こくりと一口飲んだ蒼は、ほぅ…と心を落ち着かせた。
まるで、先程の負の思いが嘘のように溶かされていく。
そんな蒼を、女性はただジッと見守るだけ。
『…ラベンダーの、ハーブティー…ですね』
『ラベンダーには鎮静効果がある。…どうだ?落ち着いたか?』
『はい。ありがとうございます…』
ほっと笑みを零す蒼を見て、女性もどこか安心したように目を閉じた。
『そういえば…』と言葉を続ける蒼の声に、女性は目を開いた。
『あの時も…ありがとうございました。沼の中で、貴女の声が聞こえたから』
『…身に着けておいて、良かったであろう?』
『…あのループタイって、何かあるんですか?』
『……』
『それも、答えてくれないんですか…?』
何も言わない女性。
下を俯く蒼は、そっとループタイの石に手を当てる。
カボションカットの深い透明色の蒼を帯びていて、まるで深海を表しているかのよう。
石の中には、所々に含まれるインクルージョンと呼ばれる小さな粒が金色に輝き、夜空を連想させる。
女性はどこか断念したように…断片的なことだけを話した。
『…アレは、源の結晶。そなたを守ってくれる』
『みなもと?何の、源?』
『……守る、源』
『まも、る…?』
『…そう、守る力だ』
『……守る、力…』
蒼はふと思い出した。
真昼の苦痛な表情を…誰かを守れなかったつらい表情を。
思い出し、同じようにつらい表情を露わにする蒼を見ては、女性も辛そうな表情を露わにした。
といっても、それはすぐに消えてしまうのだが…。
『そなた、本当にこのままでいいのか?』
『…はい』
『私の手にかかれば、全てが変わるなんてあっという間だ。何もかもが無に帰す』
『…それって、記憶を全て無くすのでしょう?』
『…そうだ』
『……私、約束したんです。桜哉くんと』
『…約束、か』
『……望んだら、きっとそれも失くしてしまうもの』
『……』
『だから、私帰らないと…』
『……。もう、何を言っても止まらぬのだな…』
パチンッ