07.守るということ
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#07.守るということ
病院の上から見渡す夜の街。
片膝をつき、ぼんやり虚ろな瞳がその夜景を映す桜哉の姿がそこにいる。
おもむろにポケットへ手を突っ込み、携帯を取り出した。
画面をタップして、以前蒼と一緒に撮った写真がぽうっと灯る。
いつだったかな…確か、中学校で…と。
─────「もう一曲あるんだよ、昔聞いた曲。すっごくいい曲なんだ♪」─────
─────「…桜哉くん、聴きに来てくれる?」─────
─────「うんっ、ありがとうね♪」─────
「ふっ…」
蒼のありがとうと言っていたあの笑顔…まるで小動物、思わずぎゅっとしたくなる。
写メの中には、満面の笑顔でピースをする桜哉と蒼がいて、沢山の蒼の姿が桜哉の中を過ぎる。
けれど、ふと映った手に巻いてくれた蒼のハンカチがその後の出来事も思い出し、表情は一気に沈んでいく。
「はあ〜…っんとに、何でついてきたんだよ… 蒼の奴…」
外が騒がしく、何だろうと思って見ると、救急車が誰かを運んでいるのが見えた。
真っ先に椿さんが行ったのをはっきり覚えてる。
…オレは行かなかった……いや、行けなかったの方が正しいか。
ちらりと盗み見ると、横たわった蒼の姿が胸をぎゅっと締め付けられてるような気分だった。
(…でも、そうだよな。あいつはそういう子だから…)
蒼の性格はよく分かっている。
誰よりも優しくて、傷付いている人を放っておけない。
本気で心配して、必死になってくれるから…。
放課後、教室に戻った時も、のどが渇いてどうしようもなく…この手にかけたくて、うずいていた。
そんな時、蒼が来た。
様子が違うと、いち早く気付いて心配してくれた。
そんな優しい蒼を食べるのか…?
教室に蒼の血が飛び散って、無残な姿にしろと…?
蒼を還らぬ人形にしろと…?
ふざけんな!!
そんな事をしてしまったら、もうオレは…。
けれど不思議なことに、手にかけたいという気持ちは収まっていたのだ。
…自分の欲に、勝てたのか?
いいや違う、蒼が…オレの衝動を抑えてくれた、確証もない確信が何故か自分の中にあった。
蒼の優しい笑顔、いつだって思い出せる。
その笑顔は、いつだって皆に、龍征に、虎雪に、そして真昼に向けていた。
…いつか、その笑顔を俺だけに向けてくれたら……なんて事を思ったことだって何度かあった。
人間じゃない自分が、そんな願いを持っていい筈がない。
蓋をして、喉の渇きが疼きながらも、皆の側に… 蒼の隣で笑っていた。
─────「きっと、変な人に襲われたんでしょう?」─────
─────「だって桜哉くん、警告してくれてたもんね」─────
─────「大丈夫、大丈夫よ?もう怖がらなくていいんだよ」─────
「っ…… 蒼っ…」
顔を埋めた。
安心させようとしてくれた蒼の優しい笑顔と、あたたかい言葉を思い出して…。
その時は、自惚れていると分かっていながらも、そう思わざるを得なかった。
(…オレの為に、笑って、そう言ってくれた…)
あの雨の中、ほんのひと時の事だったけれど、嬉しかったんだ。
大丈夫、もう怖くないって…言ってくれた事。
救われたような気持ちでいっぱいになって、思わず蒼に抱きついた。
あのまま、オレのものになってしまえば良かったのに…。
あのまま、時間が止まってしまえば良かったのに…。
世界が、あの一瞬で終わってしまえば良かったのに…。
本気で思った、叶う筈のない願いが溢れてくる。
まあ教室では思わず、願いを口にしてしまったが…。