年下彼氏×年上彼女の恋ってナシですか!?



数日後、容態も落ち着いたため無事退院し二人で家へと帰る。グルーシャが最後に見たこの部屋は空っぽだったが今ではチリの荷物も片付け終わり、すっかり元通りに戻っている。まるであの日だけが始めから無かったかのように感じるが、繋いだ掌から伝わる絆の深さは何倍にも強くなりこの場所へと再び帰って来れた。

今日はチリさんがぼくの好きな紅茶を淹れて病み上がりの身体を労ってくれている。何気なしにテレビを点けるとよりによって例の番組が今度は

『~♪年上妻のメリットランキングーー!!』

と相も変わらず軽快なBGMと共に始まったではないか。反射的にテレビをオフにすると、すかさずチリさんがリモコンを奪い返し画面を点ける。

「ちょっとチリさん!」
「メリットならええやんか。今度はグルーシャもここにるし、な?」

もう二度とあのようなすれ違いはごめんだと思っているぼくに対し、深く傷ついたであろう当の本人は「気になるなぁ~」と呑気なことを言っている。確かに今日はここから一歩も動くつもりは毛頭ないし、チリさんを悲しませるようなことがないよう細心の注意を払うが。どうしても眉をひそめてしまう。

「こらこら、男前が台無しやで。うちならもう大丈夫やからそないな恐い顔せんとどっしり構えとき」

眉間をぐいぐいと伸ばすように広げられる。彼女が大丈夫でも自分がどうにも落ち着かないのだ。ならばせめて。

「ちょっと、グルーシャ!?」

急にふわりと浮いた身体に驚きの悲鳴が上がる。細い身体は簡単に持ち上がり、ぼくの膝の間へとすっぽり収まった。後ろからチリさんの薄い腹へと腕を回し、手入れの行き届いたマラカイトグリーンの横へ顔を置く。これで万一何かあっても絶対に逃げることは出来ないはずだ。

「あんた……ここまでせんでも、もう逃げん言うとるやろ」
「チリさんは隠し事が上手いことを身をもって知ったんで。保険だよ」

「過保護なんやから」とまだ不満げではあるものの、うっすら赤らむ頬が目の前に見え、そこへ触れるだけのキスを贈る。

「~~~!お触り禁止!」

お叱りを受けてしまったので大人しく見ていよう。




『第5位!しっかり者で強さがある』

──納得。チリさんは仕事も出来るし、自分の信念をしっかりと筋を通して取り組める人だ。ポケモントレーナーとしても人としても尊敬している。

『第4位!聞き上手で相談事にも乗ってくれる』

──うん。聞くのも話すのも上手だし、巧みな話術でこちらの悩みをいつの間にか引き出されている。リーグの職員からもお悩み相談を受けているようだし頼りがいのある人だ。

『第3位!自分にだけ甘えてくるところが可愛い』

──合格。なんだ、わかってるじゃん。《皆のチリさん》が《ぼくだけのチリさん》になるところが可愛いんだよ。寝起きやほろ酔いの時なんかは無防備過ぎて心配になるくらい可愛い。いや、いつでも可愛いけど。

『第2位!大人の色気がある』

──大正解。こっちは毎日チリさんの色香に当てられて、その度に抱き潰したいと思っている。今夜は久しぶりに熱い夜を過ごせる筈だが。ふとチリさんを覗き込んでみると真っ赤な顔で見つめ返されているではないか。

「あんた……さっきからどこ触ってんの……」
「どこも触ってな…………」

自分の手を辿ると、無意識にチリさんの弱い脇腹や下腹部を撫でているではないか。よっぽど欲求不満だったのか。我ながら手癖が悪いと認めざるを得ない失態だ。

「ごめん!久しぶりのチリさんだったから、つい調子に乗った」

パッと手を離し距離を取る。嫌な思いをさせないために抱き締めていたのに、自分がその思いをさせてしまっては何の意味もない。

「なぁ、グルーシャ……」

甘い響きで自分の名を呼ばれ、首へするりと細い腕が回る。目の前には瞳を潤ませ男を誘惑する色気を撒き散らす彼女が。

「今から……せえへん?グルーシャが欲しなってもうた」
「……いいの?まだテレビ途中だよ?」
「……ん。チリちゃんかてグルーシャがらんで淋しかってん。それにあないな風に触られたら我慢できんよ。いや?」
「嫌なわけないでしょ。そういうお誘いならいつでも大歓迎」
「ふふっ、やらしぃなぁ」
「チリさんにだけだよ」

啄むような口づけをすると、これだと物足りないのか唇を少し開き僕を誘う。すかさず舌を差し込み口内を蹂躙する。二人の舌がどちらのものとも分からなく絡み合い、ぴちゃぴちゃと厭らしい水音を奏でる。

たっぷりとチリさんを味わいゆっくりと離れると、名残惜しむかのように二人の間には細い銀糸が掛かる。

「……ベッド行くよ」
「ここでもええよ?」
「だめ。ここじゃちゃんとチリさんを愛せない」
「……優しゅうしてな……?」
「…………………………善処する」
「なんや今の間ぁは。ほんましゃあないやっちゃね」

がしがしとポケモンを愛でるかのように頭を撫でられる。そんな彼女を横抱きにして自分の部屋へと足早に向かう。

『第1位は~♪包容力があって甘えさせてくれるところー!』

テレビから最後の発表が聞こえてきた。チリさんにどろっどろに甘やかされているこの現状を思うとあながち間違ったランキングではなかったのかもしれない。

散々振り回された番組を後ろ手に消し、ここからは二人きりの時間を堪能しよう。自室のドアノブに手を掛けると、ぼくら以外誰も居ないのに耳元でぽそぽそとおねだりする彼女。

「……あんなぁ、今日は呼び捨てでシてほしいねん」

「だめ?」と小首を傾げるように聞いてくるのだからぼくが断るわけが無いって絶対分かってて言ってる。

「覚悟してろよ……チリ」

ドアの向こうでは二人だけの秘めやかな時間が幕を開けた──。

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