年下彼氏×年上彼女の恋ってナシですか!?



「すまんなぁ、ドオー、ドンファン。荷物重いやろ?」

どっしどっしと大地を踏みしめて歩く二匹の背には私物が括りつけられている。

まるで「大丈夫だよ」と言っているかのように優しい鳴き声が二回、夕暮れの空に響いた。「ありがとうなぁ」と二匹を労り、喉元を撫でるとすり寄ってくる可愛いポケモン達。

「さぁて、これからどないしよか」

ホテルかリーグん中で寝泊まりするか。
この子達のことを考えるとホテルよりかは広いリーグの方がいいか。しかしリーグだとすぐに見つかってしまい家を出た意味がなくなってしまう。

元々そんなに物を持っていなかった筈だが、そこそこの私物があの家から出てきた。我ながら女々しいがお揃いのマグカップやスリッパなどを捨てることはまだ出来ず、全て持ってきてしまった。流石に家具は無理だったので置いてきたが、あの家にチリが住んでいた痕跡は一切残っていない。

グルーシャを同窓会へ送り出してから急いで荷造りを始め、つい先程ポストへ合鍵を投函してから家を後にした。行く当てもなく彷徨う……つもりだったが未練があるのだろうか。足はある場所へと勝手に向かっている。パルデア十景の一つ。100万ボルトの夜景が見える小高い丘。ここは二人にとって思い出の場所だ。

グルーシャから告白をされ、初めて口づけを交わしたのがここだった。最後にこの景色を目に焼き付けて彼への想いを断ち切ろう。あの日と同じベンチへ腰掛けドオーとドンファンも伏せをして足を休める。

(これでよかったんや)

今頃同窓会で同年代の仲間達と楽しくやっているだろう。まもなく賞味期限切れになる女に捕まっているより、魅惑的に輝いている若い子といる方がグルーシャのためだ。

辺りはすっかりと暗くなり、夜景が灯り始め100万ボルトの様相になってきた。綺麗に輝いている夜景が段々とぼやけ滲んでいる。

──なんでちゃんと見えんの。
あの日の夜景、ほんまに綺麗やったのに。
こんな大雨ん中るような景色やなかった。
もう一回見たいと思うのも許されんの?

拭っても拭っても涙が溢れ出る。せっかく引いたのにまた目が腫れてしまう。心配してくれたあの声はもう聞けないけれど──。




「チリさん!!」

聞き間違えるはずのない愛しい声にハッとし身体が固まる。遠くからどんどんと大きくなるグルーシャの姿。

──ダメだ。このままここにいては何のためにあの家を……二人だけの居場所を捨ててまで飛び出してきたのだ。頭では解っているのに、どうしてか足が動かない。

「……やっと……やっと、見つけた…………」

苦しそうに肩で息をし、逃すまいと腕を強く掴まれる。髪は乱れ、元々白い肌は更に血の気がない白さになっている。

「グルーシャ……あんたなんで……」
「……身体、大丈夫なの……?よかった……無事で…………」
「グルーシャ……?ちょっ、グルーシャ!!」

掴まれた腕はそのままに気を失い倒れ込むグルーシャを受け止めると余りの冷たさに驚く。コートこそは身につけているものの、トレードマークのマフラーと手袋をしていないではないか。

「バクーダ!」

気を失ったグルーシャをベンチへと横たえ、暖を取るためバクーダを呼び出す。冬の厳しさを誰よりも知っているグルーシャがこのようなミスをするとは思えない。こんな真冬に軽装とも言える服装で何時間も当てもなく人を探すなんて自殺行為だ。

「なんでこないな真似してんの……決心揺らがらせんといて……」

氷のように冷えきった大きな掌を包み込んだまま吐露した言葉は、返事もなくかき消えていった。


◇◇◇


目を開けると無機質な天井が広がる。思い浮かぶのはぼくに背を向け去っていく恋人の姿。

「チリさん!!」

がばっと起き上がると腕に走る痛みと自由の利かなさにベッドへと倒れ込む。ぼくの右手を握ったまま、ベッドに伏せるように眠っているチリさんを見つけ胸を撫で下ろす。

(いた…………良かった)

冷静になって周りを見渡すとどうやら病院のようだ。左腕には繋がれた点滴。必要最低限の物しか置かれていない殺風景な部屋。病院独特のアルコール臭。朝焼けの光だけが細く室内を照らしチリさんを浮かび上がらせる。まるでそこだけが温かい温度をもっているようだ。ベッドの下でチルタリスが心配そうにこちらを伺っている。

「あら!目が覚めましたか?良かったですね」

看護師と思しき女性がハピナスと共に入室してきた。

「……さっき目が覚めて……すみません。ご迷惑をお掛けしているようで」
「とんでもない。そのまま横になって気にせずお休みくださいね。ご気分いかがですか?」
「少しぼーっとしますが大丈夫です。それであの、自分はどうやってここへ?」
「ここはハッコウシティの病院です。100万ボルトの丘からチルタリスが運んでくれたんですよ。低体温症でここへ着いたときは軽症でしたが、丘では中等症程度にはなっていたと思われます。そちらの方が迅速にバクーダで温めてから運んでくださったので大事には至らずすみましたよ」

(チリさん……)

いまだ眠っているチリさんの目元を空いている左手で拭う。まだ腫れぼったく重そうだ。

丘の頂上へ向かう坂の途中で下からチリさんを見つけた時は心の底から安堵した。それと同時に嬉しかった。まだ彼女のなかに自分の存在が有るんだと。でないとわざわざこんな遠方まで来る理由がないはずだ。スリーヴァの言っていた通り、チリさんは無意識にぼくに助けを求めていたんだ。

「素敵で頼もしい奥様ですね」
「!い、いえ、この人は奥さんじゃなくて……!」

とんだ勘違いをされているようですぐさま訂正を申し出る。ぼくはともかくチリさんに迷惑が掛かるのはいただけない。

「まぁ!これは申し訳ありません。そちらの方がとても必死にあなたの看病をされてらして、大切に想っているのが伝わってきたものですから。駆け込んで来た時はそれはもう心配そうにしてらっしゃいましたよ」

心配、してくれたんだ。

「そうですか。今はまだ奥さんじゃないけれどいずれ……そうなってくれたらとは思ってます」

自分に誓うように告げると、慈愛に満ちた笑顔で看護師とハピナスは病室を後にした。


◇◇◇


(気持ちええなぁ……)

優しく頭を撫でてくれるこの掌を自分はよく知っている。

「おはようチリさん」
「おは、よう……」

寝起きが弱いチリは意識がはっきりとしないまま反射的におうむ返しをする。

「って言ってももうお昼だからこんにちは、の時間だけど」
「…………!?」

伏せていたベッドから顔を上げるとそれは優しい眼差しでこちらを見つめるグルーシャと目が合った。距離を取ろうとするが、がっちりと掌が絡まり離れられない。

「……グルーシャ……ごめ…ごめんなさい……うちのせいでこんな……手ぇ離して……!」
「離さない。こうなったのはチリさんのせいじゃないし、離したらどっか行くでしょ」
「…………ほっといてや……!」
「ほっとかない。もう一人になんてさせない」

気付けばグルーシャの腕の中へと引き寄せられていた。もう二度と帰ることはないと思っていた自分だけの居場所だったここへ。

「ねぇチリさん。ちゃんと話がしたい。チリさんが何を考えてて何を悩んでて何をして欲しいのか。きちんとチリさんに向き合いたいから」
「い、今更話すことなんかあらへん」
「ぼくはある。伝えたいことも聞きたいことも。そのままでいいから聞いて」

回された腕に力が入り、厚い胸へとより引き寄せられる。

「ぼくはチリさんが好きだ。年上とか立場とかそんなの関係なく、ただの一人の女性としてチリさんを好きになった。それは今までも、これからも、変わることはないよ」
「……………………」
「チリさんがぼくを見限って他の男の所に行くって言うなら止めはしない。また振り向いて貰えるようにアタックするだけだから。諦め悪いんだ、ごめんね」
「…………な、んで……」

自分に都合のいいことばかりが聞こえてきてとても信じられないが、包み込まれている温かさと聞こえてくる心音が真実だと告げてくる。

「あんたには……うちなんかよりもっと相応しい子がおるで……」
「それって誰が決めるの。相応しいとか相応しくないとか。当人達が一緒に居たいって思えればそれで充分じゃない?」

回っていた腕がほどかれると、頬を優しく包み込まれる。

「チリさんのことが誰よりも好きだよ。チリさんは?」

真摯な告白に心が震える。ここまでやっておいてうちの気持ちなんか分かりきってる癖に言わせようとしてるんだから、いい性格しとるわ。

「…………わかっとる癖に」
「チリさんの言葉で聞きたいんだよ。それに間違ってるかもしれないし」

くしゃっと困ったようにはにかまれ、その顔にこちらが降参するしかない。

「…………好きや……。あんたのことがめっちゃ好きやねん。どないしてくれんの……」
「やっと聞けた……」

額を合わせ一際大きな安堵のため息を吐き出すグルーシャ。

「チリさんが居なくて心臓止まるかと思った。多分ほんとに一回止まったよ」
「大袈裟やな。でも勝手に出てってあんたを危ない目に遭わせたのは心から悪いと思っとる。怒っとるやろ」
「チリさんに怒るって言うより自分の不甲斐なさには腹が立ってる。チリさんの悩みに何も気付いてあげられなかったんだから。でも何も言わずに居なくなるのだけは止めて欲しいかな。それだけはもう勘弁」

もう懲り懲りと瞼を閉じ、誰も居ない部屋を思い出し眉根を寄せるグルーシャ。辛い思いをさせてしまった罪悪感で胸が押し潰されそうだ。少しでも辛さを消してあげようと柔らかい髪を撫でる。

「ほんま堪忍な。初めは思い出作りで飽きられてもしゃあないって思ってた。でも一緒に住んでてどんどんグルーシャのこと好きになってもうた。これ以上好きになったらもう元のチリちゃんに戻られへん。終わりにするなら早い方が傷が小さくてすむって思うとったんや」

撫でていた手を取られ、グルーシャの胸へと当てられる。

「こっちはとっくにあんたの居なかった頃の自分になんて戻れないよ。ここをどろっどろに溶かされて甘やかされて。あんたにお似合いな包容力も経済力もあって大人な男がいつか現れるんじゃないかって気が気じゃなかった。ぼくも一緒だよ。チリさんがぼくを見限って離れてしまうんじゃないかってずっと思ってた」
「おんなしこと思ってたんやな。もっとちゃんと話しといたらよかった」
「これから幾らでも話せるよ。ずっと一緒に居るんだから」
「せやね」

こてんとグルーシャの胸へと身体を預ける。支えてくれる腕には痛々しく点滴が刺さったまま。つぅ、と白い肌を人差し指でなぞる。

「痛いやろ?ごめんな、支えてくれんでも大丈夫やで」

体勢的に見上げるようにグルーシャを見ると、なぜか顔を赤らめている彼と鉢合わせる。

「ちょっ、今そんな風に触らないで……!」
「そんな風って?…………!あんた、何考えてんの!?」

グルーシャの異変に心当たりが。夜の営みで偶にチリが主導権を握るときの始まりは、グルーシャの引き締まった身体を一つ一つ愛撫することから始める。パブロフの犬よろしく反応してしまったのだろう。これはまずいと、そそくさと離れようとするとぐんと引っ張られベッドへと沈み込むと、視界にはスカイブルーが一面に広がる。

「グ、グルーシャ?どないしたん。あ!具合悪いんやろ。待っとき、今ナースコールで呼んだるさかい」

枕元にある筈のボタンを手探りしていると、点滴をしていない右手一本で自分の両の手首を捕らえられ、馬乗りにされ身動きが取れない。

「……チリさんさぁ、そうやって無意識に煽るの止めた方がいいよ。どうなっても知らないから」
「煽っ……!?んなわけあるかい!ここどこやと思ってんの!病院やで、病院!」
「そんなの分かってる。次に来るのは14時って言ってたから心配要らないよ」
「そういう問題やなくて!」
「もう黙って……」

澄んだ蒼の奥に熱情が見え隠れする。この瞳で捉えられたら逃れられないのをチリは身をもって知っている。近付く顔に抗うことが出来ず、目を閉じ受け入れる覚悟をする。唇が触れるか触れないかまさにその時。


「グルーシャ!倒れたって聞いて大丈夫……か……」
「!?♪︎●△☆■!?$♭︎!?」
「………………チッ」
「あー……うん。元気そうだな。……どうぞごゆっくりー」

勢いよく開いたドアが一瞬でピシャリと閉められる。

「ちょお、待たんかーい!」

チリの渾身の叫びが廊下まで響き渡った。


◇◇◇


突然の来訪客にすっかりと臍を曲げて不機嫌になるグルーシャと、乱れた服と髪を整えるチリ。ベッドを挟んで来客と相対する。

(うちが年上なんやからしっかりせんとあかんのに、流されそうになってもうた……。あかん、ちゃんとしぃ!チリ!)

「急にすみません。お取り込み中なのかと」
「そうだよ。せっかくいいところだったのに」
「んなわけあるかい!」

まるでトリオ漫才かのように突っ込みが冴え渡る。こないなとこでチリちゃんの本領発揮したくはなかった。 やいのやいのと男同士でじゃれ合っているが、グルーシャがここまで素を出している所を見ると付き合いの長さを伺い知れる。

「これ、忘れてったろ。届けに来たんだよ」

手にしていた紙袋からマフラーと手袋をグルーシャへと手渡す。「ありがと」と素っ気ない感謝を告げると、しっしっと掌で追い出すような仕草をするグルーシャ。

「ちょっと!せっかく届けてくれたのにそないな態度ないやろ。すんません、ええと……」

そういえば彼の名前をまだ聞いていなかった。あんなごたごたがあってとてもじゃないがゆっくりと自己紹介、なんて雰囲気にはなれるはずもなかった。

「ああ、すみません。遅くなりましたが自分はスリーヴァと申します。チリさんですよね?お噂はかねがね。いやぁ、写真で見るよりずっとお綺麗ですね」
「スリーヴァ!」

目の前で繰り広げられる漫才のコンビのようなやり取りに既視感が。

(なんや。どっかで見たな、この光景……)

中性的なグルーシャに対して、どちらかと言うとワイルド系の男前の彼。それに名前も聞き覚えがある。

スリーヴァ……スリーヴァ……
グルーシャと仲が良くて同じ年頃の……あ!

「ドゥヴァーローザのスリーヴァ!すももちゃんかいな!」
「その呼び名、久しぶりに言われました。光栄です。チリさんにご存じいただけていたなんて」
「…………サムッ……」
「そらパルデアであんたのこと知らんかったらモグリやで」

──思い出した。グルーシャと同じ地方の出身で、プロスキーヤーのスリーヴァ選手。梨を意味するグルーシャに対して同じバラ科のすももを冠するスリーヴァ。実力とルックスを兼ね備えた二人の一流選手を合わせて、誰がつけたか2本の薔薇を意味する《ドゥヴァー・ローザ》と呼ばれていた。

そういえばグルーシャの昔のアルバムにもよく二人で写っていたではないか。どうしてすぐに気が付かなかったのか。グルーシャはその名で呼ばれることを嫌っていたようだが、彼はにこにこと受け入れているようだ。

「こちらもチリさんのことはこいつからよく聞いてます。何度も会わせろって言ってるのに頑なに会わせようとしないんで、今日はお会いできて嬉しいです」

ベッドを挟んで握手を求められ、自分も返そうと手を差し出すと真ん中にいるグルーシャがスリーヴァ君と握手をする。

「はい。これで握手おしまい。チリさんに馴れ馴れしくしないで」
「ほんっとチリさんのことになると心狭いな、お前」
「うるさい」
「あのぉ……なんで会わしとうなかったんやろか?」

(やっぱり年上の彼女を友達に紹介するのは恥ずかしかったんやろか)

「あぁ、誤解しないでください。こいつチリさんが綺麗だから見せたくなかったんですよ。独占欲強すぎですよね。愛が重すぎて困ってません?」
「スリーヴァ!!!」

第三者から恋人の自分への想いを聞かされ柄にもなく照れて俯いてしまう。ちらりと横目でグルーシャを見るとばつが悪そうに顔を背けられてしまった。

「じゃあそろそろお暇しますね。これ以上ここに居ると本気でグルーシャに怒られそうなんで」
「え、もう帰ってしまいます?もうちょっとおったらええのに」

席を立つスリーヴァ君を引き止める。せっかく会えたのだ。もっと話を聞かせてほしい。

「ありがとうございます。……チリさん。こんなこと自分が言うのもおかしいですが、グルーシャのこと宜しく頼みます。あの大怪我があって、今またこうしてグルーシャが笑っていられるのはチリさんのお陰なんです。貴女がいないと、こいつどこで野垂れ死んでもおかしくないですから」
「スリーヴァ君……」
「それじゃ」
「スリーヴァ。…………感謝してるよ、お前にも」
「グルーシャ……。お似合いだよ、二人とも。自信持ってください。結婚式には呼んでくださいね。友人代表でスピーチしますんで」
「「まだ結婚なんて……!……あ」」

二人で顔を見合わせる。

「ほぉら息ぴったり。夫婦漫才も楽しみにしてます」

ひらひらと手を振りながら病室を後にすると、嵐が去っていったかのように急に静けさに包まれる室内。

「ええ子やね」
「ちょっとお節介が過ぎるけど」

急に二人きりになり、何故だか無性に緊張する。スリーヴァ君が結婚とか言うから変に意識をしてしまったじゃないか。

ふと右手を取られ大きな掌が上から重なる。

「あの、さ。チリさんにまだその気がないのは分かってるけど言わせてほしい。ぼくが結婚したいと思う相手はチリさんだけだから。それだけは覚えておいて」
「うちかて同じや。これから先もずーっと一緒にるんはグルーシャがええ。いつか家族になりたいなぁって思うとった」

グルーシャの掌の上に自分の左手をそっと重ねる。

「チリちゃんが美人さんでおるうちに結婚式はしたいなぁ」
「じゃあ当分猶予はあるね」
「あほ。いつまで待たす気やねん。あっちゅー間におばはんになってまうで」
「おばさんになってもおばあさんになってもチリさんは綺麗で可愛いよ。ぼくにとってたった一人の女の子だから」

とんでもない殺し文句を恥ずかしげもなく投げつけてくる。どうにもグルーシャの思う壺のようで悔しい。こっちかてやられっぱなしは性に合わん。これでどうだ。

「あんな実はもう一つ隠しとったことがあんねんけど……」
「なに。ちゃんと聞くよ」

重なった掌を外しグルーシャの耳元で囁く。

「いつかグルーシャとの赤ちゃん欲しいなぁ」

少しは照れたり動揺する姿が見れたらそれで満足だったのだが。予想に反し睨み付けられるように鋭い視線が身体に突き刺さる。

「言質はとったよ。今まで手加減してたけど本気で抱くから。チリさんが止めてって言っても止めないからね」

(……やってもうた)

火に油どころではなくガソリンをかけてしまったかのような彼の様子に身体が警鐘を鳴らす。 って言うか今までので手加減してたんかい。果たして自分にグルーシャの本気を受け止めきれるだろうか。今からゾッとしてしまう。

「お言葉に甘えて早速……」
「せやからここ病院!家でに決まってるやろ!」

本日二度目のチリの叫びが上がった。

4/5ページ
スキ