貴方から贈られる物は全部宝物



室内に入り込む朝陽と聞き覚えのあるポケモンの鳴き声。夢うつつの世界からゆっくりと意識が鮮明になってくる。

(またあのムックル達来とんのか……。ほんま仲良しでええなぁ……。あの子らがいるいうことはもう起きなあかんか)

温もりを与えてくれる腕の中はひどく安心し、自然と口が大きく開いてしまう。

「んんっ……ふぁあ……」
「おはよ」

気だるげな疲労感とは反対に心は昨夜からの充足感に満たされながら身体を伸ばすと、既に起きていたグルーシャと目が合う。無意識だった気の抜けた顔を見られていたかと思うと気恥ずかしい。「おはようさん」と素っ気ない挨拶を返して、再び彼の腕の中へと潜り込む。すると相も変わらず身体に散りばめられたグルーシャからの愛の証が目に入る。

「グルーシャってキスマークつけんのうまいのな」
「そう?……ってか誰と比べてんの」
「そういう意味やないって。すぐ悪い風に受け取るんやから。いやな、気付かんうちにたくさんつけるしなんかあんのかな思て」
「……だってキスマークは消えるから」

うちの小ぶりな胸に咲いた、グルーシャ自らがつけた紅華をなぞられる。呟いた彼の真意に気付くことなく、この時のうちは(消えてまうからたくさんつけとんのか。ほんま独占欲強いんやから)と、こそばゆさに耐えながら呑気に思っていた。



◇◇◇



それから数日後。リーグの廊下を歩いていると後ろから幼い元気な声が掛けられる。

「チリちゃん!おはようございます!」
「おはようございます、ポピーちゃん」

小さな同僚に屈んで朝の挨拶をしてやると、何かに期待している顔で微笑まれる。まるで「なんでそんなにご機嫌なん?」と聞いてほしいかのように。ひとつ笑みを溢してお望み通りの言葉を告げてみる。

「えらいご機嫌さんやなぁ。なんかエエことでもあったん?」
「わぁ!チリちゃん凄いです!なんで分かったのですか?じめんタイプだけじゃなくてエスパータイプも得意だったんですね!実は……!」

鍵型のポーチからじゃーん!という効果音でも鳴り響くかのように取り出されたのは四つ葉のクローバーが押された栞。それは一週間前に二人でピクニックへ出掛けた際に見つけたクローバーだった。

「やったやん!うまいこと押し花出来たなぁ」
「チリちゃんのお陰です!初めてでしたけど上手に出来ました。ありがとうなのです!」
「うちはやり方教えただけやんか。ポピーちゃんが毎日優しくお世話したからやろ。良かったなぁ」

本とクローバーの間に挟んだティッシュを慎重に交換し、挟んだ本を丁寧に運ぶ姿が想像出来て微笑ましくなる。自分の秘密の特技がポピーのお役に立ったようで何よりだ。ぴょこぴょこ跳ねて喜ぶ小さな頭を、わしゃわしゃと撫でてやると「えへへ!」と満面の笑みを向けられる。

(手元に残る思い出ってええよな)

ポピーの手元にある栞へ、自分が押し花をする時の願いを送ってしまう。どうか思い出も綺麗なまま残りますように、と。


◇◇


仕事を終え家に戻るとまだ灯りが点いていない。どうやら今日は自分の方が早く帰宅出来たようだ。先に家に着いた方が食事の準備をし、食器洗いは後に帰った方が行う同棲当初からの我が家のルール。お互い挑戦者の数やリーグからの仕事で帰宅時間は日々まちまちなため、自然と先のルールが二人の間で結ばれた。

冷蔵庫の残り物を使って手早く作った夕食も、最後のひと手間で完成といったところで玄関の扉が開く音が聞こえる。急いでそちらへ向かうとミニブーケを手にしたグルーシャが靴を脱ぐところだった。

「お帰り!今日もお疲れさん。先、ご飯にする?お風呂も入れるで」
「ただいま。じゃあ、お風呂にしようかな。でも……」

すっと近づかれると耳元で囁かれる甘く熱っぽい言葉に身体が固まる。流れるように手に握らされるのはグルーシャが持っていたミニブーケ。

「それ、プレゼント。そろそろリビングの萎れてきてたから。小さいけどどうぞ」

耳元から離れていったグルーシャの楽しげな背中を、硬直したまま見送ることしかできなかった。脳内に再生されるのは先ほどの言葉。

──そこは『チリちゃんにする?』って聞かないと。後でおいしくいただくから。

「サムいわ。あーほ……」

ぎゅっとブーケを胸に当ててみたが、むず痒い嬉しさの中に素直に喜びきれない自分も心の片隅にいた。

(また花だけ、か……)




翌朝。昨夜はグルーシャの宣言通り身体の隅々までおいしくいただかれ、再び紅華が散っている。まだ夢うつつを漂っていると、鎖骨についたキスマークをなぞられるこそばゆさに頭が覚醒していく。耳に届いた苦しそうに呟かれる声は、聞き間違うはずのない愛しい人のものだ。

「消えて欲しいのに、消えるなって思うのは矛盾か……」
(なんのこと言ってんの?それに、なに……その悲しい声)
「グルーシャ……」

掠れた声で名前を呼ぶと目を見開いて距離を取ろうとする恋人の姿があった。

「っ!チリさん……!ごめん、起こしちゃったね。まだ身体辛いと思うからもう少し寝てなよ」
「待ち。どこ行くん?まだ一緒におってや」
「朝ごはん作りに行くだけだから。大丈夫。すぐ戻るよ」

誤魔化すようにうちの額に一つキスを落とすと、床に散らばった服を羽織って寝室を出ていくグルーシャ。温もりを失った気だるい身体を起こし、身体を見てみると鎖骨だけでなく胸・肩・二の腕・太ももに点在するキスマーク。きっと見えない背中にも幾つかついているのだろう。

「また今日はえらい付けとんな。何をそんなに不安がっとんのやろ」

シーツを身体に巻きつけて床へと下りると、まだ冷たい朝のひんやりとした空気が素足を震わす。肌寒さを気にも留めず文机の引き出しから不安になった時のお守りを取り出してみる。それはグルーシャからの贈り物。《贈り物》とは言っても、今まで貰った花束から一輪だけ押し花にして貼り貯めた小さなノートブックと、それに結ってあったリボンだけだが。

グルーシャは何故だか形に残るものを贈ってはくれない。その事に気づいたのはもう随分と前だ。それとなくお揃いのものを提案したり、彼の前で欲しいものを言ってみたりもしたが毎回やんわりと拒絶されている。我ながら女々しいことだが、贈ってくれた花をこうして押し花にすることで、その時の彼の表情や二人の時間を思い出している。ぱらりと捲ってみるとカスミソウとピンクのガーベラが押されたページが開いた。

「これ……誕生日にくれたんよなぁ。たっかいチョコレートとおっきい花束って、どこのプレイボーイやねん」

リボンを仕舞ってある、その時のチョコレートの缶カンにそっと触れる。

「これは喧嘩した時に謝りながらくれたやつで、こっちは四天王就任三年目のお祝いにくれたんやったな」

押された花とリボンを見ればグルーシャの表情と言葉が蘇ってくる。すごく嬉しかった。ぶっきらぼうに、時には甘い言葉と共に贈られた花束が。とても幸せなのに、でも……足りない。これだけじゃもう満たされないくらいにグルーシャのことが好きなのだ。今までの彼から贈られた想いをそっと胸に抱くと、ドアのノック音が寝室に響き渡る。

「チリさん、朝ごはん出来たよ。……何、それ」
「グルーシャ!?これはその……!」

足早にこちらへ寄ってきて引き出しに隠そうとする手を止められた弾みで床へと落ちるノートブック。それを先に拾われ屈んだままページをぱらぱらと捲っている。

「これ押し花?もしかして僕があげてたブーケの花なの?なんでわざわざ残るようにして……」

驚いた苦しげな表情で見上げられると、こちらの堪忍袋もぷつんと切れてしまった。なんであんたがそんな辛そうな顔しとんねん。グルーシャを見下ろしながら、胸元のシーツを握ると今まで溜め込んでいた思いが勝手に吐き出てしまう。

「なんで残るようにしとるかって?そんなんグルーシャが一番分かっとるんやないの?いっつもくれんのはお花か食べ物ばっかりで消えてまうものばっか。付き合うてそれなりに経つのに一度も手元に残るものくれんやないか。なにも高いもんほしいなんて思っとらん。マグカップとかスリッパとかなんでもええねん。ただ好きな人と一緒のもん持ちたい思うんはそないおかしいこと?女々しいのは分かっとるけど、うちかて形に残るもん見ながらあんたのこと想いたいわ!」

一気に思いの丈をぶつけると、見開いていた蒼の瞳は伏せられノートブックの最初のページを開いている。そこにはまだ押し花に不馴れで、花弁の先端が少し欠けてしまった桃色の薔薇が押されている。

「ごめん。チリさんがそんな風に考えてたなんて全然気づかなかった。ぼくと一緒のものをそこまで欲しいと思ってくれてたなんて」
「欲しいに決まっとるやん。いくら女らしくない言うてもうちかて一人の女やもん。好きな人とお揃いのもんの一つや二つ欲しいわ」

欠けている桃色の花弁を愛おしそうに撫でると、甘く細めた瞳でこちらへ視線を戻される。

「チリさんはぼくにとってたった一人の女性だよ」
「……そう思ってくれとるんなら、なんで一緒に買お言うても遠回しに拒絶すんの。手元に残るもんはなんもないの。それってこのキスマークとなんか関係しとる?」

シーツをずらし、屈んで胸元と鎖骨についた紅華を見せるとビクッと身体を強張らせてしまったグルーシャ。バツの悪そうに顔を背けられてしまうが、ここで追及の手はもう緩めない。

「……気づいて、たんだ。なんでもお見通しか、チリさんには」
「ずっと気になってたん。いくら独占欲強い言うてもこれは流石に付けすぎや。絶対なんかあるって。おまけにさっきの言葉。あれどういう意味やねん」

逃さないよう凄んでグルーシャへと一歩近づくと、その分一歩下がる彼に苛立ちを覚える。握るシーツには大きく皺が寄る。随分と待たされて聞こえた言葉は予想外のものだった。

「…………チリさんを困らせたくないから」
「なんやて?」
「そのままの意味だよ。別れた時にチリさんの負担になりたくない。マグカップだスリッパだなんてあったところで嵩張って邪魔になるし、捨てるのも手間になるだけだろ。アクセサリーなんてもっての他。別れた男から貰った物なんて気持ち悪くてならないだろうし、せいぜい質屋にもっていくぐらいしか……」
「なぁ。本気で言っとんの?ほんまに別れた時の処分が面倒で困らせるから残るもんはあげんって?」

グルーシャの言葉を止めるように口を挟んでしまった。あかん、怒るな。悲しむな。これがグルーシャなりの愛情表現やのは分かるやろ。まだこの人が負った心の大きな傷が癒えていないのはチリ、うちが一番分かってるんやからグルーシャを責めたらあかん。そないなことしたら彼から離れていった周りの人間とおんなじや。でも……

「……グルーシャはどのチリちゃんが好きなん?」
「なに、言って……」

見上げる開いた蒼の瞳と見下ろす歪んだ紅の瞳がぶつかる。

「グルーシャがうちのこと好いてくれてんのは分かっとる。いっつも自分のことそっちのけでうち優先で色んなこと考えてくれとるし、嬉しい言葉も言ってくれる。でもそれってどのチリちゃんに向けた好意なん?ずっとグルーシャの心の中におんのは、目の前のうちやのうて別れを告げるかもしれない未来のチリなんとちゃう!?」

勢いよくグルーシャが立ち上がった拍子に彼の手からノートブックが落ちる。床へと落ちた衝撃で開き癖のついた向日葵のページが開き、視線をそちらへ向けると肩を力一杯掴まれる。口を開こうとするグルーシャを遮って問い詰めてしまう。

「グルーシャは今のチリちゃんのことちゃんと好き?不確定な未来のうちより、あんたのことが好きで好きでたまらん、目の前のうちの気持ち考えたことある!?」
「……っ!ちがっ……!違うよ、チリさん!」
「どこがちゃうの?グルーシャが言うてんのはそういうことやろ。うちの言葉を信じんで未来のいるかも分からん別れを告げるチリばっかり追いかけてるやん。そんなん……今のうちが勝てるわけない……」

グルーシャの図星を突かれた表情から、未来の自分に負けていることが伝わってきてしまった。なんでお互い想っているのにうまく愛し合えないんだろう。グルーシャは確かに自分のことを好きでいてくれている。でも彼の心を占めているのは、ずっと未来の自分なのだ。未来のチリを困らせたくなくて、プレゼントを避けているようにしか思えなくなってしまった。何度もグルーシャを振り向かせようと一方通行の愛情を押し付けていた罪悪感と虚無感。どうしたら今のチリを見てくれるんだろう。そんなことを思ったらいつの間にか視界がぼやけてきた。

「もう……しんどい……。グルーシャのこと好きなのに他でもないあんたに信じてもらえんの。ずっと待っとったけど望みないんなら、うちら別れた方がええ……」
「……やめろ」
「え」
「それ以上は言わないで」

今まで聞いたことのない低い声に驚くと、射抜くような冷たい視線で身体の自由が奪われる。固まったまま立ち尽くしていると、いつの間にかグルーシャの腕の中にいた。素肌にシーツを纏っただけの身体にグルーシャの温もりが直に伝わってくる。

「チリさんの口から別れるなんて聞きたくない。何度も言われる覚悟はしてきたけど……やっぱり無理だ。離せるわけないだろ!こんなに……愛しているのに……!」

ぎゅうっと力が込められる腕。痛いくらいに抱き締められるけれど、その痛みが今はどうしようもなく心地好い。

「チリさんの負担になりたくないなんて、そんなの建前でほんとは自分が辛くなるのを避けてただけなんだ。だって捨てられるわけないだろ……!チリさんと一緒に選んで、一緒に使ってきたものを。チリさんにも捨てて欲しくなかった。ぼくとの思い出を。これだって消えるなって願いながらつけるのに、薄れていくのを見るとどこか安心する自分もいるんだ」

首筋についたキスマークを拭うように触られる。その柔い刺激にふるりと身体が震えてしまう。逃すまいと抱きついてくるグルーシャの背に腕を回し、めいっぱい力を込めて二人の隙間を埋めていく。

「グルーシャが自分のこと好きになれんのも、他人のこと信用できんのも分かっとるつもりや。それだけ辛い思いしてきたんやから。でも……でもな?うちはそんなグルーシャを好きになったんやで?スノボの選手でも、人気者だったグルーシャともちゃう。自分の足で立ってポケモン達と一緒に闘ってきたあんたやから、うちは惹かれて好きになった。あんたが自分のこと好きになれんのやったらその分うちがグルーシャのこと好きになったる。他人のこと信用できんのやったらうちが代わりに信じたる。せやからもう……そんなに自分のこと痛めつけんといて……。もう十分苦しんで悲しんだやろ?グルーシャやって幸せになってもええねん」

抱き締める力が緩まると回された腕はそのままに顔を見合わせる。思えばこうして同じ目線になったのは今朝になって初めてではないか。蒼く澄んだ瞳は不安げに瞬いているが反らすことなく自分を映し出してくれている。

「なぁ、今のグルーシャはどうしたいん?ここにおるチリちゃんのことどう思っとる?」
「ぼく、は…………好きだ。今、目の前にいるチリさんのことを心の底から。ぼくの隣にずっといてほしいと思ってる」

先ほどとは違う、ポケモンバトルで見せるあの迷いのない瞳で偽りなく紡がれる言葉。そう。うちが好きになったのは他の誰でもない今の貴方なのだから。

「そっか、嬉しい。グルーシャにそう言ってもらえるのほんまに幸せやで。……ほんなら一つお願いがあんねんやけど」
「なに?何でも言って。欲しいもの?して欲しいこと?」

結っていないスカイブルーの髪を耳にかけてやりながら、ねだるように彼にだけ聞こえるよう呟く。

「グルーシャが欲しい。言葉だけやのうてあんたの全部でうちのこと好きやいう気持ち教えてくれへん?」
「いいよ。でも受け止められる?ぼくがどれだけチリさんのことを愛しているか」
「受け止められんくらい、グルーシャでいっぱいにしてや……」

口付けを与え合いながら、チリの身を包んでいたシーツが床へと落とされた──。




◇◇◇




数ヶ月後。いつもの寝室。いつものベッドの上。でもいつもと異なるのは二人揃って正座をし、先ほど貰ったばかりの写真を挟んで神妙な面持ちで対峙しているということ。この重苦しい空気を先に破ったのはチリの声だった。

「そりゃ、うちかてグルーシャとお揃いのもん欲しい言うたで」
「……うん」
「あんたから貰えるもんならなんでも嬉しい言うた」
「…………うん」
「にしても、いきなりこれはぶっ飛んでへん?順序ってもんがあるやろ。形に残るって、こういうことやなかったんやけど」
「カエスコトバモアリマセン」

壊れたロトムのように片言しか発せず、俯いたまま写真を凝視しているグルーシャ。

「まっ、ええわ。これでグルーシャはチリちゃんから離れられんもんなぁ。まさかこの期に及んでうだうだ言い張るつもりやろか……パーパ?」

二人の間にあった写真を手にとり、自分の顔の横へ持ってくる。ついさっき病院で貰ったばかりのエコー写真。そこにはうちらの愛の結晶が小さいながらも確かに写っている。うちとエコー写真を交互に見ながら未だ信じられないとでもいうような顔をしている、その珍しくも可愛らしいグルーシャに思い出し笑いが込み上げる。

「ぷぷっ!にしてもさっきのグルーシャおもろかったなぁ!チリちゃん、ビックリする間もなかったわ!」

心配だからと言って一緒に診察室まで付き添ってくれたのは良かったが、医師からの言葉にガタンと椅子から転がり落ちてしまったのには驚いた。それにはうちだけでなく傍に控えていた看護師も目を丸くしていた。

「妊娠が分かって驚かれる方はいますけど、椅子から落ちた方は初めてです!落ち着いてください、お父さん!」
「ぼくがおとうさん……?ほんとに?」

このワンシーンはきっと一生忘れることのないものだろう。無事に子供が生まれたら話して聞かせてやるんだ。あんたの父親はクールぶってるだけで、めっちゃおもろくて可愛い熱い男なんやと。

「うっ。からかわないでよ。しょうがないだろ、あんなに驚いたの人生で初めてだったんだから」
「そんなんチリちゃんかておんなじやわ。んで?何かうちに言いたいことあんねんやろ?」

姿勢を正すと、エコー写真を持ったままのうちの掌にグルーシャの大きな掌が重なる。

「カッコつかなくてサムいけど、ぼくの一生をかけてチリと産まれてくる子供を守らせてください」
「……うん。おおきに。でもな子供は二人で守ってくで?これからは家族皆で幸せになるんやから」
「そうだね。ぼくの、ううん。ぼくたちの宝物だから。絶対大事にする」
「ふふっ。今から親バカ発揮されたら産まれた後が心配や。おーい、ちびちゃんのパーパはずいぶんと甘々やでー。良かったなぁ。安心しておっきなってなー」

まだ膨らんでもいないお腹に声をかけると、そっと抱き寄せられグルーシャの香りに包まれる。

「オカンのこともたくさん甘やかすつもりだから」
「……ほんまに、ありがとう。最高の贈り物をうちにくれて」

窓の外のムックル達が一鳴きすると、仲睦まじく飛び立っていった──。


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