ワードパレットまとめ



袖と裾を捲り上げて個性のある身体を一匹ずつ洗い終えると、浴室の外で待機しているチリさんの持つバスタオルへと吸い込まれていく互いの手持ちポケモンたち。

「綺麗にしてもろて良かったなぁ!さっぱりしたやろ~」と、まるでまだ見ぬ我が子に声を掛けるかのように身体に残った水分を豪快に拭き取っている。タオルドライが終わると床に並べられている彼らのモンスターボールに戻っていく音が扉越しに聞こえる。

 さて、今洗っているこの子で今日の毛繕い──体毛はないが──は終了だ。チリさんの相棒でもあるドオーは毒の粘膜を持っているため最後に洗うようチリさんから言われている。万が一洗い場に毒が残り、他のポケモンにつかないようにするためだ。

まぁ、そんなことにはなりそうもなく彼女によく躾られたこの子が毒の触角を出すのは滅多にお目見えする機会の無い本気のバトルの時だけだが、念には念をということらしい。

 ドオーの腹を洗おうと床との間に手を差し込むと擽ったいのか身体を捩って逃げようとしてしまう。普段は大人しい性格だが220㌔超えの巨体だ。自分の意思で逃げられてしまってはこちらは手も足も出せない。

「ちょっとダメだってば!まだ洗い終わってないんだからそっち行っちゃ……!」

 完全には閉じていなかった浴室の扉を器用に頭で押し込むと、脱衣所にいる主人の元へとまっしぐらに突き進んでいく。いくら大切な相棒と言っても抱き留められる重さではない。

「チリさん!危ないっ……!」
「ドオー!回れー、右っ!」

 主人の言葉と腕の指示に反応すると、くるりと向きを変え楽しそうに元いたこちらへと戻ってくる。呆気にとられたまま、手持ちの見事な扱いに感心して突っ立っていると声が掛けられる。

「ドオーこしょばいの好きなんやけどじっとしてられんくて。その重さやろ?止めるより向き変えて進ませた方がお互いの為にもええねん。これからグルーシャもドオーと触れ合うこと多くなるやろうし、覚えといてや」

 「驚かせて堪忍な」と片眼を瞑りながら顔の前で掌を出して謝っている。彼女のポケモンに対する理解への尊敬と、これからずっと続いていくであろう二人で過ごす生活への期待がじんわりと胸に広がっていく。

「うん、覚えとくよ。ぼくのポケモンのことも少しずつ教えていくから」
「よろしゅう頼んます!なんや、お互いの連れ子紹介しあうみたいでおもろいな」

 連れ子って……。その表現に他意は無いのだろうが、僕の前に別の男を匂わす表現はなんとなく面白くない。

「ねぇ、こうやって一緒に住むのぼくが初めてって言ってたよね」
「なに今更。同棲なんて初めてやって、この家借りる時も話したやろ?」
「じゃあぼくのこと好き?」
「んんっ!?さっきからなんなん、変なことばっか聞きよってからに。わざわざ言わんでも分かっとるやろ」
「言って。チリさんの口から聞きたい」

 駄々をこねる子供のようにチリさんの元へ進もうとすると、ドオーが行く手を阻むかのように足元にすり寄ってマッサージの続きをせがんでくる。自分の手持ちならまだしも、彼女のポケモンにこうまで懐かれるとこっちだって愛着が湧いて無下に出来るわけもなく。チリさんからの答えを聞き出せないままドオーへと目線を合わせてマッサージを始めると、耳元で囁かれる愛しいアルトボイス。

「ちゃんとグルーシャのこと大好きやからドオーばっか構っとらんで、はよチリちゃんのことも可愛がってや」

 バッと後ろを振り向くが、もうそこには彼女の姿はなく靡いた緑髪が廊下の角に消えるところだった。

(ああ、もうっ!ふいうちなんて狡くないか?)

 彼女の使うふいうちは自分に対してのみ効果抜群の炎技のようだ。押し固められた氷が、トロリと溶け出し生ぬるい液体になるかのように僕の心を融解とかしていく。

 ドオーには悪いが今は君のご主人を愛させてくれ。 寝室へと逃げ込んだチリさんを捕まえると二人で熱く融け合っていく。



 その後、睦み合った二人が揃って見たものは、湯船にぷかぷかと浮かんだご機嫌なドオーと、泥と粘膜にまみれた浴室であったのは言うまでもない。

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