戯作
色失す紙の上でこそ輝くもの
茶色に変色した紙の上で尚も踊る美丈夫が如く、肩の埃を払う仕草、止めては跳ねる軽やかな足元の、何と美しいこと。
感嘆符のステッキ、ワ冠のハット、こざと偏のレース、しんにょうの絨毯は今宵のための特別仕様。
やって来られましたのは、小さな小さなお客様。
半透明の体をいっぱいに使って黒い線の群れの中を掻き分け進む足音のささやかさに、かつて同じ場所を真剣になすった、白くて柔らかな、あの危うい感触を思い出す。
淡い指先から夥しい量の文字を吸い取られ物語は熟し、開かれた身体を熱い視線で嘗め回される度、言い知れぬ快感が心を満たしたものだった。
あなたはきっと、閉じられた世界の中で僕と踊る、最後のお客様だろう。窓掛けは汚れ、城壁も朽ち果ててしまったけれど、色が失すほどに輝きが増すものを、一緒に愛していこう。
光が差した。
美しいしらうおが小さな客人を目敏く見付けると、躊躇無くそれを擦り潰す。
僕と目が合った金髪の少女は柔和に微笑んだ。
ただ一言、
「汚い」
とだけ、優しく呟いて。