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高校生のときに母を亡くして、それよりも前に亡くしていた父のよしみで引き取ってくれたおじさんは、親になろうとはしなかった。
法的に赤の他人のおじさんは、私が育ったアパートを出なくてもいいようにお金を工面してくれて、ひとつ屋根の下で暮らすこともない。
最初のうちはたまにスマホで近況を報告して、月に一度顔を合わせるだけだった。おじさんはそれだけでも煩わしくはないかと気を使っていたらしいが、おじさんのおかげで困窮することなく生きているし、忙しくなければ週一でも会いたいと言うと、おじさんは私の言っていることが信じられんなと言いたげに眉を歪めた。
それからは、きっと忙しいのだろうなというときも、時間を見つけて、週に一度、一緒にご飯を食べるようになった。
今週連絡をくれたのは、おじさんの部下の人だった。
「兄貴は海外に出張になったんだが、これが長くなりそうで、しばらく会えないと伝言を預かったんだ。海外からだと通信費が高くなるから」
「海外出張もあるんですか?」
「それがあるんだ。急なことで、ナマエちゃんに報告が遅くなってごめんな」
「いいえ、大丈夫です! 帰りの目処は、わからないんですか?」
「帰りは現場の状況次第でなんとも言えなくてな。でも、野田の兄貴のことだから大丈夫だ。信頼のある人だから」
長年一緒にいる人にもそう思われていることで気が楽になった。おじさんはきっとどこへ行っても大丈夫なんだろう。
何かあったら遠慮なく連絡してほしいと言ってもらえたが、電話をきると久々に孤独になった気がした。
出会ってからもう五年になるが、顔を合わせたときのおじさんのことしか知らない。週に二、三時間だけ。おじさんが帰ってきたら、もっと会えるように頼もうと思った。
おじさんの出張は想定よりもずっと長かった。久しぶりに会えたとき、それまでの不安が全て杞憂だったみたいにおじさんの態度は変わらず、衝動に委ねて抱きついた。
おじさんは焦っていたが、それでもいつもの飄々とした態度のおじさんを見上げた。その顔には脂汗が滲んでいて、出張が長引いた理由を悟った。安堵する気持ちが押し流されて、咄嗟に身体を離す。
「ごめんなさい」
「こんぐらい屁でもねぇわ。だが、何の説明もできねぇで悪かった」
おじさんは私の肩にしっかりと手を置いて謝ったが、溢れてくる涙を抑えきれなかった。
「おじさん……私もう二十歳だし、舎弟の若い人たちと同じくらいだよね」
「まあ、そうだな」
「おじさん結婚して」
「まあ、飛躍しすぎじゃねえか。なんでそうなる」
「私、おじさんの近くで、おじさんがどうしているか知っていたい……私」
受け止める覚悟があると伝えたかったが、おじさんには恋人がいるのかもしれなかった。おじさんの私生活は、おじさんが語ってくれることしかわからない。
他人とも我が子とも違う扱いに自惚れた時期もあった。だけどおじさんからすれば他人なのかもしれないし、友人の子というだけなのかもしれない。そんな考えを経て身のほどを弁えようと思ったのに、こんなに動揺して泣いて口を滑らせる私に、なんの覚悟が示せるだろう。
「帰ってきてくれてよかった。また……いや、これからは週二で会って」
本音であることに気づかれてしまったかもしれない。引かれただろうか。父親と見て一緒にいたいと言っているのではないが、そのほうが、このままの関係が続くかもしれない。
「それがな……実は、しばらく週一も無理かもしれねぇ」
「じゃあ結婚」
「一旦持ち帰って、今の仕事が片づいたら検討を重ねて」
「わかったから、次は印鑑用意しといてね」
軽々しい態度の応酬になった。
「でも、連絡くらいできるでしょ? 週一だけでも、一言だけでもいいから返して」
おじさんに約束させて、その日は一緒に夕飯を食べた。
おじさんがどのような立場で関わっているのかわからなくても、天羽組が大きな抗争に巻き込まれていることは、一般人でも知らないでいるほうが難しかった。それでも昔から続けているような、日常の当たり障りのないメッセージを送った。これが私なりの、おじさんが戻ってきてくれることが前提の覚悟だと、少しはアピールできるだろうか。これすらも子供の背伸びだと思われたら、次の手段に出るしかない。
法的に赤の他人のおじさんは、私が育ったアパートを出なくてもいいようにお金を工面してくれて、ひとつ屋根の下で暮らすこともない。
最初のうちはたまにスマホで近況を報告して、月に一度顔を合わせるだけだった。おじさんはそれだけでも煩わしくはないかと気を使っていたらしいが、おじさんのおかげで困窮することなく生きているし、忙しくなければ週一でも会いたいと言うと、おじさんは私の言っていることが信じられんなと言いたげに眉を歪めた。
それからは、きっと忙しいのだろうなというときも、時間を見つけて、週に一度、一緒にご飯を食べるようになった。
今週連絡をくれたのは、おじさんの部下の人だった。
「兄貴は海外に出張になったんだが、これが長くなりそうで、しばらく会えないと伝言を預かったんだ。海外からだと通信費が高くなるから」
「海外出張もあるんですか?」
「それがあるんだ。急なことで、ナマエちゃんに報告が遅くなってごめんな」
「いいえ、大丈夫です! 帰りの目処は、わからないんですか?」
「帰りは現場の状況次第でなんとも言えなくてな。でも、野田の兄貴のことだから大丈夫だ。信頼のある人だから」
長年一緒にいる人にもそう思われていることで気が楽になった。おじさんはきっとどこへ行っても大丈夫なんだろう。
何かあったら遠慮なく連絡してほしいと言ってもらえたが、電話をきると久々に孤独になった気がした。
出会ってからもう五年になるが、顔を合わせたときのおじさんのことしか知らない。週に二、三時間だけ。おじさんが帰ってきたら、もっと会えるように頼もうと思った。
おじさんの出張は想定よりもずっと長かった。久しぶりに会えたとき、それまでの不安が全て杞憂だったみたいにおじさんの態度は変わらず、衝動に委ねて抱きついた。
おじさんは焦っていたが、それでもいつもの飄々とした態度のおじさんを見上げた。その顔には脂汗が滲んでいて、出張が長引いた理由を悟った。安堵する気持ちが押し流されて、咄嗟に身体を離す。
「ごめんなさい」
「こんぐらい屁でもねぇわ。だが、何の説明もできねぇで悪かった」
おじさんは私の肩にしっかりと手を置いて謝ったが、溢れてくる涙を抑えきれなかった。
「おじさん……私もう二十歳だし、舎弟の若い人たちと同じくらいだよね」
「まあ、そうだな」
「おじさん結婚して」
「まあ、飛躍しすぎじゃねえか。なんでそうなる」
「私、おじさんの近くで、おじさんがどうしているか知っていたい……私」
受け止める覚悟があると伝えたかったが、おじさんには恋人がいるのかもしれなかった。おじさんの私生活は、おじさんが語ってくれることしかわからない。
他人とも我が子とも違う扱いに自惚れた時期もあった。だけどおじさんからすれば他人なのかもしれないし、友人の子というだけなのかもしれない。そんな考えを経て身のほどを弁えようと思ったのに、こんなに動揺して泣いて口を滑らせる私に、なんの覚悟が示せるだろう。
「帰ってきてくれてよかった。また……いや、これからは週二で会って」
本音であることに気づかれてしまったかもしれない。引かれただろうか。父親と見て一緒にいたいと言っているのではないが、そのほうが、このままの関係が続くかもしれない。
「それがな……実は、しばらく週一も無理かもしれねぇ」
「じゃあ結婚」
「一旦持ち帰って、今の仕事が片づいたら検討を重ねて」
「わかったから、次は印鑑用意しといてね」
軽々しい態度の応酬になった。
「でも、連絡くらいできるでしょ? 週一だけでも、一言だけでもいいから返して」
おじさんに約束させて、その日は一緒に夕飯を食べた。
おじさんがどのような立場で関わっているのかわからなくても、天羽組が大きな抗争に巻き込まれていることは、一般人でも知らないでいるほうが難しかった。それでも昔から続けているような、日常の当たり障りのないメッセージを送った。これが私なりの、おじさんが戻ってきてくれることが前提の覚悟だと、少しはアピールできるだろうか。これすらも子供の背伸びだと思われたら、次の手段に出るしかない。