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開店間際の瓜生の店に昔の知人が訪ねて来た。
「ナマエ! 久しぶりだな!」
ようと片手を上げたナマエは、班違いの同僚だった。
「お前が挨拶もなく消えて以来だ」
「巻き込まないために、いろいろとほら」
瓜生の言い分を聞いて、ナマエは明るく笑う。
「わかってる。言われてたら報告してた」
「そんなやつじゃねぇって思ってるって。今は何してるんだ?」
「遊んでるよ。毛利班が御前を怒らせたって聞いて金をかき集めておいたら、案の定仕事がなくなって、金だけ残った」
報酬が丸々手元に残っているなら、それだけで相当の額になるだろう。
「FIREってやつか?」
「そんなところだ。組織がある限り無理だったな。毛利班のおかげだよ。で、その毛利班が何をしてるのか見にきたんだ」
「そういうことなら全部買ってけ。どれも自信作だ」
「プレーンひとつ頼むよ。あとコーヒー」
「この新商品もどうだ?」
「また今度な。それより、鶴城だ。おにぎり屋って?」
ナマエは声をひそめて、カウンターに片腕を乗せて寄りかかった。元組織の人間からすれば、瓜生と鶴城が双方生きていることも、同じ街で飲食業を営んでいることも理解できない。
「食いに行ってみろよ。アホになるほど美味いぞ」
ナマエは口をへの字に曲げる。最後まで組織に属していたナマエのほうが、鶴城のことを知っている自信があった。経緯は不明だが、鶴城は袴田を殺している。元組織の人間がわざわざ訪ねれば、それだけで敵対しかねない。
「もっと情報がないとな」
「あいつは変わったんだ。変わろうとしてるんだよ」
変化が必ずしも改善に向かうとは限らない。ナマエは長年組織に属していて、よくない方に変わったまま戻らなかった人間を数えきれないほど見ている。ただ黙って眉尻を下げた。
「食ってみろって」
「味は気になる、買ってきてくれ」
「その必要ねぇみたいだぞ。よくうちに来るんだよ」
その言葉を聞いて店を去ろうとするナマエの腕を瓜生が掴む。
「瓜生」
「気になってただろ? タダで食えるんだぞ」
「金は山ほどあるんだって!」
「成金野郎!」
「人聞きが悪いな、金を適切に保管しただけ!」
あくまで一般客を装うために、小声で訴えながら最小の動きで腕を取り返そうとするが、瓜生の手はびくともしない。
「ゴリラ!」
「ゴリラ?」
店の近くに迫った鶴城が聞こえてきた言葉を呟くと、瓜生はそれをきっかけに手を離した。ナマエも直前の攻防を感じさせずに自然に手を引っ込めたが、会話が途切れたのが不自然だった。鶴城は復唱した声が聞こえてしまっただろうかとその場に留まるが、ナマエが軽く微笑んで振り向いた。
「よう、鶴城」
「もしかして、ナマエ?」
「ああ。覚えてくれていたんだな」
ナマエはこれも直前の攻防を感じさせずに、瓜生と再開したときと同じテンションで返す。よくやる、と瓜生は感心する。
「あの班で一番有名だったから覚えてる」
そうだったかなとナマエは謙遜する。ナマエのほうは鶴城の顔も名前も生い立ちも知っているが、人が変わったような穏やかさに理解が追いつかなかった。
「死龍、カリンは?」
「買い出しを頼んだばっかりだから、もうしばらく戻らねぇかも」
「そうか。残念だけど俺も店を開けないといけないからあまり待てないんだ。ナマエ、よければ食べてくれないか?」
ナマエはうちの新商品だと渡されたおにぎりを受け取って、瓜生に少し遅れて口に頬張る。
「ああほら、アホになる」
「なんでだ……確かに美味い」
鶴城は嬉しそうに微笑んでいる。ナマエはどうしても組織で見た男と重ねることができなかった。
だが鶴城よりはずっと話しやすかった瓜生でも、こんなアホ面を晒すところを当時の死龍と重ねるのは難しいことだと思う。本当にアホみたいな顔だ。
「あとで店に買いに行くよ」
待っていると喜んで帰っていった鶴城には、ナマエとの力量の差による余裕もあるのかもしれない。それでも、瓜生への信頼も加味して、変わろうとしているというのを信じてもいいような気になった。
「な?」
瓜生は全てを一文字に含めた。
「まあな」
ナマエも簡素に返して、瓜生から受け取ったメロンパンにも口をつけた。
「美味い!」
「だろ。これから毎日来いよ」
「成金野郎にならないように、倹約しないとな」
「金使ってなんぼだろ、成金野郎は」
「なんで刺々しいんだ……」
「ナマエ! 久しぶりだな!」
ようと片手を上げたナマエは、班違いの同僚だった。
「お前が挨拶もなく消えて以来だ」
「巻き込まないために、いろいろとほら」
瓜生の言い分を聞いて、ナマエは明るく笑う。
「わかってる。言われてたら報告してた」
「そんなやつじゃねぇって思ってるって。今は何してるんだ?」
「遊んでるよ。毛利班が御前を怒らせたって聞いて金をかき集めておいたら、案の定仕事がなくなって、金だけ残った」
報酬が丸々手元に残っているなら、それだけで相当の額になるだろう。
「FIREってやつか?」
「そんなところだ。組織がある限り無理だったな。毛利班のおかげだよ。で、その毛利班が何をしてるのか見にきたんだ」
「そういうことなら全部買ってけ。どれも自信作だ」
「プレーンひとつ頼むよ。あとコーヒー」
「この新商品もどうだ?」
「また今度な。それより、鶴城だ。おにぎり屋って?」
ナマエは声をひそめて、カウンターに片腕を乗せて寄りかかった。元組織の人間からすれば、瓜生と鶴城が双方生きていることも、同じ街で飲食業を営んでいることも理解できない。
「食いに行ってみろよ。アホになるほど美味いぞ」
ナマエは口をへの字に曲げる。最後まで組織に属していたナマエのほうが、鶴城のことを知っている自信があった。経緯は不明だが、鶴城は袴田を殺している。元組織の人間がわざわざ訪ねれば、それだけで敵対しかねない。
「もっと情報がないとな」
「あいつは変わったんだ。変わろうとしてるんだよ」
変化が必ずしも改善に向かうとは限らない。ナマエは長年組織に属していて、よくない方に変わったまま戻らなかった人間を数えきれないほど見ている。ただ黙って眉尻を下げた。
「食ってみろって」
「味は気になる、買ってきてくれ」
「その必要ねぇみたいだぞ。よくうちに来るんだよ」
その言葉を聞いて店を去ろうとするナマエの腕を瓜生が掴む。
「瓜生」
「気になってただろ? タダで食えるんだぞ」
「金は山ほどあるんだって!」
「成金野郎!」
「人聞きが悪いな、金を適切に保管しただけ!」
あくまで一般客を装うために、小声で訴えながら最小の動きで腕を取り返そうとするが、瓜生の手はびくともしない。
「ゴリラ!」
「ゴリラ?」
店の近くに迫った鶴城が聞こえてきた言葉を呟くと、瓜生はそれをきっかけに手を離した。ナマエも直前の攻防を感じさせずに自然に手を引っ込めたが、会話が途切れたのが不自然だった。鶴城は復唱した声が聞こえてしまっただろうかとその場に留まるが、ナマエが軽く微笑んで振り向いた。
「よう、鶴城」
「もしかして、ナマエ?」
「ああ。覚えてくれていたんだな」
ナマエはこれも直前の攻防を感じさせずに、瓜生と再開したときと同じテンションで返す。よくやる、と瓜生は感心する。
「あの班で一番有名だったから覚えてる」
そうだったかなとナマエは謙遜する。ナマエのほうは鶴城の顔も名前も生い立ちも知っているが、人が変わったような穏やかさに理解が追いつかなかった。
「死龍、カリンは?」
「買い出しを頼んだばっかりだから、もうしばらく戻らねぇかも」
「そうか。残念だけど俺も店を開けないといけないからあまり待てないんだ。ナマエ、よければ食べてくれないか?」
ナマエはうちの新商品だと渡されたおにぎりを受け取って、瓜生に少し遅れて口に頬張る。
「ああほら、アホになる」
「なんでだ……確かに美味い」
鶴城は嬉しそうに微笑んでいる。ナマエはどうしても組織で見た男と重ねることができなかった。
だが鶴城よりはずっと話しやすかった瓜生でも、こんなアホ面を晒すところを当時の死龍と重ねるのは難しいことだと思う。本当にアホみたいな顔だ。
「あとで店に買いに行くよ」
待っていると喜んで帰っていった鶴城には、ナマエとの力量の差による余裕もあるのかもしれない。それでも、瓜生への信頼も加味して、変わろうとしているというのを信じてもいいような気になった。
「な?」
瓜生は全てを一文字に含めた。
「まあな」
ナマエも簡素に返して、瓜生から受け取ったメロンパンにも口をつけた。
「美味い!」
「だろ。これから毎日来いよ」
「成金野郎にならないように、倹約しないとな」
「金使ってなんぼだろ、成金野郎は」
「なんで刺々しいんだ……」