龍
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会ったばかりの頃、佐川に言われたことがある。
「お前とは長く付き合いたいから正直に言うけど、立場を弁えないで馴れ馴れしくされんの、きらいなんだよね」
佐川が言うのは、今後打ち解けたように感じてもあくまで客であることを忘れるなということだ。肝に銘じたおかげか佐川の態度が地位や商売を忘れさせるほど親しげになったように感じるが、ここで流されてはいけないのだ。佐川が不満を口に出す頃にはもう取り戻せない気がする。
「ナマエさ、昼に一緒に歩いてた眼帯の男と知り合い?」
「眼帯の? はい。佐川さん、おいでだったんですか?」
「まぁな。客なの?」
「いえ……財布をなくして困っていたときに、声をかけてもらったんです」
「へぇ、意外だな。ナマエ、しっかりしてるのに」
佐川の前では軽率な過ちを犯さないように気をつけているが、プライベートで酒を入れるとつい気が緩む。佐川から意外と思われる評価に安心したが、恥ずかしくて微笑んだ。
「財布は見つかった?」
「はい。中身も無事でした」
「そりゃよかった。それにしても、そいつとやけに楽しそうだったじゃん」
やけに掘り下げてくる。真島がキャバレーの支配人であること以外を知らないが、堅気には見えないし、佐川は真島を個人的に知っているのだろう。どんな心象を抱いているか分からないからどう言ってよいものか悩むが、不自然な間をあけて不審がられるのはいやだ。
「お昼時に偶然会って、一緒に食事をしていたんです」
「そう。もしかしてさ、この前の予定ってのもそいつなの?」
先日約束を取り付けるとき、佐川が最初に提示した日付を断った。そして二つ目に提案された日付で合意したが、何気ないやり取りだと思っていたそれがここで出るのは、余程引っかかっているような印象を受ける。嘘を吐いても見抜かれそうで素直に頷いたものの、不安が残る。
「まぁ、どうでもいいんだけどさ」
友人なら本当か聞き返しているところだが、佐川が話を変えたので流れに従った。
佐川は自分の言葉を忘れていない。佐川が言ったとおりに気遣えるところを評価していたし、普段の態度にわざとらしいところがなく自然体であるように見えても、ナマエの素を知った気にはならなかった。だけど、昼間に見た大口を開けた騒がしさのない明るい笑顔も好ましくて知りたくなった。なにより相手が相手だ。
繕う必要がないナマエのことは、昼間の笑顔しか知らない。普段のナマエとは全く違うかもしれないのに、自分が言った距離を弁えない興味を抱いてしまう時点で、遊びでないところに片足を突っ込んでいる。佐川はナマエと別れてから溜め息を吐いた。
「お前とは長く付き合いたいから正直に言うけど、立場を弁えないで馴れ馴れしくされんの、きらいなんだよね」
佐川が言うのは、今後打ち解けたように感じてもあくまで客であることを忘れるなということだ。肝に銘じたおかげか佐川の態度が地位や商売を忘れさせるほど親しげになったように感じるが、ここで流されてはいけないのだ。佐川が不満を口に出す頃にはもう取り戻せない気がする。
「ナマエさ、昼に一緒に歩いてた眼帯の男と知り合い?」
「眼帯の? はい。佐川さん、おいでだったんですか?」
「まぁな。客なの?」
「いえ……財布をなくして困っていたときに、声をかけてもらったんです」
「へぇ、意外だな。ナマエ、しっかりしてるのに」
佐川の前では軽率な過ちを犯さないように気をつけているが、プライベートで酒を入れるとつい気が緩む。佐川から意外と思われる評価に安心したが、恥ずかしくて微笑んだ。
「財布は見つかった?」
「はい。中身も無事でした」
「そりゃよかった。それにしても、そいつとやけに楽しそうだったじゃん」
やけに掘り下げてくる。真島がキャバレーの支配人であること以外を知らないが、堅気には見えないし、佐川は真島を個人的に知っているのだろう。どんな心象を抱いているか分からないからどう言ってよいものか悩むが、不自然な間をあけて不審がられるのはいやだ。
「お昼時に偶然会って、一緒に食事をしていたんです」
「そう。もしかしてさ、この前の予定ってのもそいつなの?」
先日約束を取り付けるとき、佐川が最初に提示した日付を断った。そして二つ目に提案された日付で合意したが、何気ないやり取りだと思っていたそれがここで出るのは、余程引っかかっているような印象を受ける。嘘を吐いても見抜かれそうで素直に頷いたものの、不安が残る。
「まぁ、どうでもいいんだけどさ」
友人なら本当か聞き返しているところだが、佐川が話を変えたので流れに従った。
佐川は自分の言葉を忘れていない。佐川が言ったとおりに気遣えるところを評価していたし、普段の態度にわざとらしいところがなく自然体であるように見えても、ナマエの素を知った気にはならなかった。だけど、昼間に見た大口を開けた騒がしさのない明るい笑顔も好ましくて知りたくなった。なにより相手が相手だ。
繕う必要がないナマエのことは、昼間の笑顔しか知らない。普段のナマエとは全く違うかもしれないのに、自分が言った距離を弁えない興味を抱いてしまう時点で、遊びでないところに片足を突っ込んでいる。佐川はナマエと別れてから溜め息を吐いた。
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