龍
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ナマエは幼い顔立ちをしている。顔のパーツが下寄りだからか、顔そのものが小さいからか、幼く見える要因には詳しくないが、三十代の半ばでありながら、二十代に見られることもある。それでもこれまでの苦労が表情に出ていてさすがに学生に間違われることはあるまいと思っていたが、組員がスーツを着ているからではないかと言う。
それで、ナマエをミレニアムタワーの事務所に呼び出した。真島の隣に座らせて、目の前のテーブルに置いた服を指す。
「たしかに、そうかもしれんなと思うたわけや」
「先日湯乃園でお会いしたとき、俺は私服でしたが」
「そうやったか? 全然覚えてへんわ。どうせそこらのおっさんみたいな格好しとったんやろ。あ、そういや浴衣も着とったな」
ナマエは反射的に胸元に手を伸ばして、何もせずに引っ込めた。真島はナマエがはだけた胸元に卓球玉を喰らって浴衣を直す仕草を思い出す。
「そんときはお前の若さなんて意識してへんのやから意味ないやろ」
「そうですね。それで……どうしてメイド服なんですか?」
「ドンキにちょうどええのがあったんや。吸血鬼はスーツと変わらんし、ミイラなんて重傷にしか見えんやろ。あ、そや」
真島がソファの傍に置いていた量販店のビニール袋から取り出したのは、安いセミロングのウィッグだった。
「これで違和感もなくなるやろ。なんやねんナマエ、わしに脱がすの手伝ってほしいんか? しゃーないのお」
「い、いいえ……脱ぎます」
ナマエは自分に向かってきた手をやんわりと退けて、女物の服を掴んで、奥の部屋の扉を見た。
「では、ちょっと……」
「あん? わししかおらんのやから、ここでええやないか」
「……では」
ナマエは立ち上がってジャケットを脱ぎ始める。真島は着替えるナマエから目を逸さなかった。わからないがそういう人だと思ってナマエも気にしない。
ナマエが身につけたのは生地が薄く丈の短いコスプレ用のメイド服で、鍛えている身体がぱつぱつに生地を引っ張りながらなんとかおさまっている。
「イッヒッヒッ、よう似合っとるやないか! さっさとウィッグもつけてみろや。今のままやと女装したおっさんやで」
ナマエはつけたところで変わらないだろという思いのなか被ってみるが、髪を模した毛がぐしゃぐしゃで、なんとか顔にかかる部分を払って、ウィッグ全体を軽く撫でつける。
「どうですか?」
「やっすいウィッグはあかんな。髪伸ばせや、六……冴島くらい。うーん……あかんわ、どう見てもおっさんや!」
「なんの印象も変わりませんか……」
「やっぱり、おっさんはおっさんやな。ひとの事務所でなに女装しとんねん」
「そんな……」
「はよ座れや。あ、その前に」
真島は携帯を構えてナマエの写真を撮ってから、愉快そうに笑って座らせた。ウィッグを雑に掴んで部屋の隅に放り投げる。そうしてメイド服に身を包んだ姿を上から下まで眺めてみる。スカートの裾に目をやったとき、ナマエがぴたりと脚を閉じてスカートの裾を引っ張った。
「なに意識しとんねん」
「見せるものでもないですから」
恥じらう顔もおじさんだ。ナマエはまだ若く、世間的にもおじさんの顔立ちではないが、十代のナマエを知っていて、それからの苦労を長年見ているからこそ真島はナマエの顔に年月を感じるのだろう。そう考えると感慨を覚えて、真島はナマエと距離を詰めた。
「ナマエ……」
「ええっ」
「あかんか?」
「そんなことはありませんけど、こ、この格好だと、ちょっと」
「このおかげであらためて思い知ったんや。お前は昔からいつもちょこまかと走り回って、喧嘩に政治に、ブレずにようやっとるわ。おったら便利やからってあちこちで使われてその都度期待に応えるやなんて、そうできるもんやないで」
ナマエは耳まで赤くして、丸く目を開いて幼い表情になる。
「なんやナマエ、ガキみたいな可愛らしい顔して……そんな趣味ないねん、若ぶるなやアホ」
「こ、こんな正面から褒めていただけるなんて思わず……んん」
言い訳をする口を塞いだ。
それで、ナマエをミレニアムタワーの事務所に呼び出した。真島の隣に座らせて、目の前のテーブルに置いた服を指す。
「たしかに、そうかもしれんなと思うたわけや」
「先日湯乃園でお会いしたとき、俺は私服でしたが」
「そうやったか? 全然覚えてへんわ。どうせそこらのおっさんみたいな格好しとったんやろ。あ、そういや浴衣も着とったな」
ナマエは反射的に胸元に手を伸ばして、何もせずに引っ込めた。真島はナマエがはだけた胸元に卓球玉を喰らって浴衣を直す仕草を思い出す。
「そんときはお前の若さなんて意識してへんのやから意味ないやろ」
「そうですね。それで……どうしてメイド服なんですか?」
「ドンキにちょうどええのがあったんや。吸血鬼はスーツと変わらんし、ミイラなんて重傷にしか見えんやろ。あ、そや」
真島がソファの傍に置いていた量販店のビニール袋から取り出したのは、安いセミロングのウィッグだった。
「これで違和感もなくなるやろ。なんやねんナマエ、わしに脱がすの手伝ってほしいんか? しゃーないのお」
「い、いいえ……脱ぎます」
ナマエは自分に向かってきた手をやんわりと退けて、女物の服を掴んで、奥の部屋の扉を見た。
「では、ちょっと……」
「あん? わししかおらんのやから、ここでええやないか」
「……では」
ナマエは立ち上がってジャケットを脱ぎ始める。真島は着替えるナマエから目を逸さなかった。わからないがそういう人だと思ってナマエも気にしない。
ナマエが身につけたのは生地が薄く丈の短いコスプレ用のメイド服で、鍛えている身体がぱつぱつに生地を引っ張りながらなんとかおさまっている。
「イッヒッヒッ、よう似合っとるやないか! さっさとウィッグもつけてみろや。今のままやと女装したおっさんやで」
ナマエはつけたところで変わらないだろという思いのなか被ってみるが、髪を模した毛がぐしゃぐしゃで、なんとか顔にかかる部分を払って、ウィッグ全体を軽く撫でつける。
「どうですか?」
「やっすいウィッグはあかんな。髪伸ばせや、六……冴島くらい。うーん……あかんわ、どう見てもおっさんや!」
「なんの印象も変わりませんか……」
「やっぱり、おっさんはおっさんやな。ひとの事務所でなに女装しとんねん」
「そんな……」
「はよ座れや。あ、その前に」
真島は携帯を構えてナマエの写真を撮ってから、愉快そうに笑って座らせた。ウィッグを雑に掴んで部屋の隅に放り投げる。そうしてメイド服に身を包んだ姿を上から下まで眺めてみる。スカートの裾に目をやったとき、ナマエがぴたりと脚を閉じてスカートの裾を引っ張った。
「なに意識しとんねん」
「見せるものでもないですから」
恥じらう顔もおじさんだ。ナマエはまだ若く、世間的にもおじさんの顔立ちではないが、十代のナマエを知っていて、それからの苦労を長年見ているからこそ真島はナマエの顔に年月を感じるのだろう。そう考えると感慨を覚えて、真島はナマエと距離を詰めた。
「ナマエ……」
「ええっ」
「あかんか?」
「そんなことはありませんけど、こ、この格好だと、ちょっと」
「このおかげであらためて思い知ったんや。お前は昔からいつもちょこまかと走り回って、喧嘩に政治に、ブレずにようやっとるわ。おったら便利やからってあちこちで使われてその都度期待に応えるやなんて、そうできるもんやないで」
ナマエは耳まで赤くして、丸く目を開いて幼い表情になる。
「なんやナマエ、ガキみたいな可愛らしい顔して……そんな趣味ないねん、若ぶるなやアホ」
「こ、こんな正面から褒めていただけるなんて思わず……んん」
言い訳をする口を塞いだ。
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