二章 コランバインのバラード【前半】
特になにか設置されているわけでもない、何も無い渡り廊下だ。そこを抜けて前に見えたのは、大きな白い壁だった。左を向くと、観葉植物が一つだけぽつんと、置かれていた。
「ここに来て、最初に見るのが白い壁一面とは……」
今まで入れなかった場所だから、何か変わったものでもあると期待してしまった。
とんだ拍子抜けである。
「でも、その白い壁に扉がついているでしょ?向こうに色々あるんだよ」
と、櫻井がフォローしてくれた。
「あ、そういえば運動施設だって言っていたな!テニスコートとか?」
さっき消してしまった期待を少し持ち直して、扉を開く。見ると、テニスコートではなく、水の張った大きなプールがあった。そこだけを見るとすがすがしい気分になるが、周りがそうはさせない。今入ってきた側の壁にはもちろん、向かい側の壁にも窓などは一つもない。背泳ぎの時に、ゴールへの目標にするあの三角の旗もない。椅子も足ふきマットも何もない。ただ、数人が入れるような水の器を用意した感じがする。
「やっぱり期待外れだな。なんだか違和感がある空間だ」
そう落胆していると、櫻井の声が聞こえた。
「学校のプールって感じがしないな……。なんか、謎の儀式とかやってそう」
白石がその言葉に続き、
「……閉鎖的だよね。本当にここ学校なのかな」
この部屋だけは学校に見えない。この建物だけは不自然である。思い返せば、第一校舎など他の建物は木造建築なのにここはコンクリートでできている。
「ここの学校自体は昔からあった風貌だし、この施設だけ後に増設した……とかそういうことじゃないか?」
「なるほどっ!空くんの言う通りかもっ!でも、どうしてこんな場所を……」
謎は深まるばかりだ。ここは何なのか―どこに位置していて近くに民家はあるのか―どうしてコロシアイをさせるのか。
「ただの学校と言うには少し異様だね。この学校がどんなものか知るのも……手かもしれない」
白石の言ったことを頭の中で復唱する。俺は昨日までそんなこと考えもしなかった。……この学校が何か—普通の学校でないなら、何の目的を持っているのか。知ることで突破口が見えるとは限らないが、今他にできることはない。やってみる価値はありそうだ。
「じゃあ、尚更探索には力を入れないとねっ!脱出の手掛かりだけじゃなくて、情報も集めないといけないしっ!」
「白石と櫻井の言うことは尤もだな!はぁ……大変だけど頑張ろうな!」
オレの言葉に、二人がうなずく。
全員は無理かもしれない。それでも力を合わせれば何とかなるはずだ。
どうせ信じるなら悪い可能性より良い可能性を信じたい。
もうこの場所に調べられるようなものは見当たらない。
ここの一階に向かうことにした。