二章 コランバインのバラード【前半】
「みんな!おはよう!」
元気よく挨拶すると、厨房の方から鑑の声がした。
「おはようございます」
どうやら皆の分の朝食を作り終えたらしい。鑑はせわしなく動かしていた手を止め、
「今日は白石様と大原様が一番乗りですか。それにしても珍しい組み合わせですね」
「ああ、そこでばったり会ったからな」
「……」
「この学校に来てから早一週間。皆様、だんだんと打ち解けてきたようですね」
「本当だな、全員がそうではないけど。昨日カップルが誕生したくらいだしな!」
賛否両論あれど、それはめでたいことに違いはない。恋人ができることが何の妨げになるというのか。緊張感が緩む——いや、緩むことは悪くないと思う。油断することさえしなければいい話だ。
「打ち解けてきた、か。確かに前よりみんなの距離が縮まっている気がする」
と、白石は少し考えてから言った。そして少し顔を俯かせて、
「今現在、私たちの置かれている状況が違えばどうだったんだろう」
「仲の良いクラスメイト、と簡単に言えたんじゃないですかね」
突然背後から声が聞こえた。
そこには百鬼と秘星がいた。
「すみません、会話に乱入なんてことをしちゃいました……」
「なんだか楽しそうな話をしているじゃないか。紗月ちゃんはそれが気になったみたいだね!」
百鬼は少し申し訳なさそうな顔をした。
一方秘星はニッコリと笑って、
「紗月ちゃんも入れてくれよ。ちょっとくらいいいだろう?」
「ま、オレはいいけど。ただの雑談だし」
オレの意見に鑑と白石は顔を縦に振った。
「ありがとうございます!えーっと、さっきの私の意見はですね」
百鬼は感謝の言葉を述べた後、ワンテンポ置いてから話し出した。
「もし今がコロシアイのない状況だったら、純粋に仲いいって言いきれるんじゃないかって。恋人ができても反対する人もいないでしょうし、仲良くしない理由も消えると思うんです」
「なるほど。私たちクラスメイトの間に亀裂が入っているのもコロシアイのせいということですね。こんな状況でなければ——」
シーンとなる。
皆と会うのがこんなところでなければ、希望ヶ峰学園であったなら河西を含めた全員と仲良くなれたのかもしれない。
「まあまあ諸君!そんなに落ち込むな!今自分たちの置かれている状況を悔やんだって仕方ない!全員は無理でも何人かと親しくなることは可能じゃないか!」
「……」
「それもそうだな!」
「麻央ちゃんさすが!」
「秘星様のお考えはご尤もですね」
皆が賛成する。しかし白石は黙ったままである。
「……」
「白石?どうしたんだ」
「別に……何もないよ」
そうは言うが、何かを考えていたんじゃないか。そんな表情をしていた。
「おはよー……はあ、ねみぃ」
そうしていると一人食堂に入ってきた。
「おはよォ~」
また一人。
「おっはよう‼」
また一人。
ちらほらと皆が集まりだした。
最後に現れたのはローゼンと出口だった。
「話題の二人が一番遅く来るとは、早々にいちゃついてたんですか?素敵です、朝から余裕がおありのようで、私も見習いたいですね」
「あら、櫻子さん。おはようございます。そうですね、雨祈さんとの会話が弾んでしまって……。少し遅れましたわ」
「うぅ……、ごめんなさい」
空気がピリピリする。
朝からやめてくれよ……とつい口に出してしまうところだった。
鑑の方からは少し怒りのオーラが感じられる気がする。気がするだけだが。
「……か、河西さん。喧嘩売るのはやめたら?」
意外にも最初に河西を止めたのは架束だった。
「彩の言うとおりだぜ!そんな嫌味言ったらシェリアに雨祈が傷ついちゃうかもしんねーだろ!」
「うんうん‼朝から嫌味は聞きたくないよね‼」
「そうだよ櫻子さんっ!折角気持ちのいい朝なんだしもっと楽しくいこうよっ!」
架束に続き、四津谷と桐谷と櫻井が止める。
この流れで、オレも止めた方が……
口を開きかけると、河西は呆れたように苦笑して、
「私は二人を褒めただけなんですが。袋叩きなんてして、いじめじゃないですか?私傷つきましたよ」
「た、たしかに!ごめんな!櫻子!」
「気軽に下の名前で呼ばないでください」
四津谷が謝るも撃沈した。
それからは誰も口を開かなかった。
「いつまで突っ立てるんですか?早く朝食にしましょうよ。せっかく全員集まっているんだし。それに私から話したいことがあるんです」
河西がオレたちに話したい事。決して「仲よくしよう」とか世間話のようなものではないだろう。
戸惑ってなかなか座らない数人に河西は、
「こちらとしてもさっさと終わらせてしまいたいんです。長話をすることに意味はないでしょう?」
と、促した。
そしてようやく全員が食卓に着いた。
「いただきます」