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二章 コランバインのバラード【前半】


また、新しくプールや体育館に行けるようになったと櫻井に聞いた。
そういえばさっき桐谷が渡り廊下について言っていたな。きっとその先にあるに違いない。行けるエリアが増えることはいいことだ。でも運動施設が増えたところで授業があるわけでもないし、自分は特別運動が好きなわけでもないので自分には何の影響もない。ただ、そんな施設にも何か手掛かりは残されているかもしれない。既にそこらへ踏み入った人たちが見逃しただけで、さっき話に聞いた「重山拡」という人物が置いた何かがあるかもしれない。後で今日そこらに行ったという櫻井達に聞いてみようか。



「報告などはひと段落したようですわね。この学園についてではないのですが、少しわたくしの話を聞いてくださいませんか?」

ローゼンの顔を見るに、何か大切な話があるみたいだ。

「うんっ!どうぞ話してっ!」

「菜々子さん、ありがとうございます。では……」

ローゼンはニコッと笑って話し出した。女王様の笑顔は国宝級だよな……いや、当たり前のことだが。

「実はわたくし、本日から雨祈さんと交際させていただくことになりましたわ」

今聞こえたのは本当のことか?出口は幸せ者だな!

「えええっ!そうなんですか?おめでとうございます!これはお祝いに何かお花を贈らなければ……」

最初に反応したのは儚火だった。

「へえー、シスターちゃんと女王ちゃんかぁ。うん、お似合いだねぇ」

「……おめでとう」

秘星のヤジのようなコメントに続き架束が祝いの言葉を述べる。
さっきまで真剣であった場が、いっきに祝いのムードへと変わる。

「めっちゃめでたいじゃん!まだ出会ってからそんな経ってないけど何があったん?」

「お二人は以前から面識があったんですか?」

四津谷と百鬼の質問に出口が口を開く。

「それは……、知り合ったんはここに連れてこられてからばい。……シェリアちゃんはわたしんこつば気遣ってくれるし、芯の通った女性ばい。そこに惹かれた……かな?」

「ふふ…出口様なら私も安心です。私は彼女と少し行動を共にしましたが、信頼のおけるお方です。」

長い間ローゼンの従者である鑑も認めるくらいか。

「おめでとう。信頼できるなら……いいね。」

白石の言うとおりだな。


「ハァ……、こんな状況で恋愛にうつつを抜かしているなんて。随分と生き残る自信があるんですね。」

突然誰かが口をはさむ。溜息付きで。

「河西様。ここにおられる方は一国の女王でございます。お言葉はお選びになられたほうがよろしいかと」

すかさず、ローゼンに仕えている鑑が河西の発言を制する。
こんな空気の中にいなくていけないのは辛い。
ただ、河西と同じ考えの人もいるようだ。

「えェー、でも河西チャンが言ってること別に間違ってなくなァい?」

「確かに‼これが普通の生活での出来事ならわかるけど……!まああまり油断しすぎないようにね!」

内沢と、意外にも桐谷はあまりよく思わないみたいだ。

「でもさっ!こんな時に支えができるのって、かなり心強いんじゃないかなっ?空くんはどう思う?」

櫻井から突然問いかけられた。正直巻き込まれたくない。

「オ、オレはいいと思うよ?それは二人のことだからオレ達が口出すようなことでもないし。まあ、おめでとう!」

「まあ、空の言う通りかもなー。俺ちゃんたちはただ見守ってりゃいいじゃんか」


二人のいい報告を素直に喜べばいいものを、違う考えをする人もいるようでこんなどんよりした雰囲気になってしまった。


「……お祝いありがとうございます。様々な意見があるようですが、わたくしたちは気にせず交際はずっと続けていくつもりですわ」

「うん、わたしもそんつもりばい。……もう夜も遅かしみんな部屋に戻ろう。もう夕食ば食べ終わっちょるよね?」

出口の声をきっかけに、みんなぞろぞろと帰っていく。夕飯の時間は終わった。もやもやしたまま終わった。

とりあえずさっさと寮に帰って寝てしまおう。深夜まで起きていてもすることはない。
今日も疲れたな。立ち止まってグッと腕を伸ばす。。

「ヤッホー、大原!何してるの?体操⁉」

「真飛……ただの伸びでしょ」

後ろから桐谷と白石に声を掛けられる。

「早くしないと夜時間になっちゃうよ‼」

「……あと二時間はあるよ」

まだ20時になる少し前だ。
夜時間は22時からだからまだ時間はある。

「確かに‼」

オレは疲れているのに桐谷と白石は元気なようだ。

「……人の恋路でもすぐ対立するなんて。伊織くんが言ってた「仲良くなる」ことは難しい気がする。」

白石が突然ボソッとつぶやく。

「そもそも、仲良くなったからって殺人が起きないとは限らないからね!現実逃避するにはいい文句だけど」

「白石は事件について話したわけじゃないと思うぞ?」

「……」

「あー、伊織が言ってたってとこで早とちりしてたかな!」

白石の言う通り、めでたい話でも対立するなんて協力なんて得られないように思った。

「親睦会は無意味だったのか……」

「そりゃあんな事故……いや、事件が起きたら本来の効果もなくなるよ」

早くこの学園から逃げないといけないというのに、問題は山積みだと項垂れた。
いまだに見つからない外へとつながる手がかり。明日見つかることを願う。

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