二章 コランバインのバラード【前半】
「いただきまーす」
色々あって普段より食事の時間が遅くなってしまった。
食卓には全員が席についている。
河西も、ちゃんといるみたいで少し安心した。
「わっ!この唐揚げ美味しいねっ!」
「流石櫻井ちゃんっ!実はこれ俺が作ったんだよ‼︎」
「あら、真飛さんもお料理なさるのですね!」
急いで作った唐揚げも好評のようだ。
オレも桐谷も料理は得意な方ではなかったので不安であった。
「まぁ、それも他の料理と同じくほとんどは鑑が作ってるよ。桐谷はつまみ食いしちゃったからその分だけ……」
「え!バラしちゃうの⁉︎酷いよ!」
「へーっ!でもどの唐揚げも美味しいし最高っ!」
今日はドタバタした1日だったから、こうして談笑しながらの夕飯というのも悪くない。
このような時間を過ごしている間は、自分が今コロシアイ生活の中にいることを忘れていられる。やはり、食べ物の力はすごいな。いや、食べ物の力というよりは鑑の作る料理の力か?
「あ、皆さん!ちゃんとお野菜も食べなきゃダメですよ!」
「えェ〜?別に好きなものだけ食べてたら良くなァ〜い?儚火チャン気にしすぎィ〜」
「あ、舞琴!俺こんなにトマト食べれないからあげるよ‼︎」
「……白石さん、結構たくさん食べてますし満腹ではないですか?もしよかったら私食べましょうか?」
「……これくらい大丈夫。なんなら足りないくらい。」
皆と食卓を囲んで美味しいご飯を食べる。
最高だな!
「それで、皆さんは今日一日何してました?もちろん私は探索してましたが」
そんな空気に、河西の声が響く。
一斉に皆の目線が彼女へ向く。
「まさか、何もしていなかったなんて言えませんよね?伊織と明石の事件があったんですから、コロシアイはもう他人事ではないんですよ?」
その一言で、食卓は水を打ったように静かになった。コロシアイは一度起きてしまった。ここにいる全員は、コロシアイが起きうることをもう知っている。
「分かってるぜ!俺ちゃんだってちゃんと探索してたし!」
「……弥音くんと私はほぼ図書室で話してただけだけどね」
実際、オレが校内を探索していた時数人と出会った。
「わたしはローゼンさんとお喋りしながらやったっけど、探索はちゃんとしたばい」
「ええ、雨祈さんとの探索の時間は楽しかったです」
今日一日、何も行動していない人はほとんどいないとオレは思う。
「なら、報告だとか今後どうするかなど話し合いしたらどうですか?こう全員が集まる時間って中々ないですよ。」
正論である。言葉は刺々しいが、正論である。
折角大勢で探索したのだから、情報を共有しなければいけない。
「うんうん、確かに書家ちゃんの言う通りだね。じゃあまずは私から報告してもいいかい?」
「うんっ!聞かせて聞かせてっ!」
櫻井の返事に、秘星は淡々と話し始めた。
「実はこの前、校内図を見つけたんだよね。第一校舎一階と第二校舎一階の。」
「なるほどっ!それはいつぐらい?」
「うーん、サッカー選手くんの事件の捜査をしている時かな?」
「お、思ってたより遅いよっ!?」
丁度今日見せるようだったらしく、秘星は自分のポケットからくしゃくしゃになった二枚の紙を取り出した。
「なるほど!確かにこの間取りは第一校舎と第二校舎の一階ですね!」
「……そんなものが存在するなら、他の校舎のものも……?」
「おお!良い推測だね、イラストレーターくん!このまま探索を進めていたら、他の建物の校内図も見つかると思うね!」
もし今後そのようなものを見つけたら、すぐに報告する、とまとまった。
ただ、この校内図は明らかに人の手によって書かれたものである。印刷をされた様子はない。そこが不自然だ。
「それにしても、この図の所々にあるメモ書きのような物はなんでしょうか?」
「この校内図を作った人が書いたんだろうね……。ここに書いてある“重山拡“って人じゃないかな?」
「その通りだろうね!小説家ちゃん!記されている日付を見るに、この人は一年前にここにいたんだろう。」
衝撃だった。一年前にもこの校舎に人がいた……。しかも、このメモ書きを見るにこの人もとじこめられていたかもしれない。この人が今どうしているか、それを掴むことが脱出の糸口となる可能性がある。
「それが本当なら、この人物の動向を探るためにも探索は続ける必要があるな……。」
思ったよりも重要な情報を手に入れることができた。河西の言い方にはムッとしたが、その通りに動かなければこれは手に入らなかった。
「そういえば……なんか、和室の襖が外れたったけど……何があったとか?」
「不便そうだったので、魅磨に直させようとしたのですが……」
「突然モノゴンが現れまして、『そのままでいいの!面倒だからほっといてよねン』とのことでした。」
鑑、ローゼン、出口が茶室に来たのは、オレ達がそこに訪れた後だったみたいだ。床に置いたまま放置していたので目についたのだろう……。邪魔だったと思うし申し訳ない。しかし、モノゴンが出てくるなんて、何かあるのか?茶室には。
「ああ、それは……。襖が立て付け悪くて桐谷に外してもらったんだ。」
「なるほど……。そうだったんですね!でも心配ご無用!襖が無くても茶室は茶室です!私、明日からあの部屋で過ごそうかなぁ」
儚火はやはり超高校級の華道家なだけあって和室は大好きなようだ。笑顔が眩しい。こんな時に好きなものがあるって……地獄に仏だよな。
「ところで、茶室には妙に埃が舞っていましたわ。確か私達が訪れる前は、笑さんが茶室にいましたわね?」
長い間内沢は襖と格闘していた。その様子を一瞬でも見られていたんだろう。
「部屋全体に舞っているなんて相当ですわ。笑さん、中で何をしていましたの?」
相変わらずニコニコしながら話すローゼンだが、明らかに目は笑っていない。
オレ達が茶室を出た直後に来たとしたら、埃が舞っていることも頷ける。なんせ長らく人が踏み入れなかった部屋で刀を鞘から出そうと三人で奮闘していたのだから。
桐谷の方を見ると、明らかに焦っている。内沢に向かって何か口パクしている。
えーと……「い う な」か。
それを隣にいる白石が冷たい目で見ている。「何やってんだこいつ」とか思ってるのかな?オレだったらそう思うな。
内沢がどんな人なのか未だに掴めていない。約束を破って話してしまうかもしれないし、不安はある。
すると、内沢はニヤッと笑って言った。
「何もしてないよォ〜?襖外すのに手間取ったからそれで埃が舞ったんじゃない?それについては大原クンと桐谷クンが知ってる気がするなァ〜」
「……本当でして?」
「あ、ああ!本当だぞ!」
オレの答えに桐谷は思い切り頭を縦に振っている。模擬刀のことがバレないようにしなくては。
「それなら、安心しましたわ!」
難を逃れたようだ、とりあえず良かった。