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二章 コランバインのバラード【前半】


何もすることがないというよりは、何かする気力がない。
他の人たちの話をたくさん聞いたりと、情報収集をしたいものだ。ただオレは今、疲れてしまっている。それも大方あの模擬刀のせいだな。

食堂に誰かいないだろうか。夕飯までそこで待てば疲れないし、話も聞けて一石二鳥だ。

期待をしながら食堂のドアを開ける。

ガタッ

食堂に入って電気をつけた途端、厨房から何か音が聞こえてきた。

「誰がいるのか?」


返事はない。
コロシアイ生活真っ只中ということもあり、警戒しながら音のした方に向かう。

「……あーあ、びっくりした!大原じゃん!」


「なんだ、お前か……」

ため息をつく。そこにいたのはさっき別れたばかりの桐谷であった。
先程の音の正体もきっと彼の立てた音だ。

「チェッ、大原食堂に来るの早くない?」

「さっきのこともあって疲れたからな……」

どことなく、桐谷が焦っている感じがする。
いつも話す時は目が合うのに、今は全く合わない。

「で、厨房なんかで何してるんだ?これから夕飯だから一人で支度?珍しいな〜」

桐谷から料理する話なんて聞いたことがないし、今までに食材を切ってるところでさえ見たことない。

「あー……つまみ食いだよ!」

ステンレス製の調理台、には鑑が昨日作り置きしておいた唐揚げが置いてある。何個か減っているように見えるのは気のせいじゃないだろう。
夕飯まで時間があるとはいえ、ものすごく間があるわけじゃないのに。今食べてしまうのか。

「大原、このことは鑑とかには言わないでね‼︎」  

悪いことしたという自覚はあるみたいだ。
まぁ、警察官だしな……。いや、盗み食いする警察官って一体何だ。

「今日の夕飯なんだろうね!」

「いや、つまみ食いしながらその話題出す?」

そんなことを言っている間にも、唐揚げとその他のものが減っていく。

「そこら辺にしとかないと、オレがチクらなくてもバレるぞ」

「冷蔵庫にあるキャベツでも下にひいてカサ増ししとくから大丈夫‼︎」

「警察官のすることじゃない!てか流石に誤魔化せないと思うよ⁉︎」

桐谷が冷蔵庫から出したと思われる食品たちを戻す。

「マジかー、しまってくれてありがと‼︎……これで共犯じゃん⁉︎」

「協力した覚えはないからな!」



「なんか桐谷って警察官のイメージと少し違うよな」

「そう?確かにここでは仕事そんなしてないけど‼︎これでも何人も悪いやつ捕まえてるよ‼︎」

オレだけのイメージなのかもしれないが、警察官で頭に浮かぶ言葉は「信用」「正義漢」だ。
ただ申し訳ないが、オレから見た桐谷は正義感はあるが完全に信用はできない。いたずらをするところに限ってだが。もしドッキリを仕掛けられたらまず桐谷を疑うくらいには……。

「ま、疑うなら舞琴に聞いてみてよ!俺の活躍はあいつがよく知ってるよ!昔からの付き合いだしな」

「そうか、今度聞いてみるよ。それよりごめん。別に疑った訳じゃないんだ。ちゃんと仕事に取り組んでる桐谷が想像できなくて」

桐谷が目を見開いてオレの方を見ている。
……うっかりとはいえこんなことを言うのは失礼だったな。

「えー……俺、この前の明石と伊織の事件ですごい働いたと思うけどな⁉︎さっきだって!」

「確かにな、ごめん。……はぁ、その事件からまだ数日しか経ってないのか。」

みんな何気ない顔をしているが、わざとその話題に触れないのだろう。誰ともその話はしなかった。

「ついこの前だよね。数日くらいしか付き合いのない人とは言え、近くにいた人が亡くなるのはね……。警察官としても個人としても悔しいよ‼︎」

桐谷は事件の前も後も変わらず明るいけど、やはり深く考えている。

「……もうこの前みたいなことは起きてほしくないな。脱出の手口はまだ見つからないし。一体いつ解放されるんだ」

こんなに探しても、未だにいい抜け道などは見当たらない。校門を乗り越えようとしたならば、すぐに害獣に攻撃されてしまう。

「早くここを出ないとね!俺が警察の仲間呼べたらよかったんだけど……。携帯の類は無いし校内に電話も無いし!」

「仕方ないよ。とにかく自分たちでなんとかしないとな。……みんなを信じていないわけじゃないんだけど、またあんなことが起きてしまうのはな」

今日校内を回って、仲良さげにしているクラスメイトの様子も見た。ただ、親睦会を開いて絆を深めようとしたところであの惨い事件は起きた。信じたくても完全に信じられない、というのが本音である。

「仲良くなったからって……」

「俺は伊織の親睦会の案、いいと思ったよ‼︎」

オレが何を思ったか察したのか?ドキッとする。

「仲を深めることで、お互いを信じ合えるようにする。そうすることで安心を得る。心の平穏のためならいい案だと思うな!」

桐谷が言うところには、結束を固めることは当然だがギクシャクしているよりも様々なことへの協力を得やすいという。あくまでも持論であって、これが正しいわけではないとも。

「ただ言っちゃえば殺し合いを強いられている状況を打破する策ではないし、油断する空気になりやすい……。」 

信頼しすぎも考えものだな。

「かと言って、仲良くならないってのはさっき言った通りの不安が残っちゃう。統率の取れないままになる。」

「だったらどうすればいいんだ……。」

「仲良くなったからといって信じすぎないことかな。あとは少しは信頼すること!そういう良い状況が今必要だと思うよ!」

どっちもするということか。
言葉で言うのは簡単だが、実際は難しいな。

「だからあの案は良かったと思うよ。今みんなが仲睦まじいのはあの会があったからこそだよ!」
 
「確かにな……。あの会が無かったらお互いのことを知らないままだったかもしれない。」

「それにこないだの事件があったから、表には出さずとも皆警戒しているはずだよ!実際俺達も警戒してたから武器になりそうなものを隠したわけだし!」

それなら、今は桐谷の言っていた「良い状況」になっているのだろう。殺人も起こりにくいと考えておきたい。

「何も起こらないうちに脱出できる方法を探せればいいよね!俺、明日は第二校舎の二階にあった渡り廊下の先にでも行ってみるよ!」

渡り廊下の先はオレもまだ行っていない。
模擬刀に気を取られすぎて意識がいかなかった。

「そうだな、何か役に立ちそうなものがあればいいんだけど」



ギィ……

二人で話していると、食堂の入り口の方から音がした。
見ると、ドアが開いて鑑が厨房に向かってくる。


「おや、お早いですね。お夕飯なら今から支度致しますので、お時間いただくことになるかと……ん?」

「あ!鑑じゃん!今から料理?頑張ってねー!」

鑑を見ると、彼は冷蔵庫を開いたまま固まっている。

「あれ?鑑どうしたんだ?」

「……いえ、昨日作り置きしておいた唐揚げの数が減っているように思いまして」

桐谷の肩が跳ねる。

「オレは食べてないぞ!」
桐谷がつまみ食いしたものを冷蔵庫にしまったりはしたが、食べていないのは真実だ。

「……桐谷様」

「お、俺も食べてないよ!」

「では貴方様の口元に付いている茶色いものはなんでしょうか」

沈黙が流れる。
心なしか空気がぴりぴりしている。
嫌な時間だ……。

「……ごめん!てか大原も教えてよ!見えてたでしょ‼︎」

「自業自得だぞ!」

「これでは数が足りません……。お夕飯まで時間がありませんので桐谷様、手伝ってくださいますか?」

「……はーい」

珍しく鑑が怒っている。仕方のないことだが。

「鑑、オレも手伝うよ!オレも桐谷を止められなかったからな」

「大原様。ありがとうございます!ではそちらの冷蔵庫から鶏肉をお取りいただけませんか?」

「ああ!任せてくれ」

こうして数人で料理をするのは初めてだ。
こういうのも悪くないな。

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