二章 コランバインのバラード【前半】
第一校舎を出ると、バッタリ秘星と儚火に会った。
「お!秘星が百鬼と四津谷と一緒にいないの珍しいな!今日は儚火と一緒なんだ?」
「ふふ、いつも私が二人の側にいるとは限らないよ?幸運くん」
確かに、たまに一人で過ごしてるところを見かけたりしていた。
「えへへ、さっきまで一緒に花壇に行ったりお茶したりしてたんです!」
いつも快活に振る舞っている秘星だが、今日はもっと明るく見える。儚火と仲良くなれてよっぽど嬉しいのだろう。
「いやぁ、華道家ちゃんはキラキラしていて眩しいね。」
「ええっ、そう言われると照れてしまいますね!ありがとうございます!」
二人が楽しげに話しているところを見ると、こっちも嬉しくなる。
「こんな状況だけど、仲良い人とかいると心強さも変わるし安心だよな。いい友達だよ」
オレの言った言葉に、秘星が口を開いた。
「友達……友情か。でも私はそれより彼女に憧れの念を抱いてるのさ」
「憧れ?私に?」
「まるで華道というものが、華道家ちゃんのためにあるように見えるよ。才能と君自身がすごくマッチしている」
秘星は微笑みながら、儚火に語っている。
正直オレがここにいていいのか分からなくなったが……。
それでも、秘星の言っていることは頷ける。
「ふふ、秘星さん褒めすぎですよ!でも私の才能のことを褒めてくださって、すごい嬉しいです。華道……生花、お花はすごく大好きなんです。」
「いいかい?幸運くん。「才能」と「好き」が一致するのは当たり前じゃない。でも華道家ちゃんは自分の才能を愛している。」
「そういうところに惹かれて、憧れているんだ」
少し秘星の声のトーンが低くなったように聞こえた。
「秘星?それって……」
「深読みしないでほしいね!私も自分の才能は好きだよ。「監督」ほど自分に合った才能は無いさ。」
オレとした事が変なことを言いかけた。
ちょっとした不安は杞憂だったようだ。
「ただ、せっかく才能があってもそれを一番に好きになれない人がいるって知ってね。」
「なるほど、オレは幸運だから好きとか嫌いとかは無いけどな。でとそれだと憧れ……というよりはリスペクトになるんじゃないか?」
「確かに。言われてみればそうだね」
しばらく静かになる。
しかし、その間を破ったのは儚火だった。
「そう思ってくれてるんですね!華道家って、結構大変なことが多いんです。求められるセンスとか、生花の調達だとか。」
「華道家自体をよく分からないけど、生花は自分で探すのか?」
「他の人がどうするかは分からないですけど、私は出来るだけ自分で調達します」
生花を調達、と簡単に言うがそれは実際にはなかなか難しいことだろう。
「ふむふむ、それも華道家ちゃんのこだわりってところかい?」
「そうですね!まぁ、お花屋さんを利用することもありますけど」
華道家というのはきっと好きなだけではトップになれないだろう。それは他の才能だって言える。
「それでも、やっぱり生花が大好きだから乗り越えられるんです。好きこそ物の上手なれですね!」
「うんうん、いいことだよ。私も見習って、監督という才能を更に伸ばしていこうと思う」
才能か……。自分は幸運という、あまりにも曖昧な才能だ。はっきりとした才能を持った二人ならではの会話だと感じた。
「…っと、もうこんな時間か。そろそろ私は部屋に戻るとするよ」
「あ、秘星さん待ってください!お部屋近いですし、途中まで一緒に帰りましょ!」
「……」
「それじゃあ、大原さん!また夕飯の時に会いましょう!」
秘星を追いかける儚火、無言ながらもそれを待っている秘星。
二人の姿は、オレの目にはとても微笑ましく映った。
まだ夕飯には時間があるな。
せっかくなら他の人の話も聞いてみたい。
さて、どうしようか。