二章 コランバインのバラード【前半】
第一校舎一階の男子トイレの前に着いた。
幸い、道中で他の人に会うことはなかった。
コソコソするのは好まないが、今回ばかりは致し方ない。
「よォーし、じゃあ桐谷クン任せたよォ」
「うん!!内沢も見張り頼んだよ!」
そして桐谷は、鍵を指の先で回しながら近くの個室に向かう。
「……桐谷!まさかその鍵……」
「そのまさかだよ!」
便器の前に立った彼は、思い切り手を振り下ろした。
チャリーン
ジャー…
「うわああああ!」
「何?これで解決じゃん!」
「いやいやだって!鍵をトイレに流すって……。トイレ詰まらないか?」
「そんな小さいの、詰まったりしないっしょ!」
深くため息を吐く。流してしまったからもうどうにもできない。でも、桐谷はそれが目的なのだろう。鍵を流してしまったのだから工事の人を呼ばなければ、簡単にはあの凶器を手にいられないのである。
「そして大原!お前は俺の証人ね‼︎」
「しょ、証人!?」
「だからさ、もし何かが起きてあの模擬刀のことが他の人に知られたとするよ!そしたら、今の鍵を本当に処分したか疑われたりするかもでしょ?」
桐谷曰くその証人は、間近で見たオレと見張りをして音を聞いている内沢だそうだ。
「保険だよ保険!まぁ、何も起きないのが一番だけどね‼︎」
模擬刀の場所なんて気にする奴はいないと思うが、何もしないよりは安心するだろう。
何かあって疑われるということも無きにしも非ずだ。
「内沢!終わったよ!」
見張りをしてくれていた内沢に声をかける。
「おォ〜おつかれェ〜。トイレに流すとは考えたねェ〜」
これで一件落着だ。ひとまずは。
考えに考えていたからか、ここでドッと疲れが押し寄せる。
「よーし!とりあえず解散しようよ!今のことは絶対他言無用だからね‼︎」
「はーい、分かったよ……」
とりあえずここで解散となった。
誰かに見つかる前に退散しないと……いや、もうコソコソしなくていいのか。
「にしてもめんどくさかったね‼︎」
「そうなのか?テキパキ動いてたからそんなこと考えてるとは……」
「めんどくさくても、市民の安全を守るのが警察の仕事だからね‼︎」
そう言うと桐谷は足早に去っていった。
どことなく頼もしく見えた。
「じゃあ私も帰ろうかなァ〜。ちょっと部屋でやりたいことあるしィ」
「内沢はこれから何をするんだ?」
「えェ〜、大原クンってそういうの気になるんだァ?」
「は!?いや別になんとなく……ってかさっきの動画消しとけよ!誰かに見られたら摸擬刀を隠したことも意味がなくなるんだからな!」
危うく注意をし忘れるところだった。呼び止めておいてよかった。
「……チェ、なんも言われなかったら残しておこうと思ってたのになァ~」
「はぁ、今釘を刺しておいてよかったよ……」
相変わらず何を考えてるのかよく分からない。
そういうミステリアスなところが彼女の持ち味なのかもしれないが。
とりあえずオレも動くか。
まだ夕飯までに時間がある。
さて、何をしようか。