二章 コランバインのバラード【前半】
「は?被服室?」
桐谷が怪訝そうな目をこちらに向けてくる。
「なんだ、桐谷は被服室にまだ入ってないのか?」
そうだね〜!階段を上がった時すぐにお前らのとこに行ったからさーと、存在自体を知らないようだ。
「私は被服室があるのは知ってるけど、まだ入ってないなァ」
でもどうして「被服室」なんだ?
と二人に問われる。
それはそうだろう。
被服室に金庫があるわけでもなんでもない。
「あそこはな、おっそろしく怖いんだ!」
それだけ?
ああ、それだけだ!
「まぁ、幸運のお前が言うんだからなんかあんじゃない?」
「えェ……行き当たりばったりィ」
とりあえず何もしないよりはいいだろ。
自分でも無計画だとは思う。だけど何しろ予定されていなかったことが起きたわけだ。凶器なんて見つけるつもりはなかった。
大体それもモノゴンの仕業だろう。
あの性悪トカゲのこと。コロシアイのためにならなんだって用意するはずだ。
桐谷がその刀を持って、三人で茶室を出る。そして、先ほど自分が逃げ出してきた被服室へと走る。
「そんなに急がなくてもいいんじゃないのォ?」
「さっさとやること済ましてしまいたいからな」
溜息と共にそう吐き捨てると、隣からププッと笑い声が聞こえた。
「あはは!大原がそんなに嫌がるなんてどんな部屋なの?」
「はぁ、桐谷も行けばわかるよ。」
そんな会話をしているうちに、その教室の前についてしまった。
この教室に入るには覚悟がいる。とりあえず落ち着こう。
深呼吸して……。いったん目を閉じて……。
がらがら……
「うわァ~、なんか暗いねェ~」
「えーと、照明のスイッチはどこ?」
目を開ける前に、扉を開ける音に内沢と桐谷の声が聞こえてきた。
聞こえてきた。
この部屋に何があるか、知っている者と知らない者とでは心構えが違うみたいだ。
「も、もう入っちゃったのかよ!」
「……さっさとやること済ましたいって、さっき誰かが言ってたと思ったんだけどなァ~?」
「うっ、それを言われるとな……」
か、覚悟はいいか?オレ!
心の中で自分に掛け声をしてから、被服室の中に入る。
ああ、やっぱ怖いよここ……。
ぱちっ
一旦光が点滅してから、被服室が明るくなる。
こ、こういう照明って、明かりがつくたびビビるんだよな……。
「なんかこの教室さ、ドアと照明のスイッチがやけに遠いっていうかさ……。そこに行くまで転びそうだったし!」
スイッチの側で、桐谷が不満を言う。
「そうなのか?オレがさっきこの教室に入った時にはもう明かりはついていたから、気にも留めなかったな。ってそれより早くその物騒なもの隠そう⁉」
雑談している暇なんてないんだ。隠せる場所がきっとここにある。探さないと。
「それなら大原の前にも誰かがここにいたってことだな!」
「え?あ、ああ、そうだな。……うん?そういえばオレは、照明のスイッチを入れた記憶も消した記憶も無い。でも今ここに来たときは……。」
「もしかしてお化けとかァ?」
内沢がにやにやしながら、茶化してくる。
「何々?内沢ってそういう非科学的なもの信じるの?俺は信じないけど!」
「ジョークだよォ?……私たちが茶室で騒いでる間に、誰かここに来てたんじゃない〜?」
早く隠さなきゃいけないのに、ついつい二人とどうでもいい話をしてしまう。
「そろそろ、隠し場所探そうよ……!」
「え、被服室って言ったのは大原だし、もう場所は決まってるんじゃ?」