二章 コランバインのバラード【前半】
「これ、本物の刀かなァ?」
特に何かを弄ったりする様子はなかったので、自分は見ているだけに徹していた。が、突如内沢の口からは物騒な単語が聞こえた。
まぁ、見慣れないものをみつけたからといってそれを振り回すほど内沢も無謀ではないだろう。
「刀?」
それに釣られてか、桐谷も茶室に入ってくる。
「模擬刀じゃなくて?」
「なんだっけェ〜。
当たり前だが模擬刀だって刀だし鞘はある。
だから、それが本物かどうか判断するには刀身を見てみないとな。
「まぁ、本物かわからないにもしろ危ないことには変わりないし……ここは警察官でもある桐谷にでも預けたほうがいいのか?」
「え」
「なんでェ〜?警察官だからって言ってそれを凶器にしないとは限らなくないー?」
「……そ、それは」
確かにそうだーと思ってしまった。
しかし桐谷もいる手前、そんな事言えない。
「まぁ、内沢の言うことにも一理あるよ!……警戒は大事だし?悪い警察官もいるかもだし!」
案外、桐谷は全然気分を害していないらしい。
オレの心配も、杞憂に終わった。
「なるほど……。そうだな。うん、そうだよな。ははは〜……ってじゃあどうすんのさ!刀をこんなとこにほっぽってたら悪い奴が簡単に持ってっちゃうよ!?」
「まぁ、この刀をどうするかの前に本物か見つけるのが先でしょ!」
そう言って、桐谷は内沢の手からその刀を受け取る。彼の手はその
先程の襖の件があるし、きっと容易く刀を抜いてしまうのだろう。
「よし、いくよ!!」
「お、おう!頑張れ!」
「頑張れェ〜。ドキドキするねェ〜」
勢いの良い掛け声をしておきながら、それは抜けずにただシーンとしてる。
なんというのか、「
「ーおいおい!そんな勿体ぶるなって!」
そう言うと桐谷は、刀を抜く姿勢は変えずに顔だけゆっくりとこちらに向けた。
「……ねぇ、大原」
ただならぬオーラだ。何かあったのか。
「えっと……どうしたんだ?」
……。
「お、俺の力でも抜けない……!!」
「ええェ〜!それって何かの呪いかなァ〜!」
「そ、そうだよ!呪いだよ!大原くん助けてぇ!」
あぁ、なんだ。拍子抜けした。
「二人とも悪ふざけはよしなよw」
「冗談だって!でも、俺でも抜けないのは本当なんたよね!」
「呪いってのは嘘だよォ〜……多分?」
確かに、桐谷は力を抜いていたようには見えなかった。もし、抜いていたとしてもそれは桐谷にとってなんのメリットにもならないしな。
「ということで大原!お前に任せたよ!」
突然の発言にビックリする。
「なんでさ!?オレ多分桐谷ほど力無いよ?無理だって!」
「えーっと……ほら確かお前って”超高校級の幸運”じゃん!もしかしたら?まぐれとかあるかもしれないよ?」
それに私も桐谷クンも試してみたしィ、大原クンもやってみたらァ?という内沢の一言で、オレもその刀を抜くことになってしまった。
正直に言うと、刀とか刃物を持つってなんか苦手なんだよなぁ。包丁とかは調理道具だからいいけどさ、刀とかもう人を傷つけたりしちゃいそうなものだよ。
まぁ、でも桐谷の言う通りまぐれもあるかもしれない。
柄に手をかけ、思いっきり引っ張る。
……。
「うん。無理だ!!無理だったな!知ってたけど!」
結局それは抜けなかった。
なんでだろう。普通じゃあり得ないだろうし……。
「なんか接着剤でもついてんのかなァ〜」
「まぁ、そう考えるのが妥当だよね!」
「ふゥん……ま、いいや。面白い動画撮れたしィ~?」
いつの間にか内沢はモノタブで撮影していたようだ。
「えっと、なんで撮ったんだ?」
「三人がかりで刀を引っ張ってる様子ってなんか面白くなァい?」
「そんな理由で……まじか‼」
「うんうん、まじだよォ~」
幸い、ネット環境がここにあるわけではないからSNSに載せられる可能性は無い。放っておこう。
ビデオのことは置いといて、とりあえず、しばらくはこの刀が本物かどうかは分からないままになるということだ。
「刀身を使うことは不可能だけどさ、鞘越しでも威力としては十分だからね!あ、あとこれののとはとりあえず模擬刀と呼んでおこう!」
誰に預けても危険性はあるし、どうすればいいんだろう。
はぁ……。事件が終わったというのに凶器になりそうなものも出てきて。次々に問題は増えるな。
「手の届かなさそうなとこに隠しておくしかないね!」
「そうだな……。どこか良い場所はないか?」
人に見つからない場所……見つからない場所。
「そうだ!被服室だ!」