二章 コランバインのバラード【前半】
被服室から逃げるように廊下へと転がり出た。
……うっわぁ、えげつないものを見てしまった。
あんな気持ちの悪い人形なんかがあんなところに?
もしかして、生徒が授業で作った物なのだろうか。廃校にするんだったら掲示物くらい片付けろよな、と悪態をつく。そんなことを言ったところで聞き入れてくれる人はいないことは明らかであるが。
こんな理由もあるし時間の問題もある為、いつまでも被服室の前にいるわけにもいかない。
よし!気持ち切り替えて他の場所を調べるか。
このフロアで未だ見ていない場所はあそこの襖の部屋だ。
何やら和室でもありそうな雰囲気である。
ガタガタッ
そちらに目をやると内沢が襖をいじっていた。
「えっと……。内沢は何してるんだ?」
「あ、大原クンだァ〜。見ての通り、襖を開けようとしてるだけだよォ」
建て付けが悪いみたいだねェ?と言いながら襖を引っ張ったりこじ開けようとしたりする彼女の姿は、襖と乱闘している人のようだ。……とは口にできないな。
「開かずの間ってことで後回しでいいんじゃないか?」
「大原クンはそうしたらどうかなァ。私は今ここが気になってるんだよねェ〜。なんか、怪しい気がするよォ」
確かに何があるのか気になるところではある。
ガタガタッ
襖は相変わらず少し揺れるばかりで、一向に開きそうな気配はない。
「ちょっと代わって」
いつのまにか来ていたのか、桐谷が背後に立っていた。
「コツがいるんだよ。えーと、多分こうだ。……よいしょ。」
一枚の襖の端と端を掴み少し持ち上げる。
あんなに内沢が苦戦したのも嘘かのようにあっという間に襖は開いてしまった。というか襖を退いてしまった。
「おお。警察の知識ってやつか?流石だ。」
「いや、これは俺のおばあちゃんのおかげでついた知恵だよ。あの家、古くてこういうこと多かったから。俺が直してたの」
「お、おう……。」
進められるようになったのはいいのだが、この外して床に置かれている襖はどうするのかな。
「……桐谷クンありがとォ〜。おかげで入れるよォ」
桐谷が話をしている間に、内沢は躊躇無く奥へと進む。
「あ、おいちょっと待て!」
急いでオレもその部屋に入った。
内装を見た感じ、和室には違いない。
入ってすぐ目に入ったのはお掛けものだった。
そしてその横には花が飾られている。
真ん中にある机の上には、種類は素人である自分には分からないがそれは上等そうなお茶碗が置いてあった。
状況的に茶道をやる部屋……茶室だろうか。
となるとあの花も茶花ということか。
今は五月で、そこに飾られている花は紫。
儚火ではないので、そこまで詳しく分からないがきっと紫蘭だろう。
今ここに儚火がいたらそれを見て喜びそうだ。
しかし、これは造花なのか?全く枯れているような様子はない。ドアがなかなか開かなかったことから察するに、この部屋はあまり人の出入りがなかったものだと思ったが。
普通茶花とは生花だと思う。
後で儚火に聞いてみようかな。折角専門の人がいるのだから、聞かないのはもったいない。
……とついつい、部屋の中にばかり目がいってしまう。
追いかけた先の内沢は何しているんだろう。彼女はトラブルメーカーというわけではないが、なんとなく目を光らせておかないといけない気がする。
失礼なのは承知である。