一章 季節外れのプリムラ【後半】
「パンパッカパーンッ!おめでとうございます!初っ端から犯人を当ててしまうとは、やるねぇ〜。正解だよ、犯人は明石大和クンでしたぁ〜!」
モノゴンの声が響く。
横で一郷が無言で微笑みながら拍手しているのもなんだかむかつくな。
結果を聞いても、ああなんだ明石だったんだ。
オレはそんな態度だった。
他の皆がどうかは分からないが、大体は呆けていたんじゃないかと思う。
もう何もかも疲れすぎて、そうなんだ、としか思えない。
もし次にお前が死ぬんだよ、と言われてもうんとしか返せないかもしれない。
「……そういえば結局伊織さんの事故はなんだったんですか?あれも明石さんの仕業なんですか?」
「そうだよ。できればあの一回で仕留めたかったね。」
悪びれる様子もなく明石は呟く。
窓を事前に開けておいて、自分のネームタグについていたネックストラップを繋げて鉄骨に挟んでおいた。花火も誘導のために奥に置いた。
正直その時は誰でもいいと思ってた。伊織に当たればいいとは薄々考えていたけど。
ストラップにつまづいて躓いて転んだところに空いた窓から石像を倒してドミノ形式で下敷きにした。
運がいいのか悪いのか、そこで伊織は事故にあった。
もういい。話すな。つい途中で遮ってしまう。
「本当に……最低最悪な人間だぜ!俺こいつ殴りたい」
「ダメだよ弥音くん……殴ったらなんか罰されそうだし」
「うへぇ〜窮屈な世界だぜ……」
「……あと、これだけは教えてよっ!どうして、蒼太くんを殺したの?」
またまた静寂が訪れる。
同情はするつもりはないが、どうしてなのかは聞いておきたい。
「伊織さんじゃなくても良かったんだよ。僕が外に出られりゃそれでいい。僕は外に出なくてはいけないんだ。……でもまぁ、才能溢れていて憎ったらしい伊織さんが無事引っかかってくれて気分は最高だよね」
外に出たい、そして才能あるものが憎い。
繋がりが見えない。
「あまりこういうことを言うのは言い訳がましいから嫌いなんだけど、僕が認められる為に出さなきゃいけない論文があるんだ。
その期日がすぐそこまで来ているんだ。僕は認められなければいけないのに。」
「認められなくても、他の道で歩めば良かったのに。今回ばかりは仕方ないと思うぞ。」
励ましとも取れる嫌味を明石に投げかける。
正直に言えば、明石の都合に巻き込まれた伊織が不憫で泣けてくる。
「才能がある奴等はすぐ簡単にそう言えるんだからいいよなぁ!僕なんて必死に努力したのに……やっと認められるかもしれない機会でこんな事態だなんて!才能があるやつがどれほど憎いか……」
「僕は伊織さんの「信じれば叶う」という言葉が許せなかったんだ。苦労もしていないくせにッ!それで、途中までは出る為だったのに、いつのまにか憎い奴を殺したいって気持ちになっていたんだ」
全く分からない話を聞く。
どこまで自分本位な男なんだ。
本当に呆れるし、同じ人間だと思いたくない。
「そもそも、今回の事件でもなんでもその努力を良い方向に使えなかった時点で才能なんて無かったも同じじゃないかい?」
秘星の鋭い言葉が刺さったのか明石は無言になる。諦めたのだろう。
「そういえば、石像と焼却炉でまだ疑問点があるんだけど……。」
まるで禁句を口にしてしまったのかのように明石の鋭い目で睨まれたような気がした。
「……焼却炉は分からない。確かに燃やしたはずだ。なのにどうしてか、知らぬうちに火が止められていた。リモコンも溶けていないし……。意味がわからない」
彼の顔を冷や汗が滴り落ちる。
「それと、殺してしまった後パニックになったんだ。どうやって短時間で隠そうかって。そしたら、さっきまで無かったはずの石像が置かれていたんだ。不審に思って辺りを見回したら、木の上で誰かがいて、目があったんだ。
こっちを見て、ニコって笑ったんだ。
それも何かを企んでいるような嫌味のない笑みで。顔はなぜかはっきり見えなかったんだ。自分のいた場所から遠かったというのもあるかもしれない。でも見ちゃいけないって本能が告げていたように思う。
でも、なんとなく、なんとなく……信じ難いがあの髪の色は……」
そこまで言いかけたところで、あたりが一気に静まり返る。
ゴクッと、明石が唾を飲む音が聞こえるほどに。
やっぱり、証拠がないし分からない…。
そう言って、彼は一向に喋らなくなった。