一章 季節外れのプリムラ【後半】
河「それで、死因に凶器、そして現場が判明しましたけど私はまだ犯人なのでしょうか?」
決定的な証拠は無いが、今のところ河西が犯人の線は薄い。
大「……あの重い釣瓶を短時間で動かさなくてはいけない。伊織の遺体を引き上げるとき、男三人でも大変だった…。まぁ、伊織の重さというのもあるんだけど釣瓶自体も重い。」
架「……それを女性一人で持ち上げるとなるとかなり無理があるね……。前頭部を殴るにはかなり上にそれを上げなければいけないし」
桐「そうだねー。まぁ河西が犯人じゃないでいいんじゃない?」
鑑「そうですね。先程は疑ってしまい申し訳ございませんでした。」
河「はは、私と一緒にさよならってことにならなくて良かったんじゃないですか?」
すまなかった、と鑑以外も疑った人達のほとんどが河西に謝罪する。
櫻「でも、どうして縄を絞めてたのかは気になるけど……。」
河「先程も言いましたが地面に落ちていた縄を締め直しただけですよ。私の予想通り、その縄でドアを開かないようにしていたのには大変な理由があったらしいじゃないですか。」
私はアンタ達と違って、何かが起きないために対策をしたりしてるんですよ。
はははっと声は笑っているのに彼女は真顔である。少し怖い……。
櫻「うーん、じゃあとりあえずここでみんなのアリバイ確認しよっ」
白「……8時から8時15分までのアリバイでいいかな?」
櫻「そうだねっ!そうしよっ!私は8時あたりは寮にいたよっ!8時10分くらいに屋外のカフェでも行こうかなって思って外に出たのっ!そしたら、先客がいて話しかけたらそこでアナウンスがなったかな〜」
桐「先客?」
櫻「大和くんだよっ!やけに汗かいてたからビックリして話しかけたんだ。」
明「今日は暑かったからな……。探索してたのもあって汗が。」
内「それで、明石クンのアリバイはァ〜?」
明「そうだな。8時には百鬼さん、四津谷さんと一緒にいたよ。それで、そこから少し探索した後10分くらいにカフェで一息してた。そしたらしばらくして櫻井さんに話しかけられたよ。」
百「そうですね。偶然明石さんに会ったんです。彼の情報のおかげで伊織さんを見つけることができました。」
桐「……。」
四「俺ちゃんも紗月と一緒に行動してたから分かるぜ!あの時は大和に感謝したぜ」
百鬼と四津谷のアリバイはお互いが保証しているらしい。
この二人が、8時から8時15分まで何していたかはもう言うまでもなく分かっている。そのおかげで伊織を見つけることができたのだから。
そしてそれに関しては、一緒に捜索していた桐谷と白石、オレと儚火、ローゼンと鑑も同様だ。誰も二人ペアで移動していたのが良かったのか、アリバイは確証されている。
内「じゃあ後は私と出口チャンのアリバイかなァ〜?私は8時から8時15分までずっと図書館で本読んでたよォ」
出「……わたしも、ちょっと図書館で聖書ば読んじょった。」
この二人もお互い保証されている。
櫻「うーん、どうしよう……。みんなアリバイがあるということ?なす術がないよっ!」
河「……そういえば殺害時刻って本当に8時から8時15分までだったんですかねぇ。」
どういうことだ。思わず聞き返してしまう。
8時には生きている伊織を百鬼と四津谷、明石が目撃しているのだ。
桐「そこなんだよなぁ。不思議に思うことがあってさ。」
秘「んー、どういうことだい?不思議なことって……。あの時間帯以外には不可能に思うけど」
桐「死斑って分かる?亡くなってから身体の低位置が紫赤色に変色したやつのことなんだけど。」
櫻「死斑ねっ!分かるよ。大体亡くなってから1時間同じ姿勢で置かれていると出てくるんだよねっ」
桐「そうそう。それがさ、伊織の背中にちゃんとあったんだよ。」
ハッと数人が何かに気づいたかのような顔をする。
内「ああ、なるほどねェ〜。つまり 一 時 間 経たないと出てこない現象ってことかァ〜」
桐「急死の場合はもう少し早くなるかもしれないけど、約15分以内に殺された遺体に死斑があるとは考えられないよね?」
ロ「真飛さんが疑問に思っているのは、15分前に生きていた筈の人間にどうして死斑が現れているのか、ということでして?」
桐谷が頷く。
確かにおかしな話だ。
秘「つまり、紗月ちゃんらがサッカー選手くんを見かけた時には既に彼は生きていなかったということ?」
四「うぎゃー!!!それって幽霊じゃないかよぉ〜。そういうのってアリなん!?」
幽霊だとかゾンビだとか、そういった非現実的なことは起きないだろう。
もしそういうこともあるのなら今すぐに気絶してしまいそうだ。
鑑「……いや、もう一つ可能性がありますよ。伊織様がまるで生きているように見せかけたということもあり得ます。」
大「ああ、その通りだ。そういえば倉庫の丁度伊織が見えたという窓の前に椅子が移動してあった。そこに血がついていた。」
白「なるほど、そこに伊織さんの遺体を座らせておけば背中だけ見れば生きているように見えるね」
百「!?で、でもそ、それはどうだろう?私達はしっかり声を聞きました!」
焦った口持ちで百鬼が反論する。