一章 季節外れのプリムラ【後半】
ー学級裁判再開ー
河「……少し休憩の時間を挟みましたがどうです?落ち着いてみても私が犯人だと言いますか?」
儚「……あまり、言いにくいのですが今の時点だと……」
鑑「証拠が少ないので絶対そうだとは言えませんが、それでも河西様が怪しいというのは私も同意見です」
頭を冷やしたところで、疑惑は晴れないようだ。河西は違うと思う、と言いたくなるが証拠を持っているわけでもない。ただの勘なのだ。
河西の言葉に誰も否定できずにいると、彼女は少し意地悪そうに口角を上げ話し出した。
河「まぁ、私を疑うのは構いませんよ。その代わり私と一緒に心中という結末にはなりますが」
鑑「どういうことでしょうか。」
河「はは、さっきそこの学園長が言ったじゃないですか。もう忘れたんですか?正しいクロを指摘できなかったら、クロ以外の全員はオシオキ……オシオキって大方処刑といったところじゃないですか?学園長」
モ「さっすが河西サン!その通りだよ、察しがいいね〜」
辺りが騒めく。オシオキと言っても所詮独房に打ち込まれるなどといったところだろうと高を括っていた。
処刑って、殺されるってことか?
じゃあ間違えたら俺達死ぬのか?みたいな声がそこら中から聞こえる。
何を今更、といったことを言いながらもニヤッと河西は笑っている。
河「良いんですよ別に。アンタ達が私と一緒に死んだって。」
桐「……!確かに証拠は不十分だ。もっと慎重に考え直そう。」
少しホッとする。良かった。
とにかく今は犯人が誰かというより、ちゃんと情報を整理しなおそう。
大「じゃあ、とりあえず今分かっていない謎を解いていこうよ。例えば死因だとかちゃんとした殺害時刻、現場。」
櫻「そうだねっ!それくらいは分かっておかないと何も始まらないよっ!」
議論開始——
櫻「まずは死因を解明しよっ!」
白「確か……絞殺じゃないんだよね?」
桐「うん。さっきも言った通り他殺と絞殺だと痕が残るよ」
内「そっかァ〜。あ、そういえば打撃音がしたって言うけど、それじゃないのォ?」
鑑「確かにそうですね、死因は暴行……殴ったなどそういったところでしょうか?」
大「【前頭部に切り傷】があった。だから、何か刃物で切ったんじゃないか?」
百「でも誰か、そんな凶器見つけました?」
秘「いや……見てないよ」
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桐「それは違くない?」
突然の反論だ。まぁ議論だから反論は来て当たり前だけど。どこが違うのか、正直分からない。
桐「何が違うって、【前頭部の切り傷】だよ。本当に凶器は刃物?それならそれはどこにある?そして、それが仮にも切り傷だと言うならどうしてこんなにも出血は少ないの?」
確かに言う通りだ。証拠の凶器は見つかっていないし、出血があまり無いのも分かっている。
桐「切り傷っていうのは大抵出血が多くあるんだよ。少なくて済むのは
超高校級の警察官というのは伊達ではないようだ。
白「……じゃあ、真飛は何だと思うの?あの創……は。」
よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに桐谷は話し出す。
桐「あくまでも俺の解析だ。普通なら法医学者が解剖したりしてわかることだらうからさ。
恐らく鈍器によるもの……その切創(刃物によりできた傷のこと)に見えたものは、破裂創だ。」
破裂創というのは、一見切創に見える。だからきっとそれだろう。でも破裂創はあまり血は出ないものだよ。他にもいくつかの傷があった。それらのどれかはきっと
流石の知識に圧倒される……。
なるほど、確かに……。
河「……というかその様子だと、最初から自殺じゃないって分かってたんじゃないですか?」
桐「……とりあえず自殺ってことにしといてすぐ終わらせて、後でゆっくり考えよって思ってさ。でもオシオキがあるならそれは無理だなーって」
分かってたなら最初から言って欲しかったが……仕方ないのか?
大「でも、凶器が分からないのには変わりないじゃないか。」
桐「……ここにいる全員が、一度その凶器を見ているはずだよ。」
どういうことだろう。
凶器は未だどれか分かっていないのに。
桐谷に聞こうも、説明で疲れたしめんどくさいから後は自分たちでがんばってねといった態度で取り付く島もない。
議論開始——
出「わたしたちが皆見てる?そげん凶器あったらすぐに知らせちょる」
儚「私もです。そんな凶器見てませんよ。」
明「……一体それはなんだって言うんだ?」
桐「ヒント〜灯台下暗しってね?調査して何か不自然なものがあったはずだよ。」
内「不自然なものォ〜?うーん、あの銀色の釣瓶とか?どう見ても水がくめない仕様だったしねェ〜?」
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大「それに賛成だ!」
内沢の言う通りだ。
あの釣瓶には至る所に不自然なところがあった。
内「あ〜大原クンも分かっちゃったァ?」
ロ「……どういうことでして?水がくめないからといって釣瓶が凶器となる意味が分かりませんわ。」
分かってもらうためにまずは釣瓶の不自然な点をあげよう。
大「……あの釣瓶は、外側が恐らくプラスチックでできてる。それで中に何か金属のようなものが入ってるんだ。そして、そのプラスチックの角が少し欠けていて中のものが見えていた。」
大「あんな欠け方をしているんだから、よっぽど硬いところに打ち付けたとしか考えられなくないか?」
儚「確かに……一理ありますね。しかし、金属とはいえそんなに威力のあるものなのですか?」
大「オレは……理科は得意じゃないからそこまで分からないが、推測で言うと鉛とかそういった金属なんじゃないかって思うぞ」
鉛は、確か水に浸かると黒く変色すると習った。
あのプラスチックのような外側から見えた中側の金属は水についているところは黒くなっていた。比較的水から遠いところのものは銀色のままだった。
桐「確かに。鉛が入ったプラスチックは重いから、そのせいで前頭部に破裂創、挫創ができたんだ。」
白「そっか!プラスチックや鉛なら血がついても流すことができるね」
それは盲点だったが、隠蔽にはもってこいかもしれない。
じゃあ凶器は判明した。
秘「じゃあ、元々その釣瓶は井戸のものだったのかい?」
架「いや、備品リストに載っているのを見ると「重り」と書いてあったよ。別に「木の釣瓶」ってのがあるから……多分付け替えたんだ」
秘「だとしたら、どうして付け替える必要があったんだろうね?」