一章 季節外れのプリムラ【後半】
—倉庫—
倉庫の入り口に着く。
入り口には先程桐谷が解いたロープが落ちている。
思い切ってドアノブを引っ張る。
ギィ……
簡単にドアは開いた。
「うげぇ……なんだか嫌な雰囲気。」
「これは……事故当時の状態のまんまだね」
四津谷が見つけた血痕も変わらぬままだ。
このまま捜査すると怪我をしそうだが、今は背に腹は変えられない。
「よし、捜査…するか!」
倉庫の電気はつけっぱなしであった。
その為電気のスイッチを探す手間は省かれた。
床の血痕は、何か血が出ているものを引きずったようなものである。
まさか……伊織を?考えたくもない。
引きずり痕は入り口から中央の窓付近の椅子の前まで続いている。
とりあえず、その様子を写真に収める。
血痕の行く先にある、中央窓付近にある椅子。
特に傷がついたりはしていないのだがどこか違和感を覚える。
ちょっとした赤いシミは見つけた。
そして、椅子の横には誰かのモノタブが置かれている。開こうとしてもロックがかかっていて誰のものか分からない。
「モノゴン!見てるなら出てこい!」
監視カメラに向かってダメ元で叫んでみる。
するとすぐに現れた。モノゴンじゃなくて一郷が。
「すみませんね。学園長は今お昼のワイドショー見る時間でして……。代わりに私が承りましょう。なんですか?」
伊織のモノタブを直してくれるんじゃなかったのか。
「このモノタブのロック解除もお願いしていいか?誰のか分からないんだよ」
「申し訳ございません。当学園は生徒のプライバシーには厳しくしていまして……。」
承ると言ったのに!
文句も聞かず一郷は消えてしまった。
気持ちを切り替えて次はどこを調べようと頭を悩ます。
そういえば道中見かけたあの二体の石像……。
急いで本棚の後ろを確認すると、先日はあったはずの石像が無くなっている。
ああ、やっぱりここの石像だったのだ。
そして石像があった場所のすぐ後ろにある窓が開けっ放しになっている。何か関係があるのだろうか。
写真に撮る。
さて、この先も捜査したいのだが事故の時のままだからなかなか踏み出せない。
「……事故の時の証拠が出てくっかもしれない」
意を決して奥へと踏み込む。
ただあるのは、床に落ちた薄汚れた刃物やなんらかの器具だ。
なんもないか、と諦めかけた。
その瞬間異様なものが目についた。
「青い紐…?」
床と同系色だったからかよく見ないと見つけられなかった。
他のものは古びているのにその紐だけは汚れがあまりなく、周りと合わなさすぎる。
触ってみるとそれは硬い。
そして長い。どこまで続くか目で追うと、それは鉄骨の端に挟まれていた。
「えっと…その鉄骨は」
紐を挟んでいる鉄骨は上には何も乗っていない。
架束がその鉄骨に手をかける。
「うん、重いけど頑張れば少し持ち上げられる。」
大きさも小さいからか、あまり力のなさそうな架束でも持ち上げられるらしい。……いやそれは架束に失礼か。しかし、女性では持ち上げられるのだろうか。
「出口。ちょっと持ち上げて見てくれないか……?」
「?分かった。」
「んぐぐ……」
無理だ。何とかやっても少し浮くくらいで動かすまでには至らない。
それはおいておいて紐にまた注目する。
結び目…?同じ紐で固結びされている。
よくよく見れば、この紐があった場所は先日伊織が倒れていたところだ。
これも重要事項としてメモをしよう。
写真を撮った。
「ああ、そこに落ちてたんだけど」
架束の持つ本には「備品リスト」と書いてある。この倉庫にある物のリストだろう。
1ページ、1ページとめくっていくと、この「備品」は倉庫のものだけでなく学校全体に用意されている物だと分かった。道理でこんなにも分厚いのか。
ふと、とあるページで手を止める。
このバケツ…。
木でできた釣瓶だ。なんとなく、井戸についてそうな形だ。
しかし、先程見た釣瓶についていたものとは完全に違う。
また、ページを進めるとそこには「重り」と書かれたものがあった。もしかしてこれってー。
白黒なので色はわからないが、とある可能性を思いついた。
「そろそろ良かか?次行こ」
調べられるものは調べたように思う。
見つけたものは全て画像に収めた。
とりあえず一旦外に出よう。
—手に入れた証拠—
【入り口のロープ】
【床の血痕】
【シミのついた椅子】
【誰かのモノタブ】
【消えた石像】
【開けっ放しの窓】
【綺麗な青い紐】
【同系色の床】
【小さな鉄骨】
【備品リスト】