一章 季節外れのプリムラ【後半】
ー寮の廊下ー
「……なんで、寮に戻るんですか?無駄な時間ですよ」
「……伊織さんの部屋に何かあるかもしれないだろ。もしかして、書道家さんはそんなとこまで頭が回らないのか?」
「……私のことならまだしも書道家を馬鹿にするなんて……!」
「……はい、どうどうどうどう〜」
廊下がやけに騒がしいと思えば、河西と明石が言い合いをしていた。
仲裁をする儚火の顔が真っ青だ。
「なんだ、河西達もここに来たのか。」
「何ですか。来たらいけないんですか?」
「いやそういうわけじゃないけど……。」
話している暇はないのだが、スルーするわけもいかない。
どうやって諌めようか悩んでいると、明石の顔を見て彼の才能を思い出す。
「あっ明石お前、超高校級の物理愛好家だよな」
「それが何だ」
面倒事を押し付けるなよ、とでも言いたいように彼はため息をつく。
「伊織のモノタブが見つかったんだ。録音が一つ残っていて。でも誰の声かわからない……それを音声解析してほしいんだ。できるか?」
彼は眉を潜めた後、お安い御用だと呟いた。
承諾してくれたのは驚きだが何よりも助かる。
「そういうわけで僕は自分の部屋へ戻る。音声解析に集中したいから一人にしてくれ」
それじゃあ櫻井の提案の意味が……。
しかし、そういう性格なのなら仕方ない。
「……そういえば、私の懐中時計まだ見つからないんです。可能性としては図書室なんですけど。行く暇がなくて」
今言うことか、とも思ったがきっとそれは彼女の大切なものなのだろう。
それに、その無くしたという時間は伊織の事故の時間だ。行ってみる価値はあるかもしれない。
解析を任せ、図書室へ足を運んだ。
—手に入れた証拠—
【明石の音声解析】