一章 季節外れのプリムラ【後半】
「そろそろ、桐谷さん達も井戸の調査終わったんじゃない?」
井戸の調査を全部桐谷達に丸投げしても良いのだが、こういった重要なものは自分の目でも確認しておきたいものだ。
二体の石像を通り過ぎる。
現在はローゼン達の班が石像付近を調べているらしい。
「この石像のおじサン不細工だよねェ〜」
「あら、笑さん。言葉遣いがよろしくありませんわ」
「ローゼンチャンの方が畏まりすぎなんじゃないのォ〜?」
「……シェリアお嬢様の仰る通りですよ」
なんというか、鑑も大変だな。
話しかけて状況を聞くのも良いが、捜査の時間がいつまでなのかも明確に分かっていないため迅速に動かなければならない。
井戸に着く。仕方のないことだが、地面に横たわる伊織の姿をまた見ないといけないのは胸が締め付けられる。
「伊織さん……可哀想……」
再び出口は祈りの姿勢に入る。
シスターとはいえ、人の死を見ることには慣れていないはずだ。繊細そうな彼女にはきっと辛いものだろう。
お祈り終わったら少し休んでて良いよ。
これくらいしか労わることができないが、何も言わないよりはマシだ。
「伊織の状態は……。」
首に縄で締められた跡がある。
きっとその縄は、この釣瓶を井戸と繋げているものであろう。
死因は絞殺か?今のところはそうとしか思えない。
しかし倉庫やその道中での血……これらは一体どういうことなのだろう。
考えられる可能性は伊織は他の傷を負っているということだ。
失礼します……と念の為声をかけ伊織の体に傷が無いから調べる。
彼の真っ赤な前頭部を触ると、自分の指が赤に染まる。
「うん、どうやら倉庫の血はこの怪我によるものだろうね。」
その傷口は、何かで切られたのかの様なものだ。頭皮は血で濡れているのか、赤い。
「見るのも痛いな……」
そして、伊織の右手からも赤い液体が滴り落ちていることに気づく。
伊織の右手の、手のひらと指に切り傷が平行に付いている。何故、このような傷があるのだろうか。
とりあえず、伊織の遺体に関してはここらでいいだろう。
次は井戸の中を覗く。
水は少し濁っているだけで特に何もない。
変なところがあるとしたらやはり、釣瓶と縄だ。
引き上げられたそれらを調べる。
「あれ?釣瓶って言うけど、これ桶のごて穴が無かね」
「確かに……。全く無い。」
釣瓶だと思っていたそれはどう見ても桶やバケツの形はしていない。水を入れるものがないのだ。
銀色のそれを繋いだ縄を引っ張ると中々に重い。
まるで重りのようだ。触り心地はツルツルしている。
叩いてみるとこん、こん、という音がする。
それを回してみると、やけに傷が目立つ。そして、底の方が少し欠けていることに気付いた。
その欠けたところから、黒くなった小さな金属のようなものが何個もあるのが見えた。
ひび割れているところがあまり大きくない為取り出すのは不可能そうだが……。よく見ると中の金属の色は、中心に行くにつれ銀色の部分も出てくる。
また、縄にはちょっと血がついている。
「……仮にこれが重りだとして、前からここにあったのかな?それとも元々は違うものだったのかな……。」
「さぁな……。この重りが最初から付いているなら、意味が分からないが」
「きっと後からつけたものじゃなかかな」
ここで、いつのまにか出口が戻って来ていることに気づいた。
「あれ、出口。お祈りは?」
「お祈りにそげん時間かかるわけなかよ。それより、早く調査せんば。ここはもう良かけん。」
「出口さんって……結構精神的に強いんだね」
辺りを見回してももう調べるところは無さそうだ。
時間も分からないので次へと進むことにした。
—手に入れた証拠—
【伊織の遺体】
【銀色の釣瓶】
【血のついた縄】