一章 季節外れのプリムラ【後半】
それじゃあ捜査をするか。
渋々重い腰を上げて相談を始める。
まずはどこを調べようか?
井戸という事件の現場は桐谷グループが調べており、別のところへ行った方が良さそうだ。
そういえば事件発生前、伊織は倉庫にいたような。
「なら、そこへ行こう」
オレの独り言を拾ってか、架束が意見する。
断る理由もないので、三人で倉庫へと向かう。
「あれ、あげんとこに石像っちあったと?」
出口の目線を追うと、そこには二体の石像があった。
「これは、倉庫にあったあの石像…?何故ここにあるんだ」
事件が起きる前に通った時にはなかった。
また、その石像の破損は倉庫のものと被っている。これで倉庫に石像がなかったら、そこからここまで運んできたということが確定する。
しかし、その石像は立ってはおらず横たわっている。まるで何かを隠すかのように。
「動かそうよ」
時間がない。怪しいものから徹底的に調査しなくてはならない。
「ぐっ……。」
まず一体の石像を三人で持ち上げようとする。
中々に重い。
「……転がせばいけるんじゃ?」
出口が石像を押す。
少し時間はかかったが見事、先に転がすことができた。
「これなら、三人で押せばすぐに退かせる!」
予想通り石像はごろごろと先に転がった。
赤い……。
石像の下の草の色が、何故か赤黒い。
こんな色の草なんて見たことがない。地面にも同じ色がついている。
「うわっなんだこれっ」
思わず叫んでしまうほど、それは異様なものだった。
出口が恐る恐るそれを触る。
「ちょっと指んついた……。地面に赤黒い液体が染みちょる……」
何故ここに血があるのだろう。
もしかして……。
もう一体の石像も転がしてみると、案の定赤黒いシミが現れた。
「ここにもか…これも恐らく血だろうな」
調査の為仕方ないとはいえ、人の血の痕を見るなんてげんなりしてしまう。
「あれ、そこの草むらで何か光った。」
「……これ、ガラスの破片…?」
架束の手には三角に尖ったガラスの破片を見つけた。
少し先に赤いものがついているように見える。
「……何か関係ありそうだ」
ふむ、とそれを見ながら唸っていると、とん、と誰かに背中を小突かれた。
「こんなのもあったよ」
架束の掌にはプラスチックの破片が乗っていた。それは、茶色で傷がたくさんついたものだった。
とりあえず、写真を撮ってそれらを元あった場所に戻す。
そろそろ別の場所へ移動しようと腰を上げた。
「あ、あと」
「草むらに、こげんもんあったばい」
出口が差し出してきたのは、モノタブだった。
「出口の?やけに傷ついてるなぁ」
一瞬、静寂が訪れる。
「わたしのはここにあるけん。これは多分誰かの」
とりあえず電源をつけて、誰のものか確認しようとする。
しかし、壊れているのか電源はつかない。
はぁ……壊れているのなら証拠にもならないな…。
そう呟いた瞬間
ピョコッと、音がした。
「はーい!モノゴンだよ!ボクの存在お忘れでない?」
「うわっなんだよ!?びっくりした……」
ボクがそのモノタブ直してあげるよ!
その言葉はとても信じられないが、他に手はない。
藁にもすがる思いでお願いした。
「じゃあしばらくしたら届けるからねー!バイバイ〜!」
そう言ってモノゴンは何処かへ消えてしまった。
「……倉庫に行く前にこんなものを見つけるとはね。倉庫に行こう」
架束の号令で倉庫へと向かう。
—手に入れた証拠—
【二体の石像】
【赤黒い草】
【三角のガラスの破片】
【茶色のプラスチックの破片】
【壊れたモノタブ】