一章 季節外れのプリムラ【後半】
「コロシアイん起きてしまうなんて!
なんちゅうことや!皆急いで逃げれ!
三十六計逃ぐっに如かず!」
鑑が取り乱しながら叫ぶ。
それに、逃げたくても逃げることはできない状況だ。それをまた思い知らされ怒る
それに、佐賀弁だねって櫻井が言うけど、もうよく分からない。
五島弁と佐賀弁が同時に聞こえて来てもうカオスだ。
「気にしないで。魅磨は取り乱すとこうなるのですわ……」
青い顔したローゼンが教えてくれる。
「は、はっはーん!ドッキリに違いないぜ!俺ちゃん気づくなんて天才?」
「……これは酷いね。いつまでもこんなところに置いておいたら寒そうだ」
伊織の死を恐れ、嘆きそして絶望する我々は阿鼻叫喚の有り様だった。
「ほ、本当に起きてしまうなんて…」
「……。」
河西も苦虫を潰したような顔をしている。
そんな中、一人平然とした顔がいた。
「それよりさァ、アナウンスの通りに『調査』始めた方がいいんじゃないのォ?」
こんな状況でもニコニコしている姿に正直ゾッとした。しかし、言っていることはまともである。…いつまでも嘆いてはいられない。
「……うん、辛いのは分かるけど調べた方が伊織の為だと思う。」
「そうだねっ、アナウンスの感じだと時間は限られているみたいだから…」
現実から目を背けたいのに、自分達で調査をしなくてはいけない。
目を背けたいのに、事件に踏み込んでいかなくてはいけない。
自然と涙が溢れそうになる。
でも、一番辛いのはきっと伊織だろう。
オレ達が悲しんでいてもどうにもならない。
「…これって本当に他殺なのかな。」
架束曰く、自殺ともとれるんじゃないかとのことだ。伊織の状況は、首に釣瓶の縄が巻きついて水に浸っている。
「とりあえずご遺体ん寒そうばい。じゃけん、伊織さんば引き上げしてくるったい?」
出口の言う通りだ。力のある者達で遺体を引き上げる。
遺体を引き上げるなんて、キツすぎる…。
男四人で縄を持ちひっぱるがとにかく重い。
時間をかけて、なんとか引き上げることができたが、汗だくになってしまった。
陸に上がった伊織の顔はとても真っ白だった。
水に浸かっていたのもあって触れるとものすごく冷たい。どこか、生きているんじゃないかって……どう見たってあり得ないだろうことだが期待していた。しかし、触れてみればそんな希望はすぐに打ち砕かれる。
命の火が灯っていないことに加え、水に浸かっていたのだ。
その体はとても冷たい。
「調査をする際に、三人ずつに分かれようっ!」
櫻井曰く、捜査中に証拠隠滅を謀る輩がいるかもしれない。お互いの監視をしつつ捜査に協力しようとのことだった。