一章 季節外れのプリムラ【前半】
「おおおおおおおおおい、床見てみろよ…」
突然、四津谷が叫ぶ。
床に目をやると、そこには…。
入り口から少しのところだけだが、真っ赤な跡がある。
顔を上げると目の前にあった椅子には僅かに赤い染みができている。
桐谷の悪い予感は、当たっていたのかもしれない。いやそれは、予感ではなく推理してのものだったのかもしれないが。
「……伊織を探せ!!!」
何かを察したのか、桐谷は押っ取り刀で倉庫を飛び出し何処かへ向かう。
それを皮切りに、全員が外へと出ていく。
分担して探そうだなんて、提案することも考えることも余裕がなかった。
桐谷曰く、恐らくこの倉庫付近にいるということだ。
急いで探さなければ。
一体何分探したのだろう。
足がヘトヘトになる。
疲れた…。
さっき伊織を探していたのとは明らかに緊張感が違う。それもあってか肉体的にも精神的にもキツい。
いやあぁあああぁ…
突然儚火のけたたましい悲鳴が聞こえる。
急いで、声のする方に走る。
どんどん木の生えているところに近づく。
進むにつれ、木も多くなってくる。
「どうしたッ!儚火ッ!!」
そこに見えたのは井戸の前で頭を抱えて蹲る
儚火の姿だった。
こんなところに井戸が…。
「何があったんだ!?」
次々と桐谷や先程のメンバーが集まってくる。
そして、しばらくすると何も知らないまだ食堂に集まっていなかった人達もやってくる。
「見ちゃダメだよ…もう、やだ…うぅ…」
遂に儚火は泣き出してしまった。
井戸に何が?
恐ろしい想像をしてしまう。
恐る恐る井戸を覗いた。