一章 季節外れのプリムラ【前半】
ー大原サイドー
ぴこん
突然鞄に入れていたモノタブが振動する。
なんだろうか。
画面を開くと、トーク画面だった。
どうやらグループも作れるらしい。
名前からして、一時的な集まりだろう。
【大原のモノタブ】
(本サイトの『ゲスト用モノタブ』から会話を確認することができます。下の黄色い字をタップしても飛ぶことはできますが、このページに戻ることがめんどくさくなるのでお勧めしません)
『伊織さん捜索グループ』
「見つかったらしいよ」
一緒に創作をしていた儚火と
食堂へと向かう。
「百鬼!」
「百鬼さん!」
どうやらオレ達が一番最後に来たらしい。
一番第二校舎から遠い、第一校舎と校庭付近を探していたのだから移動の時間がかかったせいだ。
「伊織は?」
「調べ物をしているから、忙しいって。」
「それで、どこにいたの?」
白石の問いに四津谷が答える。
「倉庫だぜ!なんか倉庫で調べ物していたみたいだ。」
「…待って、それは本当なの?」
突然今までの表情と打って変わって、桐谷は訝しげに百鬼と四津谷を見る。
その様子に二人は驚きを隠せず、「倉庫にいたらダメなんかー?」だとか言っている。
「……倉庫は、危険だから誰も入れないようにガチガチにロープで施錠した筈だけど」
そこまで聞いたところでハッとする。
「そうだよね?大原。」
桐谷達と一緒に倉庫に行った時、
皆の力を合わせロープをそう、ガチガチに、固めたのだ。
「なるほど…。それでは、健康な人ならまだしも怪我人には到底ドアを開けることはできないということに…」
白石の言う通りだ。
松葉杖の状態であのドアを開けることは不可能に近い。
いくら運動選手でも、その能力は腕ではなく足である。
「…ド、ドアは確認してなかった…」
百鬼の言葉を聞いた瞬間、桐谷が走り出す。
「どうしたんだ!?桐谷!」
「なんだか嫌な予感がする。倉庫へ行くよ」
急いで全員で倉庫へ行く。
桐谷の足の速さはとても追いつけないレベルだ。
息切れをしながらやっと、倉庫へと着く。
「え、と。それならまずドアを確認しないとですね」
儚火がドアへ近づく。
「あれ?ちゃんとロープで固められていますよ?」
近づくと、確かにロープが巻かれている。
入れるはずがないのだ。
「もし、まだ中に蒼太さんがいるとしたら…」
ローゼンの言葉に背筋が凍る。
もし、このロープが外れていて
伊織が中にいるのに知らずに誰かが閉めたとしたら…。
「…普通の人なら問題ない。窓があるから。しかし伊織の場合はどうだろうな」
急いで桐谷がロープを解く。
「…ロープが緩くなっている?」
桐谷がブツブツ何かを呟きながら、ドアを開ける。
「伊織さんッ!」
率先して入ったのは鑑だった。
それに続いてオレ達も中に入る。
しかし、どこにも伊織の姿はない。
「…あり得るとしたら、伊織様がここを出た後に閉めたとか…」
鑑の言いたいことは分かるが、どうしてもそれに賛成するには「怪我人」という存在が邪魔なのだ。